『「貴様の命令では犬死にだ」 50歳のイージス艦長、昭和(1935)に転生。非効率な精神論を殴り飛ばし、日本を魔改造する』

月神世一

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第三章 大和

EP 31

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四月十八日の罠(トラップ)
​昭和18年(1943年)4月中旬。
南太平洋の要衝、ラバウル基地。
連日の空襲と、熱帯の暑気で、基地の空気は澱んでいた。
​「……前線視察に行く。決定事項だ」
山本五十六連合艦隊司令長官は、周囲の参謀たちの制止を振り切って言った。
「ガダルカナルからの撤退で、将兵の士気は落ちている。
私が直接、最前線(ブーゲンビル島・ショートランド)へ行き、彼らの労をねぎらう必要がある」
​「危険すぎます!」
参謀長の宇垣纏が食い下がる。
「制空権は拮抗しているとはいえ、敵のP-38戦闘機が出没する空域です。
万が一、長官機が狙われたら……」
​「……狙われますよ」
部屋の入り口から、冷徹な声が響いた。
坂上真一だった。彼は、一枚の紙をヒラヒラとさせた。
​「……これを見ろ」
坂上が出したのは、ラバウル基地から各部隊へ発信された「長官視察予定」の暗号電文の控えだった。
​「……この日程表。
『4月18日午前6時、ラバウル発。午前8時、バラレ島着』。
……すでに、アメリカ軍のデスクの上に載っているぞ」
​「……何だと?」
参謀たちが絶句する。
「馬鹿な。この暗号(JN-25)は先週更新したばかりだぞ!」
​「更新しても、癖(パターン)を読まれている」
坂上は断言した。
「奴らは、長官が几帳面な性格で、時間通りに行動することを知っている。
……4月18日。
ブーゲンビル島上空で、双胴の悪魔(P-38)が、貴官を殺しに来る」
​「……」
山本五十六の顔から、血の気が引いた。
自分の死の予言。
そして、海軍の暗号が完全に無力化されているという絶望的な事実。
​「……ならば、中止だ」
宇垣が叫ぶ。
「直ちに日程を変更し……」
​「ならん」
坂上が遮った。
「中止すれば、敵は『暗号解読がバレた』と気づき、すぐに新しいコードに変えるだろう。
そうなれば、我々もまた『敵の目』を失うことになる」
​「では、長官に死ねと言うのか!」
​「いいや」
坂上は、不敵な笑みを浮かべた。
「……逆だ。
奴らが『時間通り』に来るなら、これほど好都合なことはない。
……待ち伏せ(アンブッシュ)して、叩き落とす」
​昭和18年4月18日、早朝。
ラバウル飛行場。
​山本五十六を乗せた「一式陸攻」が、爆音を立てて離陸した。
護衛のゼロ戦は6機。……に見えた。
​だが、それは表向きの姿だった。
雲の上、高度6000メートルには、坂上が手配した精鋭部隊――ラバウル航空隊のエース・パイロットたち30機が、息を潜めて追随していた。
さらに、一式陸攻自体も、外見は同じだが、中身は坂上の指示で防弾鋼板を増設し、自動消火装置を完備した「重装甲仕様」の予備機だった。
​「……時間通りだ」
機内で、山本は懐中時計を握りしめていた。
その手は、僅かに震えていた。
空の神と呼ばれた男も、自らが「囮(おとり)」となる恐怖とは無縁ではいられなかった。
​ブーゲンビル島上空。
午前7時33分。
​『……敵機発見!
下方より接近! P-38、数16!』
​見張り員の絶叫と共に、眼下のジャングルから、銀色の機体が急上昇してきた。
米陸軍航空隊のP-38ライトニング。
「ピーコック(山本)を撃墜せよ」という極秘指令を受けた、暗殺部隊だ。
​彼らは、獲物(一式陸攻)が、無防備に飛んでいると信じていた。
護衛はわずか6機。楽な狩り(ダックハント)だと思っていた。
​だが。
​「……今だ。掛かれッ!」
上空待機していたゼロ戦隊長が、咽喉マイクで叫んだ。
​雲の中から、30機のゼロ戦が、ハヤブサのように急降下した。
太陽を背にした、完璧な奇襲。
​『な、なんだ!? ゼロだ! 数が多い!』
『罠だ! 待ち伏せされていた!』
​米軍の無線がパニックに陥る。
P-38は、一撃離脱を得意とする重戦闘機だが、上を取られ、背後につかれれば脆い。
次々と火を噴き、ジャングルへと墜落していく。
​「……落ちない」
山本五十六は、窓の外を見た。
自分を殺しに来た悪魔たちが、次々と日本の若鷲たちに狩られていく。
かつてのような「特攻精神」による体当たりではない。
無線で連携し、有利な位置を占め、確実に敵を追い詰める「システム化された空戦」だった。
​『……長官機、無事!
敵襲撃部隊、壊滅! 残存機、逃走します!』
​勝利の報告が入る。
山本は、深くシートに体を預け、長く息を吐いた。
​バラレ島基地、司令部。
無事に到着した山本五十六を、坂上真一(先回りして到着していた)が出迎えた。
​「……命拾いしましたね、長官」
坂上は、表情を変えずに敬礼した。
​「……君のおかげだ」
山本は、疲労の色が濃い顔で答えた。
「だが、思い知らされたよ。
敵は、私の行動のすべてを把握している。
……私は、裸で戦場を歩いているようなものだ」
​「その通りです」
坂上は、山本に直言した。
「今日の勝利で、敵は混乱するでしょう。『情報は正しかったはずなのに、なぜ待ち伏せされたのか』と。
……しばらくは、暗号解読の事実を隠せます」
​「だが、いつかはバレる」
山本は、南の空――ソロモンの激戦区の方角を見た。
​「坂上君。
私は、今日死ぬはずだった男だ。
……『死んだつもり』で、君の提案を受け入れる」
​「提案?」
​「『絶対国防圏』への撤退と、要塞化だ」
山本は、拳を握りしめた。
「ソロモンの消耗戦は終わらせる。
前線を下げ、サイパン・トラック・パラオのラインを、鉄壁にする。
……私の『メンツ』など、ブーゲンビルのジャングルに捨ててきた」
​史実では戦死し、その死が日本海軍の没落を決定づけた山本五十六。
彼が生き残ったこと。
そして、彼が「精神論」を捨て、坂上の「防御戦略」に完全に同調したこと。
​これは、歴史にとって巨大な特異点となった。
だが、それは同時に、アメリカという巨人を、さらに本気にさせることでもあった。
「山本五十六を殺し損ねた」という事実は、彼らの執念に油を注ぐことになる。
​「……急ぎましょう」
坂上は、ブルドーザーが唸りを上げる滑走路を見た。
「時間との競争です。
アメリカ軍が、次の『暴力』を用意してくる前に」
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