『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第二章 軍法

EP 21

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駒(こま)の査定(さてい)
坂上真一は、冷たいコンクリートの床に座り、意識を「省エネモード」に切り替えていた。
内務省 警保局、特高警察の独房。
消毒液の匂いが、彼の思考から「感情」という非効率なノイズを奪い去っていた。
(……作戦は、完了した)
(……フェイズ2は、山本五十六の『監査』)
彼は、逮捕されてから12時間が経過したが、一度も「尋問」を受けていなかった。
(……合理的ではない)
彼は、この「非効率な放置」こそが、水面下で、彼の「身柄」を巡る、熾烈な「政治的パワーゲーム」が始まった証拠だと、正確に分析していた。
その頃。
特高警察の本部の、ある一室。
特高第一課の課長である後藤は、胃の痛むような汗を、ハンカチで拭っていた。
彼の机には、二つの電話が、まるで威嚇し合うように置かれていた。
「……だから! 内務大臣からの『通達』だ! 昨夜、山本海軍次官から『国家安全保障に関わる』と、直々の要請があった!」
後藤が、目の前の男――陸軍憲兵隊の佐官――に、叫ぶように言った。
「……あの坂上という男は、『陸軍の管轄』である以前に、『国家の脅威』である可能性が……」
「ふざけるな!」
陸軍の佐官――川上の意を受けて派遣された男――が、机を叩いた。
「あの男は、北支で軍規を乱した、陸軍の**『反逆者』**だ! 帝国ホテルでの狼藉も、その一環に過ぎん!」
「だが、海軍は『彼が海軍次官を狙ったテロリスト』として、身柄の保全を……」
「ならば、尚更、陸軍の憲兵隊が引き取り、厳重に処罰する!」
後藤は、頭を抱えた。
彼は、板挟みだった。
陸軍は「殺せ」と言い、海軍は「手を出すな」と言う。
あの、坂上真一という「狂人」は、今や、陸海軍の代理戦争の「駒」そのものになっていた。
同じ朝。
陸軍省、嘱託タイピスト室。
早乙女薫は、血の気のない、青白い顔で、タイプライターに向かっていた。
彼女は、眠れなかった。
坂上が、あの後、どうなったのか。
彼女の「作戦」は、彼を「死」に追いやったのではないか。
「……早乙女君」
上司の、冷たい声が掛かった。
薫は、ビクリと、肩を震わせた。
「……課長室まで、来てくれ」
(……!)
心臓が、氷で掴まれたようだった。
(……バレた)
(……私が、ホテルにいたこと)
(……私が、坂上の「共犯者」だと……)
彼女は、震える足で、課長室の扉を開けた。
そこには、彼女の上司だけではなく、
あの、川上鷹司中佐の、副官が、
無表情な顔で、座っていた。
「……早乙女君」
副官が、書類から目も上げずに、尋ねた。
「君は、先日の北支派遣の折、『坂上真一』と、深く『接触』していた、との報告があるな」
「……」
薫は、声が出なかった。
「昨日も、『腹痛』で早退したとか」
副官は、そこで初めて、顔を上げ、薫を、蛇のような目で射抜いた。
「……奇遇だな。
昨日の、帝国ホテルの騒ぎと、同じ時間に」
(……終わった)
薫は、目の前が、真っ暗になった。
その頃、海軍省、次官室。
山本五十六は、静かだった。
彼の机の上には、坂上の「爆弾(レポート)」が、開かれたまま、置かれている。
コンコン、とノックが響いた。
「……入れ」
入ってきたのは、海軍の法務官だった。
「……閣下。お呼びでしょうか」
「うむ」
山本は、窓の外――宿敵である陸軍省の建物――を睨んだまま、言った。
「……『海軍軍属 特別任用令』というものがあったな」
「……は? あ、はい。有事の際など、民間の『特殊技能者』を、超法規的に、軍属として『採用』できる、古い条例ですが……」
法務官は、なぜ今、そんな埃をかぶった法律の話をするのか、理解できなかった。
山本は、ゆっくりと振り返った。
「……その『特殊技能者』を、一人、見つけた」
「……え?」
山本は、坂上のレポートを、指で、トン、と叩いた。
「この男は、『未来の戦争』の『シミュレーション』が、できる」
「……」
「これは、陸軍の『反逆者』でも、特高の『思想犯』でもない」
山本は、その目に、恐ろしいほどの「合理的」な光を宿していた。
「……これは、
海軍が、莫大な予算をかけてでも『雇う』べき、
『最高の、国家資源』だ」
「法務官」
山本は、命じた。
「内務省と、陸軍から、
『海軍の、新しい軍属』を、
『引き取る』ための、
……最も『効率的』な、法理論を、組み立てろ」
(……待っていろ、坂上真一)
山本は、心の中で、あの「狂人」に、語りかけていた。
(貴様の『非合理』な『賭け』は、
……俺が、『合理的』に、買い取った)
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