『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 16

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運命の夜明け
​昭和16年12月8日。ハワイ時間、12月7日早朝。
オアフ島北方の海上。
​空母「赤城」の飛行甲板は、エンジンの轟音と、排気ガスの青白い炎に包まれていた。
第一次攻撃隊、183機。
​その中に、坂上榮一の乗る「零式艦上戦闘機」もあった。
彼の機体は、坂上が強引にねじ込んだ「防弾ガラス」と「自動消火装置」によって、他の機体よりもわずかに重かった。
だが、堀越二郎が削り出した極限の空力ボディと、整備員たちが磨き上げたエンジンは、その重量を感じさせない軽快な音を奏でていた。
​「……行くぞ」
榮一は、首に巻いた「咽喉マイク」の感触を確かめ、スロットルを押し込んだ。
​提督・南雲忠一(なぐも ちゅういち)が見守る中、攻撃隊が次々と発艦していく。
彼らが目指すのは、戦艦ではない。
坂上真一が、赤ペンで二重丸をつけた場所。
​『真珠湾の貯油施設(タンクファーム)』
『乾ドック』
『航空基地』
​そして、もし在泊していれば『空母』。
​「……トラ・トラ・トラ(ワレ奇襲ニ成功セリ)」
​その暗号が、地球の裏側の東京に届いたのは、日本時間の午前3時過ぎだった。
​築地の研究所。
坂上と薫は、受信機の前で、その時を待っていた。
​「……入電!」
通信員が叫ぶ。
「『トラ・トラ・トラ』! 奇襲成功!」
​「……やった!」
薫が歓声を上げる。
​だが、坂上の顔は強張ったままだった。
「浮かれるな。本番はここからだ」
彼は、ヘッドセットを耳に押し当てた。
​「……戦果確認。
第一次攻撃隊、戦艦群を無視(パス)。
……予定通り、フォード島の航空基地と、ヒッカム飛行場を制圧」
​「……第二次攻撃隊、突入。
目標、タンク群」
​ラジオからは、大本営発表の勇ましい軍艦マーチが流れ始めた。
『帝国陸海軍は、本八日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり……』
​国民は、熱狂した。
「やった!」「米英ごとき何するものぞ!」
提灯行列が、また銀座を埋め尽くすだろう。
​だが、坂上は、その熱狂の裏で、冷徹に「破壊のデータ」を集計していた。
​「……タンクエリア、炎上確認。黒煙により視界不良」
「……ドック、水門を破壊。使用不能」
​「よし」
坂上は、小さく拳を握った。
「これで、アメリカ艦隊は、ハワイを前線基地として使えなくなる。
補給線を、サンディエゴ(本土)まで後退させざるを得ない」
​それは、日本が喉から手が出るほど欲しかった「時間」を稼ぐための、
地味だが、致命的な一撃だった。
​「……被害は?」
薫が、恐る恐る尋ねる。
​「……未帰還機、現在確認中だが……」
坂上は、送られてくるデータを見て、目を見開いた。
​「……少ない」
史実では29機が失われた。
だが、今のデータでは、その半分以下だ。
「防弾装備が効いている。被弾しても、還ってきている」
​坂上は、椅子の背もたれに深く体を預け、大きく息を吐いた。
「……榮一も、無事か」
​第一段階、完了。
だが、これは「終わりの始まり」に過ぎない。
眠れる巨人を、叩き起こしてしまったのだ。
​「……薫君」
坂上は、窓の外の朝焼けを見た。
「これからが、本当の地獄だ。
リソース(国力)が尽きるまでの、秒読み(カウントダウン)が始まった」
​開戦のニュースに沸く帝都の空の下、
坂上真一だけが、来るべき「破滅」と、それを回避するための「細い糸」を見つめていた。
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