『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 12

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最後の蛇口
​昭和16年(1941年)、夏。
坂上の予測通り、歴史は最悪のコースを辿った。
日本軍の南部仏印進駐を受け、アメリカはついに「対日石油全面禁輸」を発動した。
​日本の「蛇口」は、完全に閉められた。
海軍の石油備蓄は、訓練を切り詰めても、あと二年分しかない。
​「……詰んだな」
築地の研究所で、坂上は新しい海図を広げていた。
そこには、ハワイ・オアフ島の詳細な地形図と、真珠湾の水深データが書き込まれていた。
​「軍令部はパニックだ」
坂上は、淡々と言った。
「『座して死を待つよりは、打って出るべし』。
ジリ貧になる前に、乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負に出る。
……彼らの『非合理』な論理では、開戦はもはや『合理的』な帰結になった」
​「……戦争、ですね」
薫が、タイプライターの手を止めた。
「本当に、アメリカと……」
​「ああ。だが、勝つための戦争じゃない」
坂上は、海図の上の「真珠湾」に、赤いペンで丸をつけた。
「『負けない』ための、あるいは『マシな講和』に持ち込むための、ギリギリの戦争だ」
​その夜。
坂上のもとに、山本五十六からの極秘の呼び出しがあった。
場所は、停泊中の戦艦「長門」の長官公室。
​「……坂上君」
山本は、以前よりも白髪が増え、やつれていた。
だが、その目には、悲壮な決意の光があった。
​「……私は、決めたよ」
山本は、一枚の作戦草案をテーブルに置いた。
「もはや、開戦は避けられん。
ならば、私が指揮を執る。
……開戦初頭、全航空兵力を結集し、ハワイ真珠湾を叩く」
​「……Z作戦、ですね」
坂上は、その草案を手に取った。
「反対はしません。
正面から艦隊決戦を挑めば、物量で押しつぶされます。
勝機があるとしたら、奇襲による『出鼻くじき』だけです」
​「だが」
坂上は、ペンを取り出し、山本の作戦案に、容赦なく赤を入れた。
​「……目標が、甘い」
「何?」
​「貴官の案では、主目標が『戦艦』になっている」
坂上は、真珠湾に停泊する戦艦群(バトルシップ・ロウ)を指差した。
「戦艦など、沈めても意味はない。
アメリカはすぐに引き上げるか、新しいのを作るだけだ。
……叩くべきは、こっちだ」
​坂上は、港の奥にある「巨大なタンク群」と、「ドック(修理施設)」、そして「空母」に、二重丸をつけた。
​「石油タンクと、修理ドック。
これを破壊すれば、アメリカ艦隊はハワイを基地として使えなくなる。
本土(サンディエゴ)まで下がらざるを得ない。
……その『時間』こそが、日本が生き残るための唯一のリソースだ」
​「……兵站(ロジスティクス)攻撃か」
山本が唸った。
「地味だが……確かに、痛いな」
​「派手な戦果はいりません」
坂上は言った。
「アメリカの『足』を折ってください。
……そのための『道具』は、私が用意します」
​「道具?」
​「浅瀬でも使える『特製魚雷』。
そして、水平爆撃の精度を上げる『自動照準器』。
……すべて、この『掃き溜め』で作ってみせます」
​昭和16年、冬。
運命の12月8日に向けて、坂上真一の最後の「魔改造」が始まろうとしていた。
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