​魔法少女ドジっ子ルナちゃん!愛の貢ぎ物が72時間で石に戻り、F級冒険者の僕が指名手配されました

月神世一

文字の大きさ
12 / 16
第二章 悪徳地上げ屋ルナちゃん爆誕

EP 2

しおりを挟む
百鬼夜行(ゴーレム・パレード)
 深夜2時。
 ターゲットとなる土地『虹の渓谷』を見下ろす丘の上に、俺と魔王ヴァーミリオンは潜伏していた。
「ククク……そろそろだな」
 魔王が悪い顔で笑う。
「今のこの土地の相場は50億ゴールド。だが、今夜から毎晩『謎の地響き』や『不気味な影』が出没すれば、噂は瞬く間に広がる。一週間もすれば、住民は逃げ出し、買い手がつかない『呪われた土地』として暴落する寸法よ」
「……本当に大丈夫か? ルナに『お散歩』を頼んだだけだぞ?」
 俺は不安だった。
 あの天然娘に、適度な「脅かし」なんて器用な真似ができるとは思えない。
「案ずるな。所詮は人間の娘が作るゴーレムだ。せいぜい土人形が数体、ウロウロする程度だろう。可愛らしいものよ」
 魔王は余裕綽々でワイン(安物)を傾けた。
 その時だった。
 ズゥゥゥゥゥン……。
 地面が揺れた。
 コップの中のワインが、ジュラシックな映画のように波紋を広げる。
「む? 地震か?」
「いや、違う……。あの足音のリズムは……」
 ズシン!! ズシン!! ズシン!!
 リズムに合わせて、木々がバキバキと薙ぎ倒される音が近づいてくる。
 そして、闇の向こうから、明るい歌声が聞こえてきた。
「あ~るこ~♪ あ~るこ~♪ わたしはげんき~♪」
 ルナだ。
 彼女は渓谷の入り口を、楽しそうにスキップしていた。
 問題は、彼女が引き連れている「ペット(ゴーレム)」たちだ。
「……おい、魔王」
「……なんだ、リカル」
「あれ、土人形か?」
 俺たちが目にしたのは、月明かりに照らされた異形の行進だった。
 先頭を歩くのは、身長30メートルはある「超重機動要塞型ゴーレム」。素材はまさかのミスリル製で、歩くたびに銀色の火花を散らしている。
 その後ろには、首が三つある「ケルベロス型ゴーレム」。口から溶岩をヨダレのように垂らしている。
 さらに上空には、石でできた「ガーゴイル編隊」が数百体、戦闘機のように旋回していた。
「……」
「……」
 魔王がワイングラスを握りつぶした。
「軍隊だァァァァァ!! 呪いとかそういうレベルじゃねぇ! 侵略戦争だァァァァ!!」
「ルナァァァ! お前、素材どこから持ってきた!?」
 俺の叫び声など届くはずもなく、ルナは楽しそうに指揮棒(世界樹の杖)を振る。
「さあポチ(要塞型)、タマ(ケルベロス型)! 元気に走りましょうね! かけっこですわ!」
 グオォォォォォォン!!
 ルナの号令と共に、ゴーレム軍団が全力疾走を開始した。
 30メートルの巨体が走る。それはもはや天変地異だ。
 渓谷の地形が変わる。川の流れが変わる。山が削れる。
 ◇
 【渓谷の麓・地主の屋敷】
「ひ、ひぃぃぃ! な、なんだあれはぁぁぁ!」
 この土地を所有する強欲な地主が、窓から外を見て腰を抜かしていた。
 窓の外には、満月を背に咆哮するケルベロス(石)と、山を踏み砕く巨人(銀)のシルエット。
 この世の終わりの光景だった。
「じ、地獄の蓋が開いたんだ! ここは呪われた土地なんかじゃない、魔界の最前線だぁぁぁ!」
「旦那様! 逃げましょう! 屋敷が揺れで倒壊しますぅぅ!」
 使用人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
 地主もまた、金庫の中身だけを掴んで裸足で逃げ出した。
「売る! 売ってやる! こんな土地、タダでもいらんわぁぁぁ!」
 ◇
 翌朝。
 そこには、綺麗に整地(破壊)された更地と、げっそりした俺たちがいた。
「……やりすぎだ」
「あら? 昨日はちょっと運動不足解消に走っただけですわよ?」
 ルナは爽やかな笑顔で汗を拭っている。
 その背後には、役目を終えて土に戻ったゴーレムたちの残骸(大量のミスリル鉱石を含む)が山となっていた。
「計算終了しました」
 ネギオが被害状況を確認し、報告する。
「昨夜のパレード(大災害)により、周辺住民の退去率は100%。地主は『二度と戻りたくない』と精神崩壊を起こしています」
「……で、地価はどうなった?」
「暴落ですね。現在の評価額、推定5億ゴールド以下。もはや『土地』としての価値はなく、『危険区域』扱いです」
「下がりすぎだろ!!」
 50億の土地が、一夜にして10分の1以下。
 計画以上の成果(大暴落)だが、同時に「温泉リゾート」を作るための自然環境も半分くらい消し飛んでいた。
「くっくっく……」
 魔王ヴァーミリオンが、震える肩を抑えて笑い出した。
「素晴らしい……! まさかこれほど完璧に破壊工作を行うとは! ルナ殿、貴様こそ真の魔王かもしれん!」
「あら、お褒めの言葉ですか? 照れますわ!」
「褒めてねぇよ! 皮肉だよ!」
 俺はツッコんだが、魔王は既に商人の顔になっていた。
「よし、今が買い時だ! 地主が逃げ出した今、代理人を通じてこの土地を買い叩く! 10億あれば、土地代だけでなく周辺の山ごと買えるぞ!」
「あ、ああ……そうだな。これで第一段階はクリアか」
 俺たちは、自分たちが引き起こした災害の跡地(更地)を見つめながら、次なるステップへと進むことにした。
 
 そう、魔王のなけなしのヘソクリ10億を使って、このゴミ同然の土地を買い取り――そこから、ゴルド商会への返済金50億を捻出するという、自転車操業の始まりだ。
「リカル様、見てください! 地面からお湯が出てますわ!」
「……それ、お湯じゃないな。マグマだな」
 前途多難。
 だが、俺たちの「魔界温泉ランド計画」は、爆音と共に動き出したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

処理中です...