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鬼神と月兎
EP 33
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鬼神の舞、勇者の産声
「――俺はもう、一人じゃない」
その言葉を合図に、龍魔呂は動いた。
歩き出したのではない。爆ぜたのだ。
彼の身体から噴き出した赤黒い闘気は、もはや抑え込むことをやめ、彼の意志の下、最も効率的な破壊の形へと練り上げられていた。
「馬鹿め、一人で死にに来たか!」
「囲め! 殺せ!」
魔族兵たちが、龍魔呂へと一斉に殺到する。しかし、彼らが踏み込んだのは、死そのものの領域だった。
「鬼神流――『煉獄車輪(れんごくしゃりん)』!」
龍魔呂の身体が、独楽のように高速で回転する。その遠心力に乗せて放たれた蹴りは、赤黒い闘気の刃となって周囲を薙ぎ払った。円を描くようにして、周囲の魔族兵たちが、鎧ごと断ち切られて吹き飛んでいく。
その一瞬にして生まれた血の道の中を、龍魔呂は、大溶鉱炉の中心で儀式を続ける魔将軍ボロクへと、一直線に突き進む。
「止めろ! あの男を止めろおおお!」
後方の兵士たちが、慌てて魔法の矢や呪詛の弾を放つが、その全ては、龍魔呂の身体に触れる前に、彼の闘気の壁に阻まれて霧散した。
それは、まさしく舞のようだった。
迫り来る改造モンスターの剛腕を、流水のように受け流し、その勢いを利用して別の敵へと叩きつける。敵の剣を素手で掴み取っては、その持ち主ごと、投げ捨てる。
アクアブルックで見せた、理性を失った「Death4」の惨殺ではない。技と、力と、そして、揺るぎない意志が完全に融合した、鬼神流の、完成された戦闘術。
彼は、ただ一人で、軍隊を相手に、戦場を支配していた。
その、圧倒的な「陽動」の隙を、ダイヤたちが見逃すはずもなかった。
「今だ! ドワーフたちを解放するぞ!」
ダイヤを先頭に、ユイとダイチは、捕らえられたドワーフたちがいる檻へと疾走する。
「下がっていろ!」
ダイヤのレイピアが、銀色の閃光となって走り、檻の錠前を的確に破壊していく。
「ユイさん!」
「はい!」
解放されたドワーフの中にいた負傷者に、ユイが駆け寄り、その手のひらから癒やしの光を放つ。
「皆さん、大丈夫ですか! 僕たちが助けに来ました!」
ダイチは、恐怖に震えるドワーフたちの手を、一人一人、懸命に握りしめた。その温かい手と、まっすぐな瞳が、絶望に沈んでいたドワーフたちの心に、小さな希望の火を灯していく。
「おのれ、小賢しい鼠どもが…!」
儀式の詠唱を続けていた魔将軍ボロクが、その状況に気づき、忌々しげに顔を歪めた。詠唱は中断できない。だが、このままでは計画が…。
彼は、儀式のために集めていた邪悪な魔力の一部を、唸るような声と共に、ダイチたちの方へと解き放った。
「――滅びよ!」
凝縮された、純粋な破壊のエネルギー。それは、ダイヤでさえも防ぎきれるかどうか分からない、必殺の一撃だった。
「ダイチ様!」
ダイヤとユイが、咄嗟にダイチの前に立ちはだかる。
だが、その絶望的な一撃が、彼らを飲み込もうとした、その瞬間。
「「「勇者様を、守れええええええっ!!」」」
ダイチによって希望を与えられた、ドワーフたちが叫んだ。
それは、祈りだった。自分たちを救おうとしてくれる、この心優しき少年を守りたいという、魂からの、純粋な願い。
その「想い」が、光となった。
ドワーフたちから、ユイから、そして、龍魔呂と戦うダイヤからさえも、温かい黄金色の光の奔流が生まれ、ダイチの右手の甲、「勇者の聖痕」へと、一斉に注ぎ込まれていく。
「――あ……」
ダイチの全身を、雷に打たれたかのような衝撃が貫いた。
聖痕が、太陽のごとく、眩い光を放つ。
ボロクが放った、必殺の闇の魔力は、その黄金色の光に触れた瞬間、まるで朝霧のように、かき消えていた。
ダイチは、立っていた。
その身を、天まで届くかのような、巨大な黄金の光の柱に包まれて。
その瞳は、もはや気弱な少年のものではない。全てを慈しみ、全てを包み込む、王者の風格を湛えた、穏やかで、しかし絶対的な力を持つ、「勇者」の瞳。
彼は、ゆっくりと右手を掲げた。
その手から、黄金の光が広がり、ドワーフたちと仲間たち全員を包み込む、神々しい防御結界を形成する。
彼は、覚醒したのだ。
戦場の反対側で、魔物の群れを蹂躙していた龍魔呂が、ふと、動きを止めた。
彼は、背後に生まれた、そのあまりにも巨大で、温かい力の気配を、確かに感じ取っていた。
ゆっくりと、振り返る。
そこに立っていたのは、光の柱の中心で、静かに仲間たちを守る、ダイチの姿。
かつての、泣き虫な少年の面影は、もうない。
その姿を見て、龍魔呂の口元に、初めて、誰の目にも分かるほどの、獰猛で、そして、歓喜に満ちた笑みが広がった。
「…ククッ…ハハハ! そうか、てめぇが、俺の探していた『神』か…!」
魔将軍ボロクは、その光景に、絶望と恐怖で顔を引きつらせていた。
「馬鹿な…! 勇者が、ここで、覚醒しただと…!? 計画が、我が偉大なる計画がああああっ!」
戦場の天秤は、完全に傾いた。
片や、全てを破壊し尽くす、赤黒の「鬼神」。
片や、全てを守り抜く、黄金の「勇者」。
二つの伝説が並び立った瞬間、竜の坩堝の戦いは、最終局面へと突入する。
「――俺はもう、一人じゃない」
その言葉を合図に、龍魔呂は動いた。
歩き出したのではない。爆ぜたのだ。
彼の身体から噴き出した赤黒い闘気は、もはや抑え込むことをやめ、彼の意志の下、最も効率的な破壊の形へと練り上げられていた。
「馬鹿め、一人で死にに来たか!」
「囲め! 殺せ!」
魔族兵たちが、龍魔呂へと一斉に殺到する。しかし、彼らが踏み込んだのは、死そのものの領域だった。
「鬼神流――『煉獄車輪(れんごくしゃりん)』!」
龍魔呂の身体が、独楽のように高速で回転する。その遠心力に乗せて放たれた蹴りは、赤黒い闘気の刃となって周囲を薙ぎ払った。円を描くようにして、周囲の魔族兵たちが、鎧ごと断ち切られて吹き飛んでいく。
その一瞬にして生まれた血の道の中を、龍魔呂は、大溶鉱炉の中心で儀式を続ける魔将軍ボロクへと、一直線に突き進む。
「止めろ! あの男を止めろおおお!」
後方の兵士たちが、慌てて魔法の矢や呪詛の弾を放つが、その全ては、龍魔呂の身体に触れる前に、彼の闘気の壁に阻まれて霧散した。
それは、まさしく舞のようだった。
迫り来る改造モンスターの剛腕を、流水のように受け流し、その勢いを利用して別の敵へと叩きつける。敵の剣を素手で掴み取っては、その持ち主ごと、投げ捨てる。
アクアブルックで見せた、理性を失った「Death4」の惨殺ではない。技と、力と、そして、揺るぎない意志が完全に融合した、鬼神流の、完成された戦闘術。
彼は、ただ一人で、軍隊を相手に、戦場を支配していた。
その、圧倒的な「陽動」の隙を、ダイヤたちが見逃すはずもなかった。
「今だ! ドワーフたちを解放するぞ!」
ダイヤを先頭に、ユイとダイチは、捕らえられたドワーフたちがいる檻へと疾走する。
「下がっていろ!」
ダイヤのレイピアが、銀色の閃光となって走り、檻の錠前を的確に破壊していく。
「ユイさん!」
「はい!」
解放されたドワーフの中にいた負傷者に、ユイが駆け寄り、その手のひらから癒やしの光を放つ。
「皆さん、大丈夫ですか! 僕たちが助けに来ました!」
ダイチは、恐怖に震えるドワーフたちの手を、一人一人、懸命に握りしめた。その温かい手と、まっすぐな瞳が、絶望に沈んでいたドワーフたちの心に、小さな希望の火を灯していく。
「おのれ、小賢しい鼠どもが…!」
儀式の詠唱を続けていた魔将軍ボロクが、その状況に気づき、忌々しげに顔を歪めた。詠唱は中断できない。だが、このままでは計画が…。
彼は、儀式のために集めていた邪悪な魔力の一部を、唸るような声と共に、ダイチたちの方へと解き放った。
「――滅びよ!」
凝縮された、純粋な破壊のエネルギー。それは、ダイヤでさえも防ぎきれるかどうか分からない、必殺の一撃だった。
「ダイチ様!」
ダイヤとユイが、咄嗟にダイチの前に立ちはだかる。
だが、その絶望的な一撃が、彼らを飲み込もうとした、その瞬間。
「「「勇者様を、守れええええええっ!!」」」
ダイチによって希望を与えられた、ドワーフたちが叫んだ。
それは、祈りだった。自分たちを救おうとしてくれる、この心優しき少年を守りたいという、魂からの、純粋な願い。
その「想い」が、光となった。
ドワーフたちから、ユイから、そして、龍魔呂と戦うダイヤからさえも、温かい黄金色の光の奔流が生まれ、ダイチの右手の甲、「勇者の聖痕」へと、一斉に注ぎ込まれていく。
「――あ……」
ダイチの全身を、雷に打たれたかのような衝撃が貫いた。
聖痕が、太陽のごとく、眩い光を放つ。
ボロクが放った、必殺の闇の魔力は、その黄金色の光に触れた瞬間、まるで朝霧のように、かき消えていた。
ダイチは、立っていた。
その身を、天まで届くかのような、巨大な黄金の光の柱に包まれて。
その瞳は、もはや気弱な少年のものではない。全てを慈しみ、全てを包み込む、王者の風格を湛えた、穏やかで、しかし絶対的な力を持つ、「勇者」の瞳。
彼は、ゆっくりと右手を掲げた。
その手から、黄金の光が広がり、ドワーフたちと仲間たち全員を包み込む、神々しい防御結界を形成する。
彼は、覚醒したのだ。
戦場の反対側で、魔物の群れを蹂躙していた龍魔呂が、ふと、動きを止めた。
彼は、背後に生まれた、そのあまりにも巨大で、温かい力の気配を、確かに感じ取っていた。
ゆっくりと、振り返る。
そこに立っていたのは、光の柱の中心で、静かに仲間たちを守る、ダイチの姿。
かつての、泣き虫な少年の面影は、もうない。
その姿を見て、龍魔呂の口元に、初めて、誰の目にも分かるほどの、獰猛で、そして、歓喜に満ちた笑みが広がった。
「…ククッ…ハハハ! そうか、てめぇが、俺の探していた『神』か…!」
魔将軍ボロクは、その光景に、絶望と恐怖で顔を引きつらせていた。
「馬鹿な…! 勇者が、ここで、覚醒しただと…!? 計画が、我が偉大なる計画がああああっ!」
戦場の天秤は、完全に傾いた。
片や、全てを破壊し尽くす、赤黒の「鬼神」。
片や、全てを守り抜く、黄金の「勇者」。
二つの伝説が並び立った瞬間、竜の坩堝の戦いは、最終局面へと突入する。
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