​魔法少女ドジっ子ルナちゃん!愛の貢ぎ物が72時間で石に戻り、F級冒険者の僕が指名手配されました

月神世一

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EP 7

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鍋の底には竜が眠る(物理)
 借金15億ゴールド。
 カジノ破壊事件により、ガルーダ獣人国の都市部にも俺たちの居場所はなくなった。
「もう……誰もいないところで静かに暮らしたい……」
 俺たちは獣人国領内のさらに奥地、地図にも載っていない「未開の原生林」にテント(お手製)を張っていた。
 追っ手もここまでは来ないだろう。
 だが、俺たちには新たな敵が立ちはだかっていた。
「お腹……空きましたわ……」
 ルナが干からびたナメクジのように地面にへばりついている。
 ネギオは光合成で自給自足しているが、俺とルナはそうはいかない。
「待ってろ。今、とびっきりの夕飯を作ってやるから」
 俺は森で集めた食材を並べた。
 獲物は、巨大イノシシの肉、希少な香草、そして森の恵みであるキノコ類。
 これらを、俺の全財産である「愛用の小鍋」にぶち込む。
「いくぞ……秘技『素材の味100倍引き出し』!」
 火加減は弱火でじっくり。アクはミクロン単位で除去。
 隠し味に、岩塩と乾燥ハーブを少々。
 グツグツと煮込むこと30分。
 ――フワァァァァ……。
 鍋の蓋を開けた瞬間、暴力的なまでの「旨味の香り」が森中に拡散した。
 黄金色に輝くスープ。ホロホロに崩れる肉。
 Fランク冒険者の俺がたどり着いた、至高の闇鍋(見た目は綺麗)だ。
「はうぅぅ! こ、この香りは……天国の香りですわ!」
「よし、食うか!」
 俺たちが木の器にスープをよそおうとした、その時だった。
 ズゥゥゥゥゥン……!!
 地面が揺れた。
 いや、空気が震えている。
 頭上の空が急に暗くなり、突風が焚き火を吹き消しかけた。
「な、なんだ!?」
 見上げれば、そこに「絶望」が浮いていた。
 翼長50メートル。
 黒曜石のような鱗に覆われた巨体。
 口からは灼熱の息を吐き、金色の瞳がギョロリと俺たち(の鍋)を見下ろしている。
「……古龍(エンシェント・ドラゴン)……」
 俺は腰を抜かした。
 ただのドラゴンじゃない。神話に出てくるレベルの、生きた天災だ。
 この森の生態系の頂点に君臨する存在が、なぜこんなところに?
『……よい匂いだ』
 脳内に直接響く、重厚な声(テレパシー)。
 ドラゴンは涎をダラダラと垂らしながら、傲慢に言い放った。
『我は古龍バハムート。貴様ら、その供物を置いて立ち去れ。さすれば命だけは助けてやろう』
 カツアゲだ。
 伝説の古龍が、俺の鍋をカツアゲしに来た。
「ひっ、ひぃぃ! ど、どうぞ! 全部差し上げますぅぅ!」
 俺は即座に土下座した。命あっての物種だ。鍋くらいくれてやる。
 だが、それを許さない者が一人いた。
「……お断りしますわ」
 ルナだ。
 彼女はスプーンを握りしめ、仁王立ちでドラゴンの前に立ちはだかった。
「これはリカル様が、お腹を空かせた私のために作ってくださった『愛のスープ』です! トカゲなんかに一口だってあげません!」
『……トカゲだと? 我が誰か知っての狼藉か、矮小な人間よ』
 ドラゴンの瞳孔が開く。
 周囲の温度が一気に上がり、ブレスの予備動作に入る。
 終わった。消し炭だ。俺も、ルナも、鍋も。
「ルナ! 謝れ! 殺されるぞ!」
「嫌です! 食べ物の恨みは怖いんですのよ!」
 ルナは一歩も引かない。それどころか、プンプンと怒りながら杖を振り上げた。
「大体、行儀が悪いですわ! 食卓につくときは『いただきます』でしょう!?」
『黙れ。消え失せろ――』
 ドラゴンの口から業火が放たれようとした、その瞬間。
「躾(しつけ)がなってないワンちゃんには……お座り!!」
 ルナが杖を振り下ろす。
 同時に、ネギオが俺の前に飛び出し、冷徹に言い放った。
「マスターの命令です。――『強制重力執行(グラビティ・プレス)』」
 ズドォォォォォォォォォン!!
 ブレスなど吐く暇もなかった。
 ドラゴンの真上から、見えない「巨大なハンマー」が叩きつけられたかのような衝撃。
 巨体が地面にめり込む。
 バキバキと音を立てて木々が倒れ、巨大なクレーターが生成される。
『グオォォォッ!? か、体が……動かぬ……!?』
 最強の古龍が、首だけ地面から出した状態で、完全に埋まっていた。
 まるで誰かが悪戯で埋めたかのように、綺麗に首から下だけが土の中だ。
「いいですか? ご飯が欲しければ『お手』! 『待て』! 『伏せ』ですわ!」
『ぐぬぬ……貴様、何者だ……』
「通りすがりの腹ペコ乙女です!」
 ルナは埋まったドラゴンの鼻先に、スプーンで掬ったスープを突きつけた。
「はい、あーん」
『ぬ、ぬう……屈辱……だがあまりに良い匂い……パクッ』
 ドラゴンは誘惑に勝てず、スープを飲んだ。
『……う、美味い!! なんだこの深みのある味わいは! 幾千年生きてきたが、これほどの珍味は初めてだ!』
「でしょう? リカル様は天才なんですの!」
 結局。
 伝説の古龍は、鍋の残りと引き換えに、涙を流して森の奥へと帰っていった。
 去り際、「次はもっと塩味を効かせてくれ」と言い残して。
 ◇
 翌日。
 俺たちは森を出て、さらに奥地へ移動することにした。
 だが、この一件は決して闇に葬られなかった。
 一部始終を目撃していた、森の妖精や獣人の狩人たちがいたのだ。
 彼らの証言は、このように伝わった。
 証言1:「見たんだ! 古龍バハムートがブレスを吐こうとした瞬間、一人の男が前に立った!」
 証言2:「男は一歩も動かず、気迫だけで龍を地面に叩きつけた!」
 証言3:「最後は龍が泣いて命乞いをし、男は慈悲の心で食事を分け与えていた……まさに聖人!」
 こうして、俺の知らぬ間に新たな二つ名が爆誕した。
 【竜殺し(ドラゴン・スレイヤー)のリカル】
 ※実際は殺していないが、心を折ったので実質殺害。
「……リカル様。なんだか背中がムズムズしますわ」
「俺もだ。強烈な『勘違い』の気配がする」
 俺たちが平和を求めて歩けば歩くほど、英雄伝説の尾ひれは大きくなっていく。
 そして、その噂はついに――ある小国の王様の耳に届こうとしていた。
 現在の借金:15億ゴールド(変動なし)
 現在の称号:詐欺師 / 山斬り / 竜殺し
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