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鬼神と月兎
EP 34
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鬼神と勇者
「…ククッ…ハハハ! そうか、てめぇが、俺の探していた『神』か…!」
龍魔呂の歓喜に満ちた声が、戦場に響き渡る。それは、好敵手を見つけた武人の悦びであり、自らが守るべき存在が、ついにその真価を発揮したことへの、不器用な祝福でもあった。
一方、魔将軍ボロクは、その光景に絶望していた。
一体の「鬼神」だけでも手に余るというのに、その背後には、神々しいまでの黄金の光を放つ「勇者」が覚醒した。計画は、もはや完全に破綻した。
「勇者が覚醒しただと? 小賢しい! だが、遅すぎたわ!」
追い詰められたボロクは、狂気の決断を下す。彼は、儀式の詠唱を中断し、その全ての魔力を、未完成の「ゴーレムの核」へと注ぎ込んだ。
「この大溶鉱炉そのものを、貴様ら全員の墓標としてくれるわ! この邪悪なる魂の塊と共に、全て、消し飛べえええっ!」
大溶鉱炉の中心に浮かぶ、黒い心臓。それが、暴走を始めた。亀裂が走り、中から制御不能の闇のエネルギーが、黒い稲妻となって周囲に迸る。炉が、そして、この空洞全体が、崩壊を始めようとしていた。
「龍魔呂様!」
「龍魔呂さん!」
結界の中から、仲間たちの声が飛ぶ。
しかし、龍魔呂は、これまでになく、落ち着いていた。
彼は、背後に立つ、光の柱の中心――ダイチへと、獰猛な笑みを向けた。
「…いい光だ。後ろは任せたぞ、勇者」
黄金の光の中から、ダイチが、力強く頷き返す。その瞳には、もはや怯えはない。自らの役目を理解した、王者の覚悟が宿っていた。
その無言の信頼を合図に、龍魔呂は動いた。
狙うは、ただ一点。全ての元凶である、魔将軍ボロクの首。
「邪魔だ」
迸る闇の稲妻を、彼は、赤黒い闘気の鎧で弾き飛ばしながら、一直線に突っ走る。崩れ落ちる天井の岩盤を、拳の一撃で粉砕し、足元の亀裂を、獣のような跳躍で飛び越える。
もはや、彼の進撃を阻むものは、何もなかった。
「来るな! 来るなあああっ!」
ボロクは、残された最後の魔力で、闇の障壁を幾重にも展開する。しかし、その程度の壁など、今の龍魔呂にとっては、薄紙と同じだった。
彼は、障壁を突き破り、ついにボロクの懐へと到達した。
だが、龍魔呂の狙いは、ボロク自身ではなかった。彼の拳は、ボロクを通り越し、その背後で、今まさに臨界点を迎えようとしていた、巨大な「ゴーレムの核」へと向けられていた。
「鬼神流奥義――」
その拳に、彼の持つ、全ての赤黒い闘気が、極限まで凝縮されていく。
「――『虚無泡影(きょむほうよう)』!」
龍魔呂の拳が、黒い心臓へと、深く突き刺さる。
しかし、衝撃は、なかった。
赤黒い闘気は、爆発するのではなく、まるで黒いインクを水に溶かすかのように、ゴーレムの核の内部へと、静かに浸透していく。そして、その邪悪なエネルギー構造を、根源から「無」へと還していく。
暴走していた核の脈動が、急速に静まっていく。迸っていた闇の稲妻は、光を失い、霧散した。
世界の崩壊を孕んでいた巨大な悪意は、ただの一撃によって、完全に、沈黙した。
「…ば、かな…我が、力が…無に…」
ボロクは、目の前で起きた奇跡が信じられず、呆然と呟いた。
その、がら空きの胴体へ、龍魔呂の、闘気の消えた、ただの拳が、静かに、しかし重く、叩き込まれた。
「ぐ…ぉ…」
魔将軍ボロクは、断末魔さえ上げられず、その場に崩れ落ちた。
主を失ったことで、大溶鉱炉の魔物たちは統率を失い、覚醒した勇者の光に怯え、あるいは、ダイヤとドワーフたちの怒りの反撃の前に、次々と掃討されていった。
やがて、戦いは、終わった。
ダイチが展開していた黄金の光の結界が、ゆっくりと収まっていく。彼は、ふらりとよろめくが、解放されたドワーフたちに、英雄として支えられた。その顔には、疲労の色と共に、確かな自信と、安堵の笑みが浮かんでいた。
空洞の反対側。
龍魔呂は、倒した魔将軍の亡骸の上に立ち、静かに、その光景を見ていた。
戦いを終えた二人は、広大な戦場の両端で、初めて、視線を交わした。
破壊の化身である「鬼神」と、守護の象徴である「勇者」。
言葉は、なかった。
しかし、その視線の中には、互いの力を認め、その役目を果たしたことへの、確かな敬意と、そして、共に死線を越えた仲間だけが分かち合える、深い信頼の響きがあった。
灼熱の「竜の坩堝」で、二つの伝説は、本当の意味で、その絆を鍛え上げたのだった。
「…ククッ…ハハハ! そうか、てめぇが、俺の探していた『神』か…!」
龍魔呂の歓喜に満ちた声が、戦場に響き渡る。それは、好敵手を見つけた武人の悦びであり、自らが守るべき存在が、ついにその真価を発揮したことへの、不器用な祝福でもあった。
一方、魔将軍ボロクは、その光景に絶望していた。
一体の「鬼神」だけでも手に余るというのに、その背後には、神々しいまでの黄金の光を放つ「勇者」が覚醒した。計画は、もはや完全に破綻した。
「勇者が覚醒しただと? 小賢しい! だが、遅すぎたわ!」
追い詰められたボロクは、狂気の決断を下す。彼は、儀式の詠唱を中断し、その全ての魔力を、未完成の「ゴーレムの核」へと注ぎ込んだ。
「この大溶鉱炉そのものを、貴様ら全員の墓標としてくれるわ! この邪悪なる魂の塊と共に、全て、消し飛べえええっ!」
大溶鉱炉の中心に浮かぶ、黒い心臓。それが、暴走を始めた。亀裂が走り、中から制御不能の闇のエネルギーが、黒い稲妻となって周囲に迸る。炉が、そして、この空洞全体が、崩壊を始めようとしていた。
「龍魔呂様!」
「龍魔呂さん!」
結界の中から、仲間たちの声が飛ぶ。
しかし、龍魔呂は、これまでになく、落ち着いていた。
彼は、背後に立つ、光の柱の中心――ダイチへと、獰猛な笑みを向けた。
「…いい光だ。後ろは任せたぞ、勇者」
黄金の光の中から、ダイチが、力強く頷き返す。その瞳には、もはや怯えはない。自らの役目を理解した、王者の覚悟が宿っていた。
その無言の信頼を合図に、龍魔呂は動いた。
狙うは、ただ一点。全ての元凶である、魔将軍ボロクの首。
「邪魔だ」
迸る闇の稲妻を、彼は、赤黒い闘気の鎧で弾き飛ばしながら、一直線に突っ走る。崩れ落ちる天井の岩盤を、拳の一撃で粉砕し、足元の亀裂を、獣のような跳躍で飛び越える。
もはや、彼の進撃を阻むものは、何もなかった。
「来るな! 来るなあああっ!」
ボロクは、残された最後の魔力で、闇の障壁を幾重にも展開する。しかし、その程度の壁など、今の龍魔呂にとっては、薄紙と同じだった。
彼は、障壁を突き破り、ついにボロクの懐へと到達した。
だが、龍魔呂の狙いは、ボロク自身ではなかった。彼の拳は、ボロクを通り越し、その背後で、今まさに臨界点を迎えようとしていた、巨大な「ゴーレムの核」へと向けられていた。
「鬼神流奥義――」
その拳に、彼の持つ、全ての赤黒い闘気が、極限まで凝縮されていく。
「――『虚無泡影(きょむほうよう)』!」
龍魔呂の拳が、黒い心臓へと、深く突き刺さる。
しかし、衝撃は、なかった。
赤黒い闘気は、爆発するのではなく、まるで黒いインクを水に溶かすかのように、ゴーレムの核の内部へと、静かに浸透していく。そして、その邪悪なエネルギー構造を、根源から「無」へと還していく。
暴走していた核の脈動が、急速に静まっていく。迸っていた闇の稲妻は、光を失い、霧散した。
世界の崩壊を孕んでいた巨大な悪意は、ただの一撃によって、完全に、沈黙した。
「…ば、かな…我が、力が…無に…」
ボロクは、目の前で起きた奇跡が信じられず、呆然と呟いた。
その、がら空きの胴体へ、龍魔呂の、闘気の消えた、ただの拳が、静かに、しかし重く、叩き込まれた。
「ぐ…ぉ…」
魔将軍ボロクは、断末魔さえ上げられず、その場に崩れ落ちた。
主を失ったことで、大溶鉱炉の魔物たちは統率を失い、覚醒した勇者の光に怯え、あるいは、ダイヤとドワーフたちの怒りの反撃の前に、次々と掃討されていった。
やがて、戦いは、終わった。
ダイチが展開していた黄金の光の結界が、ゆっくりと収まっていく。彼は、ふらりとよろめくが、解放されたドワーフたちに、英雄として支えられた。その顔には、疲労の色と共に、確かな自信と、安堵の笑みが浮かんでいた。
空洞の反対側。
龍魔呂は、倒した魔将軍の亡骸の上に立ち、静かに、その光景を見ていた。
戦いを終えた二人は、広大な戦場の両端で、初めて、視線を交わした。
破壊の化身である「鬼神」と、守護の象徴である「勇者」。
言葉は、なかった。
しかし、その視線の中には、互いの力を認め、その役目を果たしたことへの、確かな敬意と、そして、共に死線を越えた仲間だけが分かち合える、深い信頼の響きがあった。
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