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EP 8
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救国の英雄(ただし城は消える)
古龍バハムートとの一件以来、俺たちの旅はカオスを極めていた。
森を歩けば妖精が「英雄様!」と花を持ってくるし、山を越えようとすれば山賊が「アニキ!」とひれ伏す。
誤解だ。俺はただの借金まみれのFランク冒険者だ。
「そろそろ人里が恋しい……。温かい布団で寝たい……」
俺たちがたどり着いたのは、大陸の西に位置する小国**「ゼファー公国」**。
ここはゴルド商会の影響力が弱く、隠れ住むには最適の場所――のはずだった。
国境を越えた瞬間、豪華な馬車が猛スピードで突っ込んできて、俺たちの目の前で急停車したのだ。
「おお! 探したぞ! そなたが噂の『竜殺しのリカル』殿か!」
馬車から転がり落ちるように現れたのは、王冠を被った小太りの中年男性。
なんと、この国の元首・ゼファー公王その人だった。
「へ? あ、はい。リカルですけど……(また借金取りか!?)」
「どうか! どうか我が国を救ってくれ!」
王様がいきなり俺の足元にすがりついた。鼻水を垂らして号泣している。
「魔物の大群が……! オークの軍勢一万が、王都へ迫っておるのじゃ! 我が国の軍隊では歯が立たん! 頼む、そなたの『山をも斬る剣』と『竜をも従える覇気』で、国を救ってくれぇぇ!」
「いや無理です」
俺は即答した。一万て。俺の戦闘力はスライム3匹分だぞ。
「あらリカル様、困っている人を見捨てるんですか?」
「見捨てるとかじゃなくて、死ぬから!」
「大丈夫ですわ! 英雄の仕事、私が代わりにやって差し上げます!」
ルナが前に出る。
その手には、道中の遺跡で拾った「謎の石板(古代アーティファクト)」が握られていた。
「この石板、古代語で『悪いヤツをやっつける』って書いてありますの!」
「それ多分『広域殲滅兵器』とかそういう物騒な名前だと思うぞ!?」
「ネギオ、解析完了して?」
「御意。……古代魔法文明の『自律防衛システム』の起動キーですね。推奨魔力量は国家予算レベルですが、マスターなら単独で起動可能です」
ネギオがサラッと言う。止める気配はない。
◇
【ゼファー公国・王都前平原】
地平線を埋め尽くすオークの軍勢。その数、一万以上。
対するは、震える俺と、ワクワクするルナ、そして棒立ちのネギオ。
「うぅ……帰りたい……」
「さあ行きますわよ! 悪者さんたち、成敗です!」
ルナが石板に世界樹の杖を突き立て、膨大な魔力を注ぎ込む。
「――起動! 『エンシェント・パニッシャー(古代の断罪者)』!」
キュイイイイイイイ……ン!!
石板が眩い光を放ち、上空に巨大な魔法陣が展開される。
雲が割れ、宇宙空間から「何か」が降りてきた。
それは、全長数百メートルに及ぶ、光り輝く巨大な「魔法のハンマー」だった。
「は? ハンマー?」
「悪い子は、ピコピコハンマーでお仕置きですわ!」
ルナが杖を振り下ろす。
天空の巨大ハンマーが、オークの軍勢に向かって落下する。
ドッゴォォォォォォォォォン!!
衝撃波だけで地形が変わった。
一万のオーク軍団は、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって消滅した。
凄まじい威力だ。これなら国は救われた――
「……あれ? リカル様、ハンマーが止まりません」
「はい?」
「勢い余って、まだ動いてますの」
巨大ハンマーは、オークを潰した反動でバウンドし、あろうことか王都の中心部へと弾んでいった。
その軌道の先にあるのは――豪華絢爛な「王城」だ。
「あ」
「あ」
ガッシャァァァァァァン!!
乾いた音が響き渡った。
何百年もの歴史を誇るゼファー城が、積み木のように粉砕された。
綺麗な更地になったその場所に、巨大な光のハンマーが突き刺さっている。
「……」
「……」
戦場に静寂が訪れた。
◇
「わ、わしの城がぁぁぁぁぁ!!」
王様の絶叫が響く。
しかし、その後に続いたのは、意外な反応だった。
「おおおお! 見ろ! 圧政の象徴だった城が消えたぞ!」
「魔物と一緒に、腐敗した王政もぶっ壊してくれたんだ!」
「革命だ! 英雄リカル万歳!」
なんと、国民たちが歓喜の声を上げていたのだ。
どうやらこの国の王様、国民からはあまり好かれていなかったらしい(主に税金の無駄遣いで)。
城の破壊は、民衆の目には「リカルによる世直し(物理)」に映ったのだ。
「英雄! 英雄!」
「リカル公爵! 新たな王に!」
俺は胴上げされた。
嬉しいかって? 嬉しくない。なぜなら――
「……貴様らぁぁぁ! よくも城を! 国宝の美術品を! 私の隠し財産をぉぉぉ!」
瓦礫の中から這い出してきた王様が、血走った目で俺に詰め寄ってきたからだ。
「国は救ってくれた! それは感謝する! だがな、城の破壊は別問題だ!!」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
「弁償じゃ! ゴルド商会の建築部隊に見積もらせる! 逃がさんぞぉぉ!」
◇
【数時間後・逃走中の馬車内】
俺たちは、革命の英雄として国民から贈られた馬車で、国境を全力疾走していた。
俺の手には、震える文字で書かれた請求書が握られている。
「……おい、ネギオ。これ、いくらって書いてある?」
「読み上げます。王城再建費用、国宝の弁償、および王様の精神的慰謝料……〆て、50億ゴールドですね」
「ご……ごじゅう……」
俺は泡を吹いて倒れた。
15億でも絶望だったのに、50億。
もはや国家予算規模だ。俺一人で、小国の経済を背負わされている。
「リカル様、元気出してくださいまし! 城の一つや二つ、また建てればいいんです!」
「お前が言うなぁぁぁ!!」
「それにしても雑草。貴様の人気はうなぎ登りですね」
ネギオが窓の外を指差す。
国境には、俺たちを見送る国民たちの姿があった。彼らは涙を流し、「ありがとうリカル!」「また城を壊しに来てくれ!」と手を振っている。
「……もう嫌だ。俺はただ、静かに暮らしたいだけなのに……」
俺の願いとは裏腹に、借金と名声は雪だるま式に膨れ上がっていく。
そして。
ついに事態を重く見たゴルド商会本社が、最強の切り札を投入する決定を下した。
空を覆う巨大な影が、俺たちに迫ろうとしていた。
現在の借金:50億ゴールド
現在の称号:革命の英雄 / 城砕き
古龍バハムートとの一件以来、俺たちの旅はカオスを極めていた。
森を歩けば妖精が「英雄様!」と花を持ってくるし、山を越えようとすれば山賊が「アニキ!」とひれ伏す。
誤解だ。俺はただの借金まみれのFランク冒険者だ。
「そろそろ人里が恋しい……。温かい布団で寝たい……」
俺たちがたどり着いたのは、大陸の西に位置する小国**「ゼファー公国」**。
ここはゴルド商会の影響力が弱く、隠れ住むには最適の場所――のはずだった。
国境を越えた瞬間、豪華な馬車が猛スピードで突っ込んできて、俺たちの目の前で急停車したのだ。
「おお! 探したぞ! そなたが噂の『竜殺しのリカル』殿か!」
馬車から転がり落ちるように現れたのは、王冠を被った小太りの中年男性。
なんと、この国の元首・ゼファー公王その人だった。
「へ? あ、はい。リカルですけど……(また借金取りか!?)」
「どうか! どうか我が国を救ってくれ!」
王様がいきなり俺の足元にすがりついた。鼻水を垂らして号泣している。
「魔物の大群が……! オークの軍勢一万が、王都へ迫っておるのじゃ! 我が国の軍隊では歯が立たん! 頼む、そなたの『山をも斬る剣』と『竜をも従える覇気』で、国を救ってくれぇぇ!」
「いや無理です」
俺は即答した。一万て。俺の戦闘力はスライム3匹分だぞ。
「あらリカル様、困っている人を見捨てるんですか?」
「見捨てるとかじゃなくて、死ぬから!」
「大丈夫ですわ! 英雄の仕事、私が代わりにやって差し上げます!」
ルナが前に出る。
その手には、道中の遺跡で拾った「謎の石板(古代アーティファクト)」が握られていた。
「この石板、古代語で『悪いヤツをやっつける』って書いてありますの!」
「それ多分『広域殲滅兵器』とかそういう物騒な名前だと思うぞ!?」
「ネギオ、解析完了して?」
「御意。……古代魔法文明の『自律防衛システム』の起動キーですね。推奨魔力量は国家予算レベルですが、マスターなら単独で起動可能です」
ネギオがサラッと言う。止める気配はない。
◇
【ゼファー公国・王都前平原】
地平線を埋め尽くすオークの軍勢。その数、一万以上。
対するは、震える俺と、ワクワクするルナ、そして棒立ちのネギオ。
「うぅ……帰りたい……」
「さあ行きますわよ! 悪者さんたち、成敗です!」
ルナが石板に世界樹の杖を突き立て、膨大な魔力を注ぎ込む。
「――起動! 『エンシェント・パニッシャー(古代の断罪者)』!」
キュイイイイイイイ……ン!!
石板が眩い光を放ち、上空に巨大な魔法陣が展開される。
雲が割れ、宇宙空間から「何か」が降りてきた。
それは、全長数百メートルに及ぶ、光り輝く巨大な「魔法のハンマー」だった。
「は? ハンマー?」
「悪い子は、ピコピコハンマーでお仕置きですわ!」
ルナが杖を振り下ろす。
天空の巨大ハンマーが、オークの軍勢に向かって落下する。
ドッゴォォォォォォォォォン!!
衝撃波だけで地形が変わった。
一万のオーク軍団は、悲鳴を上げる間もなく光の粒子となって消滅した。
凄まじい威力だ。これなら国は救われた――
「……あれ? リカル様、ハンマーが止まりません」
「はい?」
「勢い余って、まだ動いてますの」
巨大ハンマーは、オークを潰した反動でバウンドし、あろうことか王都の中心部へと弾んでいった。
その軌道の先にあるのは――豪華絢爛な「王城」だ。
「あ」
「あ」
ガッシャァァァァァァン!!
乾いた音が響き渡った。
何百年もの歴史を誇るゼファー城が、積み木のように粉砕された。
綺麗な更地になったその場所に、巨大な光のハンマーが突き刺さっている。
「……」
「……」
戦場に静寂が訪れた。
◇
「わ、わしの城がぁぁぁぁぁ!!」
王様の絶叫が響く。
しかし、その後に続いたのは、意外な反応だった。
「おおおお! 見ろ! 圧政の象徴だった城が消えたぞ!」
「魔物と一緒に、腐敗した王政もぶっ壊してくれたんだ!」
「革命だ! 英雄リカル万歳!」
なんと、国民たちが歓喜の声を上げていたのだ。
どうやらこの国の王様、国民からはあまり好かれていなかったらしい(主に税金の無駄遣いで)。
城の破壊は、民衆の目には「リカルによる世直し(物理)」に映ったのだ。
「英雄! 英雄!」
「リカル公爵! 新たな王に!」
俺は胴上げされた。
嬉しいかって? 嬉しくない。なぜなら――
「……貴様らぁぁぁ! よくも城を! 国宝の美術品を! 私の隠し財産をぉぉぉ!」
瓦礫の中から這い出してきた王様が、血走った目で俺に詰め寄ってきたからだ。
「国は救ってくれた! それは感謝する! だがな、城の破壊は別問題だ!!」
「ひぃっ! ごめんなさい!」
「弁償じゃ! ゴルド商会の建築部隊に見積もらせる! 逃がさんぞぉぉ!」
◇
【数時間後・逃走中の馬車内】
俺たちは、革命の英雄として国民から贈られた馬車で、国境を全力疾走していた。
俺の手には、震える文字で書かれた請求書が握られている。
「……おい、ネギオ。これ、いくらって書いてある?」
「読み上げます。王城再建費用、国宝の弁償、および王様の精神的慰謝料……〆て、50億ゴールドですね」
「ご……ごじゅう……」
俺は泡を吹いて倒れた。
15億でも絶望だったのに、50億。
もはや国家予算規模だ。俺一人で、小国の経済を背負わされている。
「リカル様、元気出してくださいまし! 城の一つや二つ、また建てればいいんです!」
「お前が言うなぁぁぁ!!」
「それにしても雑草。貴様の人気はうなぎ登りですね」
ネギオが窓の外を指差す。
国境には、俺たちを見送る国民たちの姿があった。彼らは涙を流し、「ありがとうリカル!」「また城を壊しに来てくれ!」と手を振っている。
「……もう嫌だ。俺はただ、静かに暮らしたいだけなのに……」
俺の願いとは裏腹に、借金と名声は雪だるま式に膨れ上がっていく。
そして。
ついに事態を重く見たゴルド商会本社が、最強の切り札を投入する決定を下した。
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