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第三章 大和
EP 2
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渡洋爆撃の悲劇
昭和12年8月。
連日のように、「海軍航空隊、渡洋爆撃敢行」「赫々たる戦果」というニュースが紙面を踊った。
国民は熱狂した。海を越えて敵の首都を爆撃する。それは、世界でも類を見ない壮挙だったからだ。
だが、築地の「掃き溜め」研究所に届く「生データ」は、新聞記事とは真逆の、地獄絵図だった。
「……本日ノ未帰還機、四機」
早乙女薫が、受信した電文を読み上げながら、声を震わせた。
「被弾ニヨリ発火、空中分解……」
「……またか」
坂上は、海図の上に赤いバツ印を付けた。
地図の上は、すでに赤い印で埋め尽くされようとしていた。
九六式陸攻。
その優美な葉巻型の機体は、坂上の懸念通り、あまりにも脆かった。
中国空軍の旧式戦闘機(カーチス・ホーク)の機銃掃射を受け、主翼のタンクに一発でも被弾すれば、瞬く間にガソリンが引火し、巨大な松明(たいまつ)となって墜ちていく。
現場のパイロットたちは、自嘲を込めて、自分たちの機体をこう呼んでいた。
『一式ライター』。
一発で火がつく、という意味だ。(※史実では一式陸攻の別名だが、ここでは九六式にも同様の構造的欠陥があることを強調する)
「……非効率だ。あまりにも、非効率だ」
坂上は、拳を握りしめ、震えていた。
「熟練の搭乗員(ペア)七名が、たった一機の旧式戦闘機に焼かれる。
育成にかけた時間とコストが、一瞬で灰になる。
……これが、川上の望んだ『消耗戦』か」
「坂上さん……」
薫が、悲痛な面持ちで一枚の手紙を差し出した。
「……これ。海軍省の私書箱経由で、届きました」
差出人の名前を見て、坂上の動きが止まった。
【坂上 榮一】
彼の祖父。
若き日の、海軍航空隊員。
昭和12年8月。
連日のように、「海軍航空隊、渡洋爆撃敢行」「赫々たる戦果」というニュースが紙面を踊った。
国民は熱狂した。海を越えて敵の首都を爆撃する。それは、世界でも類を見ない壮挙だったからだ。
だが、築地の「掃き溜め」研究所に届く「生データ」は、新聞記事とは真逆の、地獄絵図だった。
「……本日ノ未帰還機、四機」
早乙女薫が、受信した電文を読み上げながら、声を震わせた。
「被弾ニヨリ発火、空中分解……」
「……またか」
坂上は、海図の上に赤いバツ印を付けた。
地図の上は、すでに赤い印で埋め尽くされようとしていた。
九六式陸攻。
その優美な葉巻型の機体は、坂上の懸念通り、あまりにも脆かった。
中国空軍の旧式戦闘機(カーチス・ホーク)の機銃掃射を受け、主翼のタンクに一発でも被弾すれば、瞬く間にガソリンが引火し、巨大な松明(たいまつ)となって墜ちていく。
現場のパイロットたちは、自嘲を込めて、自分たちの機体をこう呼んでいた。
『一式ライター』。
一発で火がつく、という意味だ。(※史実では一式陸攻の別名だが、ここでは九六式にも同様の構造的欠陥があることを強調する)
「……非効率だ。あまりにも、非効率だ」
坂上は、拳を握りしめ、震えていた。
「熟練の搭乗員(ペア)七名が、たった一機の旧式戦闘機に焼かれる。
育成にかけた時間とコストが、一瞬で灰になる。
……これが、川上の望んだ『消耗戦』か」
「坂上さん……」
薫が、悲痛な面持ちで一枚の手紙を差し出した。
「……これ。海軍省の私書箱経由で、届きました」
差出人の名前を見て、坂上の動きが止まった。
【坂上 榮一】
彼の祖父。
若き日の、海軍航空隊員。
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