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第二章 軍法
EP 35
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次なる「バグ」は、空にあり
昭和11年、初頭。
築地の「掃き溜め」研究所は、海軍内でも「無視できない場所」になりつつあった。
戦艦「長門」でのレーダー実験成功は、守旧派(大林一派)を黙らせるには十分だったが、彼らがそれを「歓迎」したわけではない。むしろ、「余計な仕事を増やしおって」という現場の反発は強まっていた。
だが、坂上真一は、そんな政治的摩擦など意に介していなかった。
彼は、すでに「次」を見ていた。
「……見つけるだけでは、片手落ちだ」
坂上は、壁に貼られた日本地図と、航空機の生産グラフを睨みながら、黒飴を噛み砕いた。
「レーダーで敵機を早期発見しても、それを『迎撃(インターセプト)』する手段がなければ、ただの『死の宣告』を早く聞くだけになる」
「迎撃……戦闘機のことですか?」
早乙女薫が、淹れたての(少しだけマシになった)コーヒーをデスクに置きながら聞いた。
彼女はすっかり、この研究所の「マネージャー」として板についていた。資金管理、資材調達、そして坂上の健康管理まで、彼女がいなければこの「掃き溜め」は三日で崩壊するだろう。
「そうだ。海軍航空本部が、次期主力戦闘機の開発を進めている」
坂上は、一枚の極秘資料を薫に見せた。
【十二試(じゅうにし)艦上戦闘機 計画要求書】
後の、「零式艦上戦闘機(ゼロ戦)」となる機体の開発計画だ。
「要求性能……速度、航続距離、格闘戦能力。全てにおいて世界の水準を凌駕している」
坂上は、冷ややかに言った。
「だが、ここには、最も重要な『スペック』が欠落している」
「欠落? 何が足りないんですか?」
「『生存性(サバイバリティ)』だ」
坂上は、吐き捨てるように言った。
「防弾鋼板なし。燃料タンクの自動防漏(セルフシーリング)装置なし。
……これでは、一発被弾しただけで火達磨だ。
パイロットを『使い捨ての部品』として扱っている設計思想(バグ)だ」
坂上の脳裏に、21世紀の記憶が蘇る。
ラバウルで、ソロモンで、次々と火を噴いて落ちていく日本の若者たち。
そして、その中には、彼の祖父・榮一もいるかもしれない。
「……許せん」
坂上は、資料を握りつぶした。
「この『バグ』は、レーダーよりも致命的だ。
俺が、直接修正(デバッグ)しに行く」
「どこへ?」
「名古屋だ。三菱重工の設計室へ行く」
昭和11年、初頭。
築地の「掃き溜め」研究所は、海軍内でも「無視できない場所」になりつつあった。
戦艦「長門」でのレーダー実験成功は、守旧派(大林一派)を黙らせるには十分だったが、彼らがそれを「歓迎」したわけではない。むしろ、「余計な仕事を増やしおって」という現場の反発は強まっていた。
だが、坂上真一は、そんな政治的摩擦など意に介していなかった。
彼は、すでに「次」を見ていた。
「……見つけるだけでは、片手落ちだ」
坂上は、壁に貼られた日本地図と、航空機の生産グラフを睨みながら、黒飴を噛み砕いた。
「レーダーで敵機を早期発見しても、それを『迎撃(インターセプト)』する手段がなければ、ただの『死の宣告』を早く聞くだけになる」
「迎撃……戦闘機のことですか?」
早乙女薫が、淹れたての(少しだけマシになった)コーヒーをデスクに置きながら聞いた。
彼女はすっかり、この研究所の「マネージャー」として板についていた。資金管理、資材調達、そして坂上の健康管理まで、彼女がいなければこの「掃き溜め」は三日で崩壊するだろう。
「そうだ。海軍航空本部が、次期主力戦闘機の開発を進めている」
坂上は、一枚の極秘資料を薫に見せた。
【十二試(じゅうにし)艦上戦闘機 計画要求書】
後の、「零式艦上戦闘機(ゼロ戦)」となる機体の開発計画だ。
「要求性能……速度、航続距離、格闘戦能力。全てにおいて世界の水準を凌駕している」
坂上は、冷ややかに言った。
「だが、ここには、最も重要な『スペック』が欠落している」
「欠落? 何が足りないんですか?」
「『生存性(サバイバリティ)』だ」
坂上は、吐き捨てるように言った。
「防弾鋼板なし。燃料タンクの自動防漏(セルフシーリング)装置なし。
……これでは、一発被弾しただけで火達磨だ。
パイロットを『使い捨ての部品』として扱っている設計思想(バグ)だ」
坂上の脳裏に、21世紀の記憶が蘇る。
ラバウルで、ソロモンで、次々と火を噴いて落ちていく日本の若者たち。
そして、その中には、彼の祖父・榮一もいるかもしれない。
「……許せん」
坂上は、資料を握りつぶした。
「この『バグ』は、レーダーよりも致命的だ。
俺が、直接修正(デバッグ)しに行く」
「どこへ?」
「名古屋だ。三菱重工の設計室へ行く」
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