『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 26

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学習する巨人
​昭和17年(1942年)6月下旬。ハワイ、真珠湾。
復旧中のドックには、黒く焼け焦げた痕跡がまだ生々しく残っていたが、司令部ビルの地下では、静かな、しかし劇的な変化が起きていた。
​太平洋艦隊司令長官、チェスター・ニミッツ大将の執務室。
そこには、情報参謀のエドウィン・レイトンと、暗号解読班のジョセフ・ロシュフォートが立っていた。
彼らの表情は、敗北の悔しさよりも、ある種の「戦慄」に彩られていた。
​「……間違いないのか」
ニミッツが、分厚い報告書を机に叩きつけた。
「ジャップの戦闘機(ゼロ)が、防弾装備を持っていたというのは」
​「はい、長官」
レイトンが答えた。
「生還したパイロットたちの証言が一致しています。
『撃ち込んだのに、火が出なかった』
『キャノピー(風防)に弾が弾かれた』と。
……かつての『空飛ぶライター』ではありません。奴らは、機体を強化しています」
​ニミッツは、氷のような目で虚空を睨んだ。
「それだけじゃない。
奴らの艦隊運動だ。
こちらの攻撃隊が雷撃に入ろうとした瞬間、完璧なタイミングで直衛機が降りてきた。
……あれは『目視』じゃない。
『レーダー』だ」
​部屋の空気が重くなる。
開戦当初、日本軍は「優秀なパイロット」と「精神論」だけの軍隊だと思われていた。
だが、ミッドウェーで見せた姿は違った。
正確な情報連携。
生存性を高めた機体。
そして、レーダーによる管制。
​「……奴らは、進化している」
ニミッツは、認めざるを得なかった。
「我々と同じか、あるいはそれ以上のスピードで、技術と戦術をアップデートしている。
……このまま正面から殴り合えば、我々の被害も甚大になる」
​「どうしますか、提督」
​「土俵を変える」
ニミッツは、壁の太平洋地図――日本と南方を結ぶ、長い長い補給線を指差した。
​「奴らの弱点は、変わっていない。
『資源(リソース)』がないことだ。
どんなに強力な艦隊も、石油がなければただの鉄屑。
どんなに優秀なパイロットも、飯が食えなければ餓死する」
​ニミッツは、冷酷な命令を下した。
​「潜水艦隊に打電。
『無制限潜水艦戦』を徹底せよ。
軍艦を狙うな。
……『輸送船』を狙え。
タンカー、貨物船、客船。日本の旗を掲げる船は、一隻残らず海の底へ叩き込め。
……日本本土を、干物(ひもの)にしてやれ」
​一方、東京。
街は、二度目の狂騒に包まれていた。
「ミッドウェー大勝利!」「敵空母部隊、壊滅!」
提灯行列が銀座を練り歩き、ラジオからは勇ましい軍歌が絶え間なく流れている。
​築地の「掃き溜め」研究所。
窓の外の騒ぎを、坂上真一は憎々しげに見下ろしていた。
​「……馬鹿どもが」
坂上は、カーテンを乱暴に閉めた。
「勝てば勝つほど、あいつらは腐っていく。
『アメリカ恐るるに足らず』。
『我々の技術は世界一』。
……その慢心が、次の対策を遅らせる」
​「でも、勝ったのは事実です」
早乙女薫が、気まずそうに言った。
「これで、少しは余裕ができるのでは?」
​「逆だ」
坂上は、机の上に、新しい海図を広げた。
そこには、日本から南方資源地帯(インドネシア、マレー)へ伸びる、数千キロの航路が描かれていた。
坂上は、その航路の上に、無数の「×」印を書き込んでいった。
​「アメリカは、学習する巨人だ。
正面からの艦隊決戦で勝てないと分かれば、奴らは必ず『搦め手(からめて)』を使ってくる。
……潜水艦だ」
​坂上は、黒飴を噛み砕いた。
「日本の輸送船団は、裸だ。
護衛の駆逐艦は足りないし、そもそも対潜水艦のノウハウ(ASW)が皆無だ。
ソナー(水中探信儀)は旧式。爆雷の威力も足りない。
……このままでは、ミッドウェーで勝った艦隊が、燃料不足で動けなくなる未来が来る」
​「そんな……。どうすれば?」
​「『海上の盾』を作る」
坂上は、一枚の設計図を取り出した。
それは、軍艦というよりは、商船に近い、ずんぐりとした船の図面だった。
​「海防艦(かいぼうかん)?」
薫が図面を読む。
​「ただの海防艦じゃない。
『松(まつ)』型駆逐艦の設計思想を先取りした、簡易量産型のエスコート・シップだ」
​坂上は説明した。
「最高速度はいらない。主砲もいらない。
必要なのは、最新鋭の『ソナー』と、大量の『爆雷』。
そして、潜水艦の微かな音を聞き分ける『聴音員(ソナーマン)』の育成だ」
​「……地味ですね」
「ああ、地味だ」
​坂上は自嘲気味に笑った。
「大和の魔改造よりも、ゼロ戦の防弾化よりも、遥かに地味だ。
海軍の上層部は、こんな『雑用艦』には興味を示さんだろう。
『輸送船の護衛など、二流の仕事だ』とな」
​坂上は、拳を握りしめた。
「だが、ここが本当の正念場だ。
アメリカの『狼(ウルフパック)』たちが、海の下で牙を研いでいる。
……奴らが暴れ出す前に、日本の海を『鉄条網』で囲わなければならん」
​昭和17年夏。
華やかな勝利の裏で、坂上真一は、最も過酷で、最も評価されない戦い――「シーレーン防衛戦」へと、足を踏み入れようとしていた。
そして、そのための「リソース」を確保するには、またしても海軍内の「大艦巨砲主義」の亡霊たちと、戦わねばならなかった。
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