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EP 10
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魔王城ブライダル・クラッシュ
大陸の最北端、常闇に包まれた「魔界」。
その中心にそびえ立つ、禍々しくも壮麗な黒亜の城――魔王城ディス・パレス。
幾多の勇者たちが挑み、そして散っていった難攻不落の要塞の前に、今、三つの影があった。
「……ついに来たか」
俺、リカルは震える膝を抑えながら、巨大な城門を見上げた。
ここにある(はずの)財宝だけが、俺の100億ゴールドの借金を帳消しにする唯一の希望だ。
「素敵……! なんてロマンチックな場所なんでしょう!」
隣でルナが頬を紅潮させている。
彼女の目には、ドクロの装飾が「天使」に、血の池が「レッドカーペット」に見えているらしい。
「リカル様、見てください! 結婚式場(魔王城)が私たちを歓迎していますわ!」
「お前の目にはフィルターがかかりすぎだ! ……よし、行くぞ。隠密行動で侵入し、宝物庫だけを狙う」
俺が忍び足で近づこうとした、その時だった。
ビビビビビッ!!
城門の前に、紫色の電撃が走った。
『絶対不可侵結界』。魔王級の魔力がなければ通ることさえ許されない、最強の防壁だ。
「くっ、やはり結界が……! これじゃ中に入れない!」
「あら? 自動ドアが故障しているのかしら?」
ルナがスタスタと結界の前まで歩いていく。
「ルナ、触るな! 黒焦げになるぞ!」
「大丈夫ですわ。……開け、ゴマ!」
ルナが杖でコンコン、と結界を叩く。
ただそれだけ。
しかし、世界樹の杖が放つ「理(ことわり)を書き換える波動」は、魔族の結界など紙同然だった。
パリンッ。
軽い音がして、数千年の歴史を持つ最強結界が、ガラス細工のように砕け散った。
「はい、開きましたわ! リカル様、エスコートをお願いします♡」
「セキュリティガバガバかよ!!」
◇
城内に入ると、すぐに殺気立った集団が現れた。
全身を漆黒の鎧で包んだ、魔王直属の精鋭部隊――『魔王親衛隊』だ。
「貴様ら何者だ! 結界を破るとは只者ではないな!」
「侵入者だ! 殺せぇぇぇ!」
数百の魔族兵が一斉に襲いかかってくる。
俺は悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃ! 無理無理! 俺はFランクだぞ!」
「……掃除の時間ですね」
ネギオが一歩前に出る。
その姿は、いつもの執事然とした佇まいだが、背中からは殺意の波動が立ち昇っている。
「マスターたちの愛の行進(ただの強盗)を邪魔する雑草ども。……間引きます」
ネギオの両腕が変形する。
右腕はパイルバンカー。左腕はボタニカル・ブラスター。
「――『フルバースト・ガーデニング(殲滅的庭いじり)』」
ドガガガガガガガッ!!
ズドォォォォォン!!
一瞬だった。
魔族兵たちが、文字通り「ゴミ」のように吹き飛ばされ、壁にシミを作っていく。
四天王クラスの幹部ですら、ネギオの杭打ちで天井に突き刺さった。
「……掃き掃除、完了しました」
「ネギオさん、素敵ですわ! ヴァージンロードの露払いですわね!」
「強すぎて引くわ……」
俺たちは、魔族の死屍累々(気絶)を踏み越え、城の最奥へと進んだ。
◇
そして、ついにたどり着いた「玉座の間」。
重厚な扉を(ルナが魔法で吹き飛ばして)開けると、そこには世界の支配者が座っていた。
闇色のマント。ねじれた角。圧倒的な威圧感。
魔王ヴァーミリオン。
「……よくぞ来た、人間よ」
魔王が重々しく口を開く。
その声だけで、空気がビリビリと震える。
「我が結界を破り、親衛隊を退けるとは……。貴様ら、何者だ? 世界を救う勇者か? それとも……」
魔王がゆっくりと立ち上がり、魔剣を抜こうとした。
その瞬間、俺とルナは同時に叫んだ。
「金を出せぇぇぇぇぇ!!」(リカル)
「指輪をくださいなぁぁぁ!!」(ルナ)
「…………は?」
魔王の動きが止まった。
威厳に満ちた顔が、鳩が豆鉄砲を食らったように固まる。
「……か、金? 指輪?」
「そうだ金だ! 100億だ! お前の隠し財産を全部よこせ!」
俺は木の棒(元・聖剣)を突きつけて喚いた。
恐怖などとうに消えていた。借金取りに追われる恐怖に比べれば、魔王など可愛いものだ。
「お、おい待て人間。貴様、勇者ではないのか?」
「俺は冒険者だ! Fランクの! 借金まみれのな!!」
「……えぇ……(困惑)」
魔王が後ずさる。
そこへ、ルナが追い打ちをかけるように詰め寄った。
「魔王さん! ここが結婚式場で間違いありませんよね? 神父役はあなたですか? 指輪交換はまだですか!?」
「け、結婚? 誰と誰が……」
「私とリカル様です! さあ、祝福のキッスを促してください!」
ルナが杖を構える。その先端には、要塞をも沈めた「超極大魔法」の光がチャージされていた。
「祝福してくれないと……このお城、更地にしますよ?」
魔王の顔色が、青から白へ、そして透明へと変わっていく。
彼は悟ったのだ。
目の前にいるのは、正義の勇者などではない。
話の通じない、理不尽な災害(バケモノ)だと。
「……ネギオ」
「はい」
「魔王、泣いてないか?」
「恐怖で漏らしかけていますね。……さあ、フィナーレです雑草(リカル)。とどめを」
俺は大きく息を吸い込んだ。
100億ゴールドの借金。詐欺師の汚名。勘違いされた英雄伝説。
全てのケリを、ここでつける。
「覚悟しろ魔王! ……身ぐるみ全部置いていけぇぇぇぇ!!」
こうして。
歴史上最も情けなく、最も凶悪な「魔王城決戦(強盗)」の幕が切って落とされた。
大陸の最北端、常闇に包まれた「魔界」。
その中心にそびえ立つ、禍々しくも壮麗な黒亜の城――魔王城ディス・パレス。
幾多の勇者たちが挑み、そして散っていった難攻不落の要塞の前に、今、三つの影があった。
「……ついに来たか」
俺、リカルは震える膝を抑えながら、巨大な城門を見上げた。
ここにある(はずの)財宝だけが、俺の100億ゴールドの借金を帳消しにする唯一の希望だ。
「素敵……! なんてロマンチックな場所なんでしょう!」
隣でルナが頬を紅潮させている。
彼女の目には、ドクロの装飾が「天使」に、血の池が「レッドカーペット」に見えているらしい。
「リカル様、見てください! 結婚式場(魔王城)が私たちを歓迎していますわ!」
「お前の目にはフィルターがかかりすぎだ! ……よし、行くぞ。隠密行動で侵入し、宝物庫だけを狙う」
俺が忍び足で近づこうとした、その時だった。
ビビビビビッ!!
城門の前に、紫色の電撃が走った。
『絶対不可侵結界』。魔王級の魔力がなければ通ることさえ許されない、最強の防壁だ。
「くっ、やはり結界が……! これじゃ中に入れない!」
「あら? 自動ドアが故障しているのかしら?」
ルナがスタスタと結界の前まで歩いていく。
「ルナ、触るな! 黒焦げになるぞ!」
「大丈夫ですわ。……開け、ゴマ!」
ルナが杖でコンコン、と結界を叩く。
ただそれだけ。
しかし、世界樹の杖が放つ「理(ことわり)を書き換える波動」は、魔族の結界など紙同然だった。
パリンッ。
軽い音がして、数千年の歴史を持つ最強結界が、ガラス細工のように砕け散った。
「はい、開きましたわ! リカル様、エスコートをお願いします♡」
「セキュリティガバガバかよ!!」
◇
城内に入ると、すぐに殺気立った集団が現れた。
全身を漆黒の鎧で包んだ、魔王直属の精鋭部隊――『魔王親衛隊』だ。
「貴様ら何者だ! 結界を破るとは只者ではないな!」
「侵入者だ! 殺せぇぇぇ!」
数百の魔族兵が一斉に襲いかかってくる。
俺は悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃ! 無理無理! 俺はFランクだぞ!」
「……掃除の時間ですね」
ネギオが一歩前に出る。
その姿は、いつもの執事然とした佇まいだが、背中からは殺意の波動が立ち昇っている。
「マスターたちの愛の行進(ただの強盗)を邪魔する雑草ども。……間引きます」
ネギオの両腕が変形する。
右腕はパイルバンカー。左腕はボタニカル・ブラスター。
「――『フルバースト・ガーデニング(殲滅的庭いじり)』」
ドガガガガガガガッ!!
ズドォォォォォン!!
一瞬だった。
魔族兵たちが、文字通り「ゴミ」のように吹き飛ばされ、壁にシミを作っていく。
四天王クラスの幹部ですら、ネギオの杭打ちで天井に突き刺さった。
「……掃き掃除、完了しました」
「ネギオさん、素敵ですわ! ヴァージンロードの露払いですわね!」
「強すぎて引くわ……」
俺たちは、魔族の死屍累々(気絶)を踏み越え、城の最奥へと進んだ。
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そして、ついにたどり着いた「玉座の間」。
重厚な扉を(ルナが魔法で吹き飛ばして)開けると、そこには世界の支配者が座っていた。
闇色のマント。ねじれた角。圧倒的な威圧感。
魔王ヴァーミリオン。
「……よくぞ来た、人間よ」
魔王が重々しく口を開く。
その声だけで、空気がビリビリと震える。
「我が結界を破り、親衛隊を退けるとは……。貴様ら、何者だ? 世界を救う勇者か? それとも……」
魔王がゆっくりと立ち上がり、魔剣を抜こうとした。
その瞬間、俺とルナは同時に叫んだ。
「金を出せぇぇぇぇぇ!!」(リカル)
「指輪をくださいなぁぁぁ!!」(ルナ)
「…………は?」
魔王の動きが止まった。
威厳に満ちた顔が、鳩が豆鉄砲を食らったように固まる。
「……か、金? 指輪?」
「そうだ金だ! 100億だ! お前の隠し財産を全部よこせ!」
俺は木の棒(元・聖剣)を突きつけて喚いた。
恐怖などとうに消えていた。借金取りに追われる恐怖に比べれば、魔王など可愛いものだ。
「お、おい待て人間。貴様、勇者ではないのか?」
「俺は冒険者だ! Fランクの! 借金まみれのな!!」
「……えぇ……(困惑)」
魔王が後ずさる。
そこへ、ルナが追い打ちをかけるように詰め寄った。
「魔王さん! ここが結婚式場で間違いありませんよね? 神父役はあなたですか? 指輪交換はまだですか!?」
「け、結婚? 誰と誰が……」
「私とリカル様です! さあ、祝福のキッスを促してください!」
ルナが杖を構える。その先端には、要塞をも沈めた「超極大魔法」の光がチャージされていた。
「祝福してくれないと……このお城、更地にしますよ?」
魔王の顔色が、青から白へ、そして透明へと変わっていく。
彼は悟ったのだ。
目の前にいるのは、正義の勇者などではない。
話の通じない、理不尽な災害(バケモノ)だと。
「……ネギオ」
「はい」
「魔王、泣いてないか?」
「恐怖で漏らしかけていますね。……さあ、フィナーレです雑草(リカル)。とどめを」
俺は大きく息を吸い込んだ。
100億ゴールドの借金。詐欺師の汚名。勘違いされた英雄伝説。
全てのケリを、ここでつける。
「覚悟しろ魔王! ……身ぐるみ全部置いていけぇぇぇぇ!!」
こうして。
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