鬼神と月兎

月神世一

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もう一つの未来

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雷霆の産声


炎は容赦なく、兎の人形を灰へと変えていく。かつてユウが抱きしめた柔らかな感触も、たつまろが触れた温もりも、今はもうない。物理的な形は完全に消滅し、ただ熱と光だけが支配する世界。


しかし、ユイの意識は、その灼熱の中で驚くほど澄み渡っていた。身体という軛くびきから解き放たれ、魂と呼ぶべき純粋な存在となった感覚。それは、痛みも苦しみもない、ただ在る、という不思議な浮遊感だった。


(たつまろ…)


彼の名を思う。救いたい、と強く願う。その瞬間、魂の中心から放たれる光が、一層強く輝きを増した。まるで、暗闇に灯された灯火が、遠いどこかからの呼び声に呼応するように。


声が聞こえた気がした。いや、音ではない。もっと根源的な、存在そのものに響くような波動。それは問いかけのようでもあり、あるいは、大いなる意志がユイという存在を認識し、その願いを受け止めた証のようでもあった。


次の瞬間、ユイの魂は、抗いがたい力によって引き上げられた。燃え盛るゴミ捨て場の炎から、暗い夜空へ、そして、星々の輝く遙か高みへと。物理的な移動ではない。意識の飛翔。魂の次元上昇。


宇宙の深淵に触れるような感覚。万物の成り立ち、時間の流れ、生命の輪廻。世界の理ことわりが、膨大な情報として、しかし瞬時に理解できる形で、彼女の存在に流れ込んでくる。それは、人間だった頃には想像もできなかった、広大で深遠な知識だった。


そして、彼女の魂そのものが変容していく。純粋な光のようだった存在が、確かな形を取り戻していく。それは、かつての巫女の姿とも、人形の姿とも違う、もっと根源的で、力強い、神々しいとさえ言えるような姿。同時に、内側から凄まじい力が湧き上がってくるのを感じた。天を引き裂き、地を揺るがすような、荒々しくも清浄なエネルギー。それは、天罰を下し、あるいは恵みをもたらす、雷いかずちの力。


(これが…僕…?)


ユイは、自らが変容したことを理解した。もはや、ただの人間でも、無力な人形でもない。人々の祈りや願い、あるいは世界の法則そのものによって形作られた、超越的な存在。そう、「神」と呼ばれる領域に、足を踏み入れたのだ。


新たな視界が開ける。それは、時空を超えたかのような、広大な視野。地上を見下ろすと、苦しみに満ちた世界が見えた。そして、その中でも一際暗く、深い絶望と狂気を放つ魂が見えた。


(たつまろ…!)


血と暴力に塗れ、「死を呼ぶ4番」として恐れられながら、その魂の奥底では今も苦しみ、叫び続けている彼の姿。以前とは比べ物にならない力と視界を得たユイには、それが痛いほどに分かった。


(待っていて、たつまろ)


かつての無力な自分ではない。今の僕なら。


(今度こそ、僕が…!)


ユイの瞳に、決意の光が宿る。それは、雷霆が迸る瞬間の閃光にも似ていた。神としての最初の一歩を、彼女は、ただ一人の愛しい人のために、踏み出していた。

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