『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

文字の大きさ
86 / 94
第三章 大和

EP 24

しおりを挟む
見えざる指揮棒
​昭和17年6月5日、午前7時50分。
空母「赤城」の飛行甲板は、かつてない緊張に包まれていた。
​「……攻撃隊の再装填、中止!
全機、甲板下の格納庫へ退避させろ!」
​南雲忠一の怒声が飛ぶ。
整備員たちが、悲鳴のような声を上げながら、爆弾を抱えたままの九七式艦攻をエレベーターへと押し込む。
代わりに、エレベーターから上がってくるのは、銀色に輝く翼――零式艦上戦闘機(ゼロ戦)だ。
​「……直衛隊(CAP)、発艦急げ!」
源田実(げんだ みのる)航空参謀が、血走った目で叫ぶ。
「全機、あがれ! 敵は目の前だ!」
​戦艦「大和」、CIC。
坂上真一は、ヘッドセット越しに、上空の直衛隊長に直接指示を送っていた。
​「……こちら大和CIC。
直衛隊長、聞こえるか」
​『……こちら白根(直衛隊長)。感度良好。
……敵はどこだ。雲ばかりで見えん』
​以前の日本海軍なら、ここで「見張り員の報告待ち」になり、敵を目視した時には手遅れになっていただろう。
だが、今の彼らには「神の目」がついている。
​「……方位090(真東)。距離40キロ。
高度、低し。海面すれすれに来るぞ」
坂上は、レーダーの輝点を読み上げた。
米軍の第一波、雷撃隊(TBDデバステーター)だ。彼らは魚雷を抱いているため、低空を這うように飛んでくる。
​「……了解」
白根隊長の声には、戦慄と、そして感謝が混じっていた。
見えない敵の位置を教えてくれる。それがどれほどの安心感か。
​『……全機、突っ込むぞ! 高度を下げろ!』
​数分後。
雲の下で、一方的な殺戮が始まった。
低速で直進する米軍雷撃機に対し、待ち構えていたゼロ戦隊が、上空から襲いかかったのだ。
​『……敵機、撃墜!』
『ボロいぞ! 相手はカモだ!』
​無線から歓喜の声が上がる。
米軍雷撃隊は、護衛戦闘機とはぐれ、裸同然だった。彼らは日本の空母を見ることもなく、次々と海面に叩きつけられていく。
​「……勝った!」
大和CICの通信員たちが色めき立つ。
「敵雷撃隊、壊滅! 被害なし!」
​だが、坂上だけは、決して笑わなかった。
彼は、レーダーの画面から目を離さず、さらに鋭い視線を「高高度」に向けていた。
​「……浮かれるな」
坂上の冷たい声が、CICの熱狂を冷やした。
「これは『囮(おとり)』だ。
低空に気を取らせておいて、本命が上から来る」
​史実のミッドウェー海戦の敗因。
それは、直衛のゼロ戦がすべて「低空の雷撃機」に引き寄せられ、上空がガラ空きになった隙を、急降下爆撃機(SBDドーントレス)に突かれたことだった。
​「……薫君。第二波の反応は?」
「……あります!」
薫が叫ぶ。
「方位080! 距離30キロ!
……高度、高い! 5000メートル以上!」
​「……来たな、死神め」
坂上は、即座にマイクに向かって叫んだ。
​「……全機に通達!
低空の敵は捨て置け!
……上昇しろ! 急げ!
頭上を取られているぞ!」
​上空、高度5000メートル。
米空母エンタープライズ所属、マクラスキー少佐率いる急降下爆撃隊は、雲の切れ間から下の海面を覗き込んでいた。
​「……いたぞ。ジャップの空母だ」
「赤城」「加賀」「蒼龍」。
日本の虎の子が、無防備な甲板を晒している。
周囲のゼロ戦は、低空の雷撃隊を追い回すのに夢中で、こちらには気づいていない。
​(……勝った)
マクラスキーは、操縦桿を倒し、急降下の体勢に入ろうとした。
その時だった。
​『……隊長! 9時方向!』
列機のパイロットが叫んだ。
​「……なっ!?」
マクラスキーは息を呑んだ。
雲の中から、猛烈な勢いで上昇してくる機影があった。
一機や二機ではない。十機以上のゼロ戦が、まるで「待ち構えていた」かのように、彼らの進路を塞ぐ壁となって現れたのだ。
​坂上の指示で、あらかじめ「高高度待機」させておいた予備の小隊だった。
​「……くそッ! バレていたのか!」
マクラスキーは舌打ちした。
奇襲は成立しない。
彼らは、爆撃コースに入る前に、ゼロ戦との空戦(ドッグファイト)を強いられた。
​空母「赤城」艦上。
南雲忠一は、空を見上げていた。
遥か上空で、曳光弾が飛び交い、黒い煙が引かれている。
本来なら、今頃、自分たちの頭上に爆弾が降り注いでいたはずの光景だ。
​「……防いだのか」
南雲は、汗ばんだ手で手すりを握りしめた。
「あの『顧問』め……。本当に、すべて見えているというのか」
​だが、米軍の物量は、坂上の計算をも凌駕しようとしていた。
ゼロ戦の壁をすり抜けた数機のドーントレスが、決死の覚悟で急降下に入ったのだ。
​「……敵機、急降下!」
見張り員が絶叫する。
​「……撃てェッ!」
「赤城」の対空機銃が一斉に火を噴く。
​ヒュオオオオ……!
風切り音と共に、500キロ爆弾が投下される。
​ズガアアアアン!!
​巨大な水柱が、「赤城」の至近距離に上がった。
艦が大きく揺れる。
海水が甲板に降り注ぐ。
​「……被害は!?」
「至近弾! 左舷後方に破孔!
……ですが、直撃はありません! 機関、無事!」
​もし、あの時、甲板に爆弾や魚雷が転がっていたら。
この至近弾の衝撃だけで、誘爆を起こしていただろう。
だが、今は甲板はクリアだ。
​「……助かった」
源田実が、へなへなと座り込んだ。
「運命の5分間」は、坂上の情報と準備によって、際どいところで回避されたのだ。
​大和、CIC。
「……第一波、および第二波、撃退」
薫の報告に、安堵の溜息が漏れる。
「赤城、加賀、共に健在。……被害は軽微です」
​「……よし」
坂上は、深く息を吐き、黒飴を口に入れた。
甘さが、疲弊した脳に染み渡る。
​「だが、これで終わりじゃない。
敵の空母はまだ無傷だ」
​坂上は、海図の上の「敵空母」の駒を睨んだ。
「防御(ディフェンス)のターンは終わった。
……次は、攻撃(オフェンス)だ」
​彼は、山本五十六に向き直った。
「長官。
敵の攻撃隊が帰投し、着艦作業で動きが止まる瞬間。
……そこが、奴らの死に時です」
​山本は、静かに頷いた。
「……二航戦(飛龍、蒼龍)に打電。
全機発艦。
……敵空母を、海の藻屑にせよ」
​昭和17年6月5日、午前9時。
歴史を変えたミッドウェーの海で、今度は日本軍の「反撃(カウンター)」が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...