『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 27

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みすぼらしい旗
​昭和17年(1942年)8月。
東京・新橋の料亭「松乃屋」。
畳の部屋には、豪勢な料理と酒が並び、芸者たちの三味線の音が響いていた。
海軍艦政本部(かんせいほんぶ)の高級将校たちが、ミッドウェーの祝勝会の余韻に浸りながら、次の建艦計画を議論していた。
​「やはり、空母だ。空母を増産せねばならん」
大林徳太郎大将が、赤ら顔で酒を煽る。
「ミッドウェーで証明された通り、これからは航空決戦だ。
『雲龍(うんりゅう)』型空母を、マル急計画で15隻……いや、20隻建造する!」
​「結構なことですな」
取り巻きの将校たちが揉み手をする。
「これで帝国海軍は無敵です」
​ガラリ。
障子が、無遠慮に開け放たれた。
​「……無敵?」
入り口に立っていたのは、場違いな皺くちゃのスーツを着た男。坂上真一だった。
後ろには、気まずそうな顔をした早乙女薫が控えている。
​「……また貴様か、顧問」
大林が不愉快そうに盃を置いた。
「ここは海軍の『重要会議』の場だ。部外者が土足で踏み込んでいい場所ではないぞ」
​「重要会議? 酒盛りの間違いだろう」
坂上は、畳の上を土足のまま歩き、大林の前のテーブルに、一枚の汚れた布を放り投げた。
​それは、重油で黒く汚れ、焼け焦げた、日本商船旗(日章旗)だった。
​「……何だ、この汚い布は」
「昨日、紀伊半島沖で沈められた輸送船『愛国丸』の遺品だ」
坂上は、冷ややかに言った。
「乗員は全員戦死。積んでいたボーキサイト3000トンも、海の底だ」
​「……それがどうした」
大林は鼻で笑った。
「戦争だ、輸送船の一隻や二隻、沈むこともある。
だからこそ、我々が強力な空母を作って、敵を殲滅するのではないか」
​「順序が逆だ」
坂上は、大林の胸ぐらを掴み上げたい衝動を抑え、一枚の設計図を突きつけた。
​「……『海防艦(かいぼうかん)』だ」
「はあ?」
大林が図面を覗き込み、呆れた声を上げた。
「なんだこの……みすぼらしい船は。
主砲は単装。速力は18ノット?
……漁船に毛が生えたようなものではないか。
こんなゴミを作る鉄があったら、空母の飛行甲板に回せ!」
​「この『ゴミ』がなければ、あんた自慢の空母も、ただの鉄の棺桶になる」
坂上は、周囲の将校たちを見回して言った。
「今、アメリカの潜水艦が、狼の群れ(ウルフパック)となって、日本の補給線を食い荒らし始めている。
……石油が届かなければ、空母は動かん。
ボーキサイトがなければ、ゼロ戦は作れん。
食料がなければ、国民は餓死する」
​坂上は、図面を指で叩いた。
「空母の建造を中止しろ。
その分の鋼材と予算を、すべてこの『海防艦』の量産に回せ。
……目標は、年間100隻だ」
​「100隻!? 正気か!」
大林が激昂した。
「海軍の誇りを捨てる気か!
そんな『雑用船』ばかり作って、誰が乗るんだ!
海軍兵学校を出たエリートが、輸送船の護衛など……」
​「エリートなどいらん」
坂上は切り捨てた。
「この艦は、ブロック工法で、町工場でも作れるように設計してある。
乗員も、予備役や、商船学校の生徒でいい。
……必要なのは、『誇り』じゃない。
泥にまみれて船団を守る、『番犬』の数だ」
​「……貴様ッ、海軍を愚弄するのもいい加減にしろ!」
大林が立ち上がり、坂上に掴みかかろうとした。
​「……聞く耳持たず、か」
坂上は、冷たい目で大林を見下ろした。
「いいだろう。
……ならば、山本長官に直訴するまでだ。
だが、覚えておけ。
次に輸送船が沈んで、兵士が飢えたら……その責任は、この料亭で酒を飲んでいたあんたたちにある」
​坂上は、汚れた商船旗を拾い上げることなく、背を向けた。
「行くぞ、薫君」
「あ、はい……!」
​料亭を出た後、夜風の中で、坂上は深く息を吐いた。
​「……予想通りだ。現場の理解は得られん」
「どうするんですか? 鋼材の割り当てがもらえないと、海防艦は作れません」
​「『裏口』を使う」
坂上は、暗い夜空を見上げた。
「海軍工廠(正規ルート)がダメなら、民間の造船所を巻き込む。
……三菱、川崎、日立。
彼らに『儲かる仕事』として発注する。
予算は……山本の機密費と、あの『大和』の維持費を削って捻出する」
​坂上真一は、軍令部の承認を待たず、独断で「私設艦隊」とも言える護衛戦力の構築に走り出した。
それは、軍法会議ものの越権行為だったが、国の「血管」を守るためには、手段を選んでいる暇はなかった。
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