『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 23

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見えざる魔手(ファースト・コンタクト)
​昭和17年6月5日、午前4時30分。
ミッドウェー沖の空は、まだ夜明け前の群青色に沈んでいた。
​「……第一次攻撃隊、発艦開始」
​空母「赤城」の飛行甲板で、指揮官が旗を振る。
友永丈市(ともなが じょういち)大尉率いる108機の攻撃隊が、爆音とともに次々と暁の空へ吸い込まれていく。
彼らの任務は、ミッドウェー島の米軍基地を叩き、上陸部隊の道を開くことだ。
​その勇壮な光景を、後方20キロに位置する戦艦「大和」のCIC(戦闘指揮所)で、坂上真一はラジオの音声として聞いていた。
​「……始まったな」
坂上は、マグカップのコーヒーを一口啜った。
「これで、我々は『手』を出した。
ミッドウェーを殴った瞬間、こちらの位置は完全に露呈する」
​「敵機動部隊は……まだ見えませんね」
早乙女薫が、レーダースコープと海図を交互に見ながら言った。
「索敵機からの報告もありません」
​「奴らは、まだ隠れている」
坂上は、海図の北東方向をペンで叩いた。
「俺たちがミッドウェーに夢中になっている隙に、横っ腹を食い破るために」
​午前7時。
運命の歯車が、軋みを上げて回り始めた。
​史実では、この時間帯に「利根4号機」という重巡洋艦の偵察機が、カタパルトの故障で発進が遅れ、それが敵艦隊発見の遅れ――ひいては敗北の直接原因となった。
​「……『利根』より入電」
大和CICの通信員が報告する。
「4号機、カタパルト故障により発進遅延。……現在、復旧作業中とのこと」
​「……やはり、起きたか」
坂上は、冷ややかに笑った。
「歴史の修正力(バグ)というやつだ。
肝心な時に、肝心な機械が壊れる。
……だが、想定内だ」
​坂上は、マイクのスイッチを入れた。
「……こちら大和CIC。
『利根』4号機は無視しろ。
……先行させている『彩雲(さいうん)』の周波数に合わせろ」
​『彩雲』。
坂上が開発を急がせた、最高速度600キロを超える海軍最速の偵察機。
その試作機二機が、すでに夜明け前から、敵艦隊の予想海域へと飛んでいた。
​「……感度、良好」
薫が、ヘッドセットを押さえる。
「彩雲1番機より、入電!
……『敵艦隊ラシキモノ見ユ』!」
​CICの空気が凍りついた。
​「位置は?」
「ミッドウェーより方位10度、距離240海里!」
​「……ドンピシャだ」
坂上は、海図に赤いピンを突き立てた。
史実より、約30分早い発見。
そして、その位置は、坂上の予測通りだった。
​「……報告を続けさせろ。
空母がいるかどうかが重要だ」
​数分後、彩雲からの絶叫のような報告が届いた。
『……空母、三隻!
サラトガ型(おそらくエンタープライズ、ホーネット)、およびヨークタウン型!
……甲板上ニ、攻撃隊ノ姿ナシ!』
​「……!!」
同席していた山本五十六が、椅子から立ち上がった。
「攻撃隊がいない……だと?」
​「……すでに、発艦した後だということです」
坂上は、即座に結論を下した。
「奴らは、こちらの攻撃隊がミッドウェーに向かったのを確認し、
その『留守』を狙って、全戦力を発艦させた。
……来るぞ」
​同時刻。
空母「赤城」の艦橋。
南雲忠一中将は、混乱の渦中にあった。
​ミッドウェーを空襲した友永隊から、「第二次攻撃ノ要アリ(もう一度爆撃が必要)」との報告が入っていた。
南雲は、待機していた攻撃隊の兵装を、対艦用の「魚雷」から、対地用の「爆弾」へ転換するよう命じたばかりだった。
​そこへ、「敵空母発見」の報が飛び込んできたのだ。
​「……何だと!?」
南雲は絶句した。
「敵空母が近くにいるのか!
ならん! 今すぐ爆弾を魚雷に戻せ!
艦隊攻撃へ切り替える!」
​甲板と格納庫は、大パニックに陥った。
重い爆弾を外し、また魚雷を積み込む。
整備員たちが走り回り、外した爆弾が格納庫にゴロゴロと転がる。
まさに、「火薬庫の中で火遊び」をするような状態。
これが、史実の「運命の5分間」を招いた最大の原因だった。
​その時。
「赤城」の通信室に、割り込み通信(インタラプト)が入った。
発信源は、後方の戦艦「大和」。
​『……南雲長官。大和CIC、坂上です』
​「……顧問か! 今、取り込み中だ!」
南雲が怒鳴る。
​『兵装転換を、中止してください』
坂上の声は、氷のように冷徹だった。
​「何だと!? 敵空母がいるんだぞ! 魚雷でなくては……」
​『間に合いません』
坂上は断言した。
『今、転換を始めれば、完了までに1時間はかかる。
……その間に、我々は死にます』
​「……?」
​『大和のレーダーが、捕捉しました』
坂上は、CICのオシロスコープを睨みつけながら言った。
そこには、東の空から押し寄せる、巨大な「雲」のような反応が映し出されていた。
​『方位080。距離180キロ。
……敵の大編隊です。数は100以上。
……到達まで、あと30分』
​「……なっ!」
南雲が空を見上げた。まだ何も見えない。雲と水平線だけだ。
だが、後方の「大和」の巨大アンテナだけが、その死神の姿を捉えていた。
​『これは「攻撃」の時間ではありません』
坂上の声が、艦橋に響き渡る。
​『……「防御」の時間です。
攻撃隊の発艦は諦めてください。
甲板上の機体は、すべて退避させるか、海に捨ててください。
……そして、上空の直衛戦闘機(ゼロ戦)を、全機、発艦させてください』
​「……攻撃隊を捨てろと言うのか!」
「捨てなければ、艦(フネ)ごと燃えます!」
​坂上の怒声が、南雲の迷いを断ち切った。
​『……敵は、来ます。
ドーリットルの時のような、甘い空襲ではありません。
……アメリカ海軍の、本気の殺意が来ます』
​昭和17年6月5日、午前7時30分。
ミッドウェー海戦の勝敗を決する、運命の「迎撃戦」が始まろうとしていた。
日本海軍が初めて経験する、レーダー管制による艦隊防空戦。
その成否は、坂上真一という「脳」と、大和という「システム」に委ねられた。
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