『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第二章 軍法

EP 14

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非効率な「檻」の「バグ」
決行の日は、十一月十五日。
残された時間は、あと数日だった。
坂上真一は、帝都日報の地下、「紙の墓場」で、彼の「合理性」の全てを懸けた「作戦計画」を練っていた。
課題は、シンプルかつ、絶望的だった。
「どうやって、特高の監視を突破し、あの『爆弾』を帝国ホテルに持ち込むか」
彼は、この数日、もはや新聞を読んではいなかった。
彼は、この「檻」そのものを「監査」していた。
彼の「戦場」は、この地下二階の資料室。
「敵」は、正面玄関と裏口を固める、特高警察の監視員。
彼は、彼らの「非効率」なパターンを分析し始めていた。
(……監視は、二人一組(バディ)体制。十二時間交代)
(……日勤の班は、真面目だ。だが、夜勤の班は、明らかに練度が低い。三時間に一度、必ず一人がタバコを買いに、詰所を離れる)
(……だが、それでは不十分だ)
(俺が「消えた」と気づかれた瞬間、帝都全域に網が張られる)
(「脱走」では、ダメだ)
坂上の目が、この「墓場」の、もう一つの「システム」を捉えた。
それは、古株の老社員が、毎日、忌ま忌ましそうに愚痴をこぼす「作業」だった。
「……チッ。またか。埃っぽくて、かなわん」
毎朝、八時。
地下の搬入口に、一台のトラックが、轟音を立ててバックで入ってくる。
「廃品回収業者」のトラックだった。
この「紙の墓場」から出る、大量の「古紙(=整理済みのゴミ)」を、回収しに来るのだ。
坂上は、その「作業工程」を、イージス艦のレーダーのように分析した。
 * 07:50:特高の「日勤班」が、詰所に着任。
 * 08:00:廃品回収トラックが、地下搬入口に到着。
 * 08:05:古株が、面倒くさそうに、古紙が詰まった巨大な麻袋の山を、台車に乗せて搬入口に押していく。
 * 08:10:特高は、その作業を「無視」する。
(……これだ)
坂上の脳内に、「バグ」の文字が点灯した。
(特高の「監視対象」は、「坂上真一」という「人間」だ)
(彼らは、「帝都日報」という「組織の日常業務」には、一切注意を払っていない)
(……「古紙」として、このビルから「搬出」される「モノ」は、彼らの監視対象外だ)
坂上は、作戦計画を決定した。
(……十一月十五日、午前八時。
俺は、「人間」ではなく、「古紙」として、この「檻」を脱出する)
一方、早乙女薫もまた、彼女の「戦場」で、動いていた。
十一月十四日。決行前日。
彼女は、再び「体調不良」を理由に、陸軍省を早退した。
彼女の役割は、坂上の「脱出」を手伝うことではない。
彼女には、それが不可能だと分かっていた。
(……坂上さんは、来る)
(あの人は、必ず、あの「爆弾」を持って、帝国ホテルに現れる)
彼女の「任務」は、坂上が辿り着いた時、彼が山本五十六に接触できる、その「一瞬」を、確実に作り出すこと。
彼女は、銀座のデパートで、なけなしの金をはたき、地味だが、高級な「取材用」の万年筆と手帳を買った。
そして、自宅アパートで、偽造の「記者バッジ」を作っていた。
【東邦経済雑誌 記者 早乙女 薫】
父の書斎にあった、廃刊になった雑誌の名前だった。
(……これで、ホテルのロビーまでは入れる)
彼女は、陸海軍共同会議の取材に、他の「本物」の記者たちに紛れ込む算段だった。
(……明日)
薫は、震える手で、その「偽の武器」を握りしめた。
(……明日、この国の「非合理」に、「数字の爆弾」が、投下される)
十一月十四日、深夜。
坂上は、監視下の安アパートで、最後の準備をしていた。
彼は、あの『明治三十年 蚕糸業 統計報告書』――「爆弾」を内蔵した本――を、油紙で、丁寧に包んだ。
明日、これを「資料室」に持ち込み、「古紙」の麻袋に、自分と共に紛れ込ませる。
彼は、特高の監視に見せつけるように、いつも通りの時間に、部屋の明かりを消した。
だが、彼は寝ていない。
彼は、暗闇の中、目を開けたまま、イージス艦のCIC(戦闘指揮所)で、出撃前の最後の静寂に身を浸していた。
(……作戦開始は、明日08:00)
彼の心は、艦長として、完全に、静まっていた。
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