『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第二章 軍法

EP 13

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暗号受信(シグナル)
帝都日報、地下二階、資料室。
埃とカビの匂いが、坂上真一の「職場」だった。
彼が、昭和二年の金融恐慌の記事を「監査」していた、その時。
部屋の隅に設置された、埃をかぶった黒電話が、けたたましく鳴り響いた。
「……んあ?」
寝台で煙草をふかしていた老社員・古株が、億劫そうに受話器を取った。
「……はい、資料室……古株だが……」
坂上は、その「ノイズ」に意識を向けなかった。
彼にとって、この「墓場」にかかってくる電話は、存在しないデータと同(おな)じだった。
「……はあ? 雑誌社? ……写真?」
古株の、間延びした声が続く。
「……『帝国ホテル』の、『正面玄関』?
……はあ? 『来週の、金曜日(十一月十五日)』?
……『午前十時まで』に!?
……知るか、そんなもん! こっちの都合も……あ、おい! 切りやがった……」
ガチャン、と。
古株は、乱暴に受話器を置いた。
「……チッ。この忙しいのに、ワケのわからん女だ」
古株は、坂上の背中に、吐き捨てるように言った。
「おい、坂上。聞いてたか。
なんか知らん雑誌社の女から、『帝国ホテルの写真』だぁ?
『十一月十五日』の『午前十時まで』に要るんだとよ。
……ま、適当に、そこの山から探しとけ」
古株は、それだけ言うと、再び寝台にゴロリと横になり、坂上の返事など待たずに、いびきをかき始めた。
(…………)
坂上の、新聞をめくる手が、止まった。
彼の背中は、古株に向いたままだ。
(……雑誌社? 女?)
(……あの、声か?)
(……『帝国ホテル』)
(……『十一月十五日』)
(……『午前十時』)
彼の脳内で、その「非効率な伝言」の、ノイズが除去され、意味を持つ「データ」として再構成されていく。
(……薫君か!)
(……暗号(シグナル)だ!)
彼の血流が、加速した。
>  * 『ターゲット(山本)』の『出現場所』=帝国ホテル
>  * 『決行日時』=十一月十五日、午前十時

(……この日時、この場所で、何かが起きる。
いや、「彼女」が、山本五十六が、そこに「出現する」という「事実(データ)」を、掴んだ!)
坂上は、古株の寝息を確認すると、音を立てずに「武器庫(=新聞の山)」を漁り始めた。
彼が探すのは「帝国ホテルの写真」ではない。
来週の「政府高官 動静欄」の、予定原稿だ。
(……ない)
(……まだ、公式発表前か)
(ならば、これだ)
彼は、先月の「軍事予算委員会」の古い記事を引っ張り出した。
そこには、次の「折衝会議」の、予備日が、小さく記されていた。
(……あった。『陸海軍 共同 予算折衝 会議』)
(……出席者予定:山本五十六。
……そして)
坂上の目が、その、もう一人の名前の上で、止まった。
> 『陸軍側調整官: 川上鷹司 中佐』

(…………)
(……最悪のパターンだ)
彼の脳が、高速でシミュレーションを開始した。
 * 課題①:特高の監視を振り切り、資料室を脱出し、帝国ホテルに潜入する。
 * 課題②:山本五十六に接触する。
 * 最大の障害:川上鷹司が、同じ場所にいる。
(……いや)
坂上の口元に、あの、北支で竹下大尉を論破した時と同じ、冷たい「合理主義者」の笑みが浮かんだ。
(……川上が「いる」からこそ、チャンスがある)
(川上は、俺が、この「紙の墓場」で、無力な「飼い殺し」になったと、油断しきっている)
(その「非合理」な「油断」こそが、俺が突く、最大の「バグ」だ)
坂上は、立ち上がった。
彼は、埃だらけの棚の奥から、あの、分厚い『明治三十年 蚕糸業 統計報告書』を、引きずり出した。
その表紙裏に隠された、数枚の「爆弾(レポート)」を、汚れた指で、確認するように、そっと撫でた。
(……待っていろ、山本五十六。
そして、川上鷹司)
(貴様らの「精神論」を、完膚なきまでに破壊する『数字の爆弾』が、今、起爆シークエンスに入った)
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