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第二章 軍法
EP 25
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顧問の「最初の要求」
坂上真一の指が、その埃をかぶったファイルの表紙で、止まった。
【八木・宇田アンテナ ニ関スル技術報告書】
(……馬鹿な)
(……これが、この「時代」の、この「場所」に、
……「埃をかぶって」眠っている?)
彼の、50歳のイージス艦長としての「知識」が、警報を鳴らした。
これは、21世紀の「常識」だ。
これは、「レーダー(電波探信儀)」――
遠方の敵を探知し、
天候や夜の「非合理」を、
「合理的」な「データ」に変える、
……まさに、「戦略兵器」の、「心臓部」そのものだった。
彼がファイルを開くと、そこには、東北大学の二人の学者による、難解な数式と、「指向性アンテナ」の基礎理論が、ただ、記されているだけだった。
「……どうだね、『顧問』君」
山本五十六が、まるで、解き方の分からない詰め将棋の盤を、坂上に示すかのように、言った。
「……その『紙切れ』は、どうにも、我が海軍の『非合理』な連中には、
……ただの『電波の玩具』にしか、
……見えん、らしい」
山本は、葉巻に火を点け、その「玩具」の「監査」を、坂上に丸投げした。
「……君の『合理的』な目では、どう見える?」
(……玩具?)
坂上の口元に、あの、冷たい「笑み」が、浮かんだ。
「……訂正します、次官閣下」
「……ほう?」
「これは、『玩具』ではない」
坂上は、その古い報告書のページを、一つ、めくった。
「これは、『目』です」
「……目?」
「夜でも、嵐でも、霧でも、
……敵を『見』る、絶対的な『目』です」
坂上は、立ち上がり、次官室の窓に描かれた、海軍自慢の戦艦「長門」の絵を、指さした。
「……貴官らが、信じて疑わない、
……その『大艦巨砲主義』という、
……非合理の極みである『精神論』を、
……過去の遺物に、変える」
彼は、山本に向き直った。
「……これは、『未来の盾』です。
……貴官が危惧する『航空機』から、
……艦隊と、本土を、
……守るための、
……唯一の、『合理的』な『システム』です」
山本は、葉巻を吹かすのを、忘れていた。
彼は、この「技術」の「可能性」には、気づいていた。
だが、「戦艦を過去にする『盾』」とまで、
この男のように、「即座に」、「断言」できる人間は、
この海軍省に、一人もいなかった。
「……よかろう」
山本は、心底、満足そうに、頷いた。
「……その『盾』を、君に作らせる。
それが、『特命技術 顧問』たる、君の最初の『任務』だ」
だが、山本は、現実の「壁」を、提示した。
「……だが、坂上君。
……言ったはずだ。『予算も、人も、権限も、ない』。
……艦隊派(=戦艦至上主義者)の連中……例えば、大林のような『老害』は、
……この『守り』の技術を、『姑息な玩具』と、笑い飛ばすだろう」
「……」
「君は、川上という『陸の敵』だけでなく、
……我が海軍の、『内なる非合理』とも、
……戦わねばならんぞ」
坂上は、動じなかった。
「『合理的』な『道具(リソース)』さえ頂ければ、
……『合理的』な『結果(データ)』を、
……お見せするだけです」
「……ほう。その『道具(リソース)』とは?」
坂上は、彼の「特命技術 顧問」としての、
「最初」の、そして「最重要」の「要求」を、
山本に、突きつけた。
顧問の最初の要求(コスト)
「……二つ、あります」
「……言ってみろ」
* 一つ目:廃棄される予定のリソース(技術者と作業場)
* 要求内容: 予算は不要とし、山本の権限で**「廃棄される予定の、非効率なリソース」**(埃をかぶった八木・宇田アンテナ、時代遅れと笑われている学者、役立たずと判断された実験機材など)を全て坂上に下すこと。
* 目的: それらの「ゴミ」を使って「兵器」を作り、合理的結果を示すため。
「…………」
山本は、その非合理な「合理性」に、言葉を失った。
* 二つ目:早乙女薫の身柄
* 要求内容: 陸軍省嘱託タイピストである「早乙女薫」の身柄を、川上中佐の圧力により特高の監視対象となっている現状から、「海軍」に引き抜くこと。
* 目的: 彼女を、政治的な戦場を動くための「目」と「耳」と「手足」とすること。
「……それが、
……私を『特命 技術 顧問』として『雇う』ための、
……『最低コスト(代償)』です」
山本五十六は、その、あまりにも「非人間的」なほどに「合理的」な男が、唯一見せた、「人間的」な、そして「非合理」なまでの「要求」に、心底、面白そうに、目を細めた。
「…………よかろう」
山本は、頷いた。
「……その『タイピストの女』も、
……君の、『技術顧問料(給与)』の一部として、
……ただちに『確保』しよう」
坂上真一の指が、その埃をかぶったファイルの表紙で、止まった。
【八木・宇田アンテナ ニ関スル技術報告書】
(……馬鹿な)
(……これが、この「時代」の、この「場所」に、
……「埃をかぶって」眠っている?)
彼の、50歳のイージス艦長としての「知識」が、警報を鳴らした。
これは、21世紀の「常識」だ。
これは、「レーダー(電波探信儀)」――
遠方の敵を探知し、
天候や夜の「非合理」を、
「合理的」な「データ」に変える、
……まさに、「戦略兵器」の、「心臓部」そのものだった。
彼がファイルを開くと、そこには、東北大学の二人の学者による、難解な数式と、「指向性アンテナ」の基礎理論が、ただ、記されているだけだった。
「……どうだね、『顧問』君」
山本五十六が、まるで、解き方の分からない詰め将棋の盤を、坂上に示すかのように、言った。
「……その『紙切れ』は、どうにも、我が海軍の『非合理』な連中には、
……ただの『電波の玩具』にしか、
……見えん、らしい」
山本は、葉巻に火を点け、その「玩具」の「監査」を、坂上に丸投げした。
「……君の『合理的』な目では、どう見える?」
(……玩具?)
坂上の口元に、あの、冷たい「笑み」が、浮かんだ。
「……訂正します、次官閣下」
「……ほう?」
「これは、『玩具』ではない」
坂上は、その古い報告書のページを、一つ、めくった。
「これは、『目』です」
「……目?」
「夜でも、嵐でも、霧でも、
……敵を『見』る、絶対的な『目』です」
坂上は、立ち上がり、次官室の窓に描かれた、海軍自慢の戦艦「長門」の絵を、指さした。
「……貴官らが、信じて疑わない、
……その『大艦巨砲主義』という、
……非合理の極みである『精神論』を、
……過去の遺物に、変える」
彼は、山本に向き直った。
「……これは、『未来の盾』です。
……貴官が危惧する『航空機』から、
……艦隊と、本土を、
……守るための、
……唯一の、『合理的』な『システム』です」
山本は、葉巻を吹かすのを、忘れていた。
彼は、この「技術」の「可能性」には、気づいていた。
だが、「戦艦を過去にする『盾』」とまで、
この男のように、「即座に」、「断言」できる人間は、
この海軍省に、一人もいなかった。
「……よかろう」
山本は、心底、満足そうに、頷いた。
「……その『盾』を、君に作らせる。
それが、『特命技術 顧問』たる、君の最初の『任務』だ」
だが、山本は、現実の「壁」を、提示した。
「……だが、坂上君。
……言ったはずだ。『予算も、人も、権限も、ない』。
……艦隊派(=戦艦至上主義者)の連中……例えば、大林のような『老害』は、
……この『守り』の技術を、『姑息な玩具』と、笑い飛ばすだろう」
「……」
「君は、川上という『陸の敵』だけでなく、
……我が海軍の、『内なる非合理』とも、
……戦わねばならんぞ」
坂上は、動じなかった。
「『合理的』な『道具(リソース)』さえ頂ければ、
……『合理的』な『結果(データ)』を、
……お見せするだけです」
「……ほう。その『道具(リソース)』とは?」
坂上は、彼の「特命技術 顧問」としての、
「最初」の、そして「最重要」の「要求」を、
山本に、突きつけた。
顧問の最初の要求(コスト)
「……二つ、あります」
「……言ってみろ」
* 一つ目:廃棄される予定のリソース(技術者と作業場)
* 要求内容: 予算は不要とし、山本の権限で**「廃棄される予定の、非効率なリソース」**(埃をかぶった八木・宇田アンテナ、時代遅れと笑われている学者、役立たずと判断された実験機材など)を全て坂上に下すこと。
* 目的: それらの「ゴミ」を使って「兵器」を作り、合理的結果を示すため。
「…………」
山本は、その非合理な「合理性」に、言葉を失った。
* 二つ目:早乙女薫の身柄
* 要求内容: 陸軍省嘱託タイピストである「早乙女薫」の身柄を、川上中佐の圧力により特高の監視対象となっている現状から、「海軍」に引き抜くこと。
* 目的: 彼女を、政治的な戦場を動くための「目」と「耳」と「手足」とすること。
「……それが、
……私を『特命 技術 顧問』として『雇う』ための、
……『最低コスト(代償)』です」
山本五十六は、その、あまりにも「非人間的」なほどに「合理的」な男が、唯一見せた、「人間的」な、そして「非合理」なまでの「要求」に、心底、面白そうに、目を細めた。
「…………よかろう」
山本は、頷いた。
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