『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 3

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祖父からの手紙
​坂上は、震える指で封を切った。
中に入っていたのは、検閲をすり抜けたのか、あるいは検閲官が見逃したのか、乱暴な字で書かれた短い手紙だった。
​『坂上 顧問殿
突然の手紙、失礼致します。
自分は今、上海の前線基地におります。
毎日、空を見上げています。
九州から飛んできた陸攻隊が、ボロボロになって帰ってくるのを。
あるいは、帰ってこないのを。
​昨日は、同期の友人が乗った機体が、目の前で燃え尽きました。
パラシュートも開かず、火の玉になって落ちていきました。
​顧問殿。
貴方は以前、言いましたね。「生き残れ」と。
ですが、どうすれば生き残れるのですか?
我々の乗る飛行機は、紙細工です。
敵の弾を一発貰えば、それでおしまいです。
​悔しいです。
我々の命は、マッチ棒よりも軽いのですか。
この国は、我々を守る気がないのですか。』
​紙面には、インクの滲みがあった。
涙か、あるいは雨か。
​坂上は、手紙を握りしめたまま、天井を仰いだ。
50歳の精神を持つ彼にとって、10代後半の祖父は、守るべき「子供」であり、同時に「未来」そのものだった。
​「……守る気がないわけじゃない」
坂上は、誰にともなく呟いた。
「守る『力(リソース)』がないんだ。
……だが、そんな言い訳は、死んでいく彼らには通用しない」
​坂上は、決意したように立ち上がった。
その目には、冷たい鬼火のような光が宿っていた。
​「薫君。名古屋に連絡だ」
「え? 三菱の、堀越技師ですか?」
​「そうだ。
……『十二試艦戦(ゼロ戦)』の開発を、急がせる。
どんな手を使ってでもだ」
​坂上は、壁に貼られた開発スケジュール表を、ペンで乱暴に書き直した。
「陸攻の悲劇を無駄にはしない。
『防弾なき爆撃機』がどれほど脆いか、海軍上層部も骨身に染みたはずだ。
……今なら、通る」
​「何を、通すんですか?」
​「俺の『要求(ワガママ)』だ」
坂上は、黒飴の袋を掴んだ。
「ゼロ戦に、更なる『生存装備』を詰め込む。
そして、この『悲劇』を止めるための、最強の『護衛(エスコート)』を完成させる」
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