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鬼神と月兎
EP 35
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夜明けの宴と、英雄の武具
戦いが終わった後の「大溶鉱炉(グランド・フォージ)」は、ドワーフたちの力強い活気に満ちていた。彼らは、同胞を失った悲しみを、炉の炎を再び燃え上がらせることで乗り越えようとしていた。それは、追悼と、そして、未来へと向かうための、彼らなりの儀式だった。
その夜、大溶鉱炉では、盛大な宴が開かれた。
樽ごと持ち出されたエール、豪快に焼かれた巨大な獣の丸焼き、そして、何よりも、ドワーフたちの朗々とした歌声。彼らは、自らの故郷を救った英雄たちを、心の底から歓迎していた。
「黄金の勇者様にかんぱーい!」
「ダイヤの騎士団長殿の飲みっぷりも見事だ!」
「ユイ様は、我らドワーフの女神様だ!」
その歓声の中心で、ダイチは少し照れながらも、嬉しそうにドワーフたちと笑い合っていた。ダイヤは、普段の厳格さが嘘のように、ドワーフの戦士たちとエールのジョッキを豪快に酌み交わしている。ユイは、ドワーフの子供たちに囲まれ、故郷の物語をせがまれていた。
龍魔呂は、その輪から少し離れた場所で、ただ黙って、酒を飲んでいた。
そこへ、長老グロールが、巨大な角杯を持ってやってきた。
「鬼神殿。あんたにも、儂らからの礼を言わせてくれ」
グロールは、龍魔呂の隣にどかりと腰を下ろす。
「あんたの戦いっぷりは、正直、滅茶苦茶で、恐ろしかった。だが、あんたがいなければ、我らは皆殺しにされ、勇者様も危なかった。この通りだ」
グロールは、その立派な髭を揺らしながら、深く頭を下げた。龍魔呂は、それに答えず、ただ、角杯の酒を一口あおった。その沈黙を、グロールは、肯定として受け取った。
宴が終わり、炉の炎が静かになった頃。
グロールは、四人を、大溶鉱炉のさらに奥、一族の長だけが使うという神聖な工房へと案内した。
「言葉だけの感謝では、ドワーフの名が廃る。儂らの誇りにかけて、英雄たちに、ふさわしい武具を贈らせてほしい」
そう言うと、グロールは、工房に控えていたドワーフ最高の鍛冶師たちに、目配せをした。
数日間、カン、カン、という心地よい槌の音が、工房に響き渡った。
そして、完成の日。
「ダイチ様。あなた様には、剣ではなく、これを」
グロールが差し出したのは、ミスリルで造られた、太陽の紋章が刻まれた美しい小手(ガントレット)だった。
「『陽光の小手(サンライト・ガントレット)』。あなた様の聖なる光の力を、増幅させるためのものです。どうか、これ以上、そのお優しい手を、直接危険に晒さぬように」
ダイチがその小手を右手に装着すると、聖痕と共鳴し、温かい黄金の光が溢れ出した。
「ダイヤ殿。貴殿の折れた剣は、この山の主である火竜の心臓の欠片を使い、打ち直した」
差し出された両手剣は、以前よりもさらに力強い輝きを放ち、その刃からは、常に陽炎のような炎が揺らめいていた。
「名付けて、『真・煉獄(しん・れんごく)』。もはや、二度と折れることはあるまい」
ダイヤは、生まれ変わった愛剣を手に取り、その完璧な仕上がりに、感嘆のため息を漏らした。
最後に、グロールは龍魔呂に向き直った。
「鬼神殿。あんたに武器は不要だろう。だが、その指輪…」
グロールは、龍魔呂の指に嵌められた「闘鬼の指輪」を、厳しい目で見つめる。
「それは、あまりにも強大で、あまりにも不安定な代物だ。我らの秘術を使い、その力を少しだけ、制御しやすくさせてもらった」
見ると、指輪には、ドワーフのルーン文字が、緻密に刻み込まれている。それは、荒れ狂う力を鎮め、持ち主の意志と調和させるための、古代の制御術式だった。龍魔呂は、指輪から伝わる闘気が、以前よりも遥かに滑らかに、自らの意志と馴染むのを感じていた。
「…礼を言う」
龍魔呂の、その短い言葉に、グロールは満足げに頷いた。
新たな力を手に入れた一行に、グロールは、厳しい顔で、一つの情報を伝えた。
「魔王軍の狙いは、各地のパワースポットのようだ。『魔の顎』では改造モンスターを、『竜の坩堝』では魔導兵器を。そして、奴らの次なる狙いは、おそらく…」
グロールは、大陸の南方に広がる、広大な森林地帯を指さした。
「…南の大森林。エルフたちの故郷であり、この大陸の魔力の源泉そのものである、『世界樹』じゃ」
世界樹。その言葉に、ユイがはっと顔を上げた。
「もし、世界樹が穢されれば、大陸中のマナが乱れ、世界は死に至ります…!」
「奴らは、それこそを狙っておるのじゃろう。大陸全土を、魔の瘴気で満たすための、最悪の儀式をな」
新たな、そして、これまでで最も危険な脅威。
しかし、今の四人に、迷いはなかった。
「行こう」
ダイチが、力強く言った。その右手の「陽光の小手」が、彼の決意に応えるように、輝きを増す。
「ああ」
「はい!」
「…フン」
鬼神と勇者、騎士と月兎。
ドワーフたちの盛大な見送りを受けながら、四人は、新たな目的地、南の大森林へと、その歩みを進める。
彼らの名は、この日、ドワーフたちの間で、新たな伝説として語り継がれることとなった。
灼熱の坩堝を解放し、友情という名の武具を鍛え上げた、真の英雄たちの物語として。
戦いが終わった後の「大溶鉱炉(グランド・フォージ)」は、ドワーフたちの力強い活気に満ちていた。彼らは、同胞を失った悲しみを、炉の炎を再び燃え上がらせることで乗り越えようとしていた。それは、追悼と、そして、未来へと向かうための、彼らなりの儀式だった。
その夜、大溶鉱炉では、盛大な宴が開かれた。
樽ごと持ち出されたエール、豪快に焼かれた巨大な獣の丸焼き、そして、何よりも、ドワーフたちの朗々とした歌声。彼らは、自らの故郷を救った英雄たちを、心の底から歓迎していた。
「黄金の勇者様にかんぱーい!」
「ダイヤの騎士団長殿の飲みっぷりも見事だ!」
「ユイ様は、我らドワーフの女神様だ!」
その歓声の中心で、ダイチは少し照れながらも、嬉しそうにドワーフたちと笑い合っていた。ダイヤは、普段の厳格さが嘘のように、ドワーフの戦士たちとエールのジョッキを豪快に酌み交わしている。ユイは、ドワーフの子供たちに囲まれ、故郷の物語をせがまれていた。
龍魔呂は、その輪から少し離れた場所で、ただ黙って、酒を飲んでいた。
そこへ、長老グロールが、巨大な角杯を持ってやってきた。
「鬼神殿。あんたにも、儂らからの礼を言わせてくれ」
グロールは、龍魔呂の隣にどかりと腰を下ろす。
「あんたの戦いっぷりは、正直、滅茶苦茶で、恐ろしかった。だが、あんたがいなければ、我らは皆殺しにされ、勇者様も危なかった。この通りだ」
グロールは、その立派な髭を揺らしながら、深く頭を下げた。龍魔呂は、それに答えず、ただ、角杯の酒を一口あおった。その沈黙を、グロールは、肯定として受け取った。
宴が終わり、炉の炎が静かになった頃。
グロールは、四人を、大溶鉱炉のさらに奥、一族の長だけが使うという神聖な工房へと案内した。
「言葉だけの感謝では、ドワーフの名が廃る。儂らの誇りにかけて、英雄たちに、ふさわしい武具を贈らせてほしい」
そう言うと、グロールは、工房に控えていたドワーフ最高の鍛冶師たちに、目配せをした。
数日間、カン、カン、という心地よい槌の音が、工房に響き渡った。
そして、完成の日。
「ダイチ様。あなた様には、剣ではなく、これを」
グロールが差し出したのは、ミスリルで造られた、太陽の紋章が刻まれた美しい小手(ガントレット)だった。
「『陽光の小手(サンライト・ガントレット)』。あなた様の聖なる光の力を、増幅させるためのものです。どうか、これ以上、そのお優しい手を、直接危険に晒さぬように」
ダイチがその小手を右手に装着すると、聖痕と共鳴し、温かい黄金の光が溢れ出した。
「ダイヤ殿。貴殿の折れた剣は、この山の主である火竜の心臓の欠片を使い、打ち直した」
差し出された両手剣は、以前よりもさらに力強い輝きを放ち、その刃からは、常に陽炎のような炎が揺らめいていた。
「名付けて、『真・煉獄(しん・れんごく)』。もはや、二度と折れることはあるまい」
ダイヤは、生まれ変わった愛剣を手に取り、その完璧な仕上がりに、感嘆のため息を漏らした。
最後に、グロールは龍魔呂に向き直った。
「鬼神殿。あんたに武器は不要だろう。だが、その指輪…」
グロールは、龍魔呂の指に嵌められた「闘鬼の指輪」を、厳しい目で見つめる。
「それは、あまりにも強大で、あまりにも不安定な代物だ。我らの秘術を使い、その力を少しだけ、制御しやすくさせてもらった」
見ると、指輪には、ドワーフのルーン文字が、緻密に刻み込まれている。それは、荒れ狂う力を鎮め、持ち主の意志と調和させるための、古代の制御術式だった。龍魔呂は、指輪から伝わる闘気が、以前よりも遥かに滑らかに、自らの意志と馴染むのを感じていた。
「…礼を言う」
龍魔呂の、その短い言葉に、グロールは満足げに頷いた。
新たな力を手に入れた一行に、グロールは、厳しい顔で、一つの情報を伝えた。
「魔王軍の狙いは、各地のパワースポットのようだ。『魔の顎』では改造モンスターを、『竜の坩堝』では魔導兵器を。そして、奴らの次なる狙いは、おそらく…」
グロールは、大陸の南方に広がる、広大な森林地帯を指さした。
「…南の大森林。エルフたちの故郷であり、この大陸の魔力の源泉そのものである、『世界樹』じゃ」
世界樹。その言葉に、ユイがはっと顔を上げた。
「もし、世界樹が穢されれば、大陸中のマナが乱れ、世界は死に至ります…!」
「奴らは、それこそを狙っておるのじゃろう。大陸全土を、魔の瘴気で満たすための、最悪の儀式をな」
新たな、そして、これまでで最も危険な脅威。
しかし、今の四人に、迷いはなかった。
「行こう」
ダイチが、力強く言った。その右手の「陽光の小手」が、彼の決意に応えるように、輝きを増す。
「ああ」
「はい!」
「…フン」
鬼神と勇者、騎士と月兎。
ドワーフたちの盛大な見送りを受けながら、四人は、新たな目的地、南の大森林へと、その歩みを進める。
彼らの名は、この日、ドワーフたちの間で、新たな伝説として語り継がれることとなった。
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