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鬼神と月兎
EP 43
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魔王の迷宮
魔城ゲヘナの内部は、生物の体内のように、不気味な脈動を繰り返していた。黒曜石でできた壁は光を吸収し、通路は、人間の空間認識を狂わせるかのように、歪んで続いている。
「来ます!」
ユイの警告と同時に、通路の壁そのものが、まるで生き物のように蠢き、そこから黒曜石でできたゴーレムの兵士団が、次々と姿を現した。魔王の親衛隊、黒曜の守護者たちだった。
「数は多いぞ! 陣形を組め!」
ダイヤが即座に号令を飛ばす。彼女とライラが左右に展開し、迫り来るゴーレムの足を止める。ダイヤの「真・煉獄」が炎の壁を作り、ライラの聖なる矢が、ゴーレムの魔術的な核を正確に射抜いていく。
「ダイチ様、皆さんの援護を!」
「うん!」
ダイチは、仲間たちを包み込むように、黄金の光の結界を展開する。その聖なる光に触れたゴーレムは、動きが鈍り、その防御力を著しく低下させた。
そして、その好機を、龍魔呂が見逃すはずもなかった。
彼は、弱体化したゴーレムの群れの中へと、ただ一人、突っ込んでいく。
「鬼神流――『破岩連弾(はがんれんだん)』!」
赤黒い闘気を纏った拳と蹴りの連打が、黒曜石の硬い装甲を、まるでビスケットのように粉砕していく。
五人の連携は、もはや芸術の域に達していた。
鬼神が道をこじ開け、騎士と森人がそれを支え、勇者が全てを守り、月兎が全てを癒す。
彼らの前には、いかなる軍勢も、ただの障害でしかなかった。
激しい戦いの末、親衛隊を突破した一行は、やがて、広大な円形の広間へとたどり着いた。
そこには、敵の姿は一体もなかった。ただ、壁一面が、影が映り込む、巨大な黒い鏡で覆われているだけだった。
「…罠か」
ダイヤが警戒する。その時、広間に、再び、あの魔王の声が響き渡った。
『――最後の試練だ、英雄たちよ。お前たちが、本当に、その『絆』とやらを信じているのか、見せてみよ』
その言葉と共に、壁の鏡が、一斉に、彼らの姿を映し出した。
しかし、それは、ただの姿見ではない。鏡の中に映るのは、彼らが心の奥底に封じ込めた、最も深い「恐怖」と「後悔」の光景だった。
ダイヤの鏡には、帝国から追われる裏切り者となり、没落した実家が燃え盛る光景が映る。
ライラの鏡には、世界樹が完全に枯れ果て、仲間たちが瘴気に倒れていく絶望が。
ユイの鏡には、血塗れで倒れるダイチと龍魔呂の姿が。
そして、ダイチの鏡には、故郷の村が、自分を「勇者」として差し出したことを後悔し、自分を罵倒する両親の姿が、映し出されていた。
「あ…ぁ…」
「そんな…!」
仲間たちの心が、過去の悪夢に囚われ、揺らぎ始める。
そして、龍魔呂の鏡。
そこに映っていたのは、あの日の、燃え盛る家の中。腕の中で、か細い声で、彼を呼ぶ、弟のユウ。
『…どうして、助けてくれなかったの、にいちゃん…?』
それは、彼の魂を、根源から蝕む、呪いの言葉だった。
「ぐ…っ!」
龍魔呂の膝が、折れそうになる。赤黒い闘気が乱れ、内なる鬼が、再び、絶望を糧に暴れだそうとしていた。
『ククク…そうだ。それこそが、お前たちの本質。偽りの希望など、脆く、儚い…』
魔王の、嘲笑う声が響く。
だが。
龍魔呂は、もう、あの日の彼ではなかった。
彼は、震える手で、鏡の中のユウへと、そっと、手を伸ばした。
「…すまなかった、ユウ」
その声は、震えていた。しかし、そこには、確かな意志があった。
「俺は、もう、目を逸らさない。お前を守れなかった分まで、今度は…」
彼は、ゆっくりと、背後で同じように苦しむ仲間たちへと、振り返った。
「――こいつらを、絶対に、守り抜く」
その言葉は、誓い。
過去の自分への、そして、未来への、魂の誓約。
彼の全身から、黄金の粒子を纏った、赤黒い闘気が、再び、迸る。それは、もはや狂気の力ではない。覚悟の力だ。その闘気は、彼自身の意志で、目の前の鏡を、粉々に打ち砕いた!
その光景に、ダイチが、はっと我に返る。
「…そうだ…龍魔呂さんの言う通りだ!」
彼は、自らの鏡に映る、両親の幻影に向かって叫んだ。
「辛い思いをさせて、ごめんなさい! でも、僕は、もう逃げない! みんなを助ける、勇者になるんだ!」
ダイチの黄金の光が、広間全体を照らし出す。その光は、仲間たちの心の闇を、優しく、しかし力強く、払拭していく。
ダイヤが、ライラが、ユイが、次々と、自らの意志で、目の前の鏡を打ち砕いていく。
全ての鏡が砕け散った時、広間の奥の壁が、巨大な扉へと姿を変えた。
そこから漏れ出すのは、これまでの比ではない、圧倒的な魔王の気配。
五人は、傷つきながらも、互いを支え、その扉の前に立った。
彼らの瞳には、もはや、一切の迷いはない。
龍魔呂は、その巨大な扉に手をかけると、仲間たちへと、静かに、しかし、力強く、言った。
「――行くぞ」
扉が、開かれる。
その先に待つ、世界の闇の根源へと、五つの光は、今、挑む。
魔城ゲヘナの内部は、生物の体内のように、不気味な脈動を繰り返していた。黒曜石でできた壁は光を吸収し、通路は、人間の空間認識を狂わせるかのように、歪んで続いている。
「来ます!」
ユイの警告と同時に、通路の壁そのものが、まるで生き物のように蠢き、そこから黒曜石でできたゴーレムの兵士団が、次々と姿を現した。魔王の親衛隊、黒曜の守護者たちだった。
「数は多いぞ! 陣形を組め!」
ダイヤが即座に号令を飛ばす。彼女とライラが左右に展開し、迫り来るゴーレムの足を止める。ダイヤの「真・煉獄」が炎の壁を作り、ライラの聖なる矢が、ゴーレムの魔術的な核を正確に射抜いていく。
「ダイチ様、皆さんの援護を!」
「うん!」
ダイチは、仲間たちを包み込むように、黄金の光の結界を展開する。その聖なる光に触れたゴーレムは、動きが鈍り、その防御力を著しく低下させた。
そして、その好機を、龍魔呂が見逃すはずもなかった。
彼は、弱体化したゴーレムの群れの中へと、ただ一人、突っ込んでいく。
「鬼神流――『破岩連弾(はがんれんだん)』!」
赤黒い闘気を纏った拳と蹴りの連打が、黒曜石の硬い装甲を、まるでビスケットのように粉砕していく。
五人の連携は、もはや芸術の域に達していた。
鬼神が道をこじ開け、騎士と森人がそれを支え、勇者が全てを守り、月兎が全てを癒す。
彼らの前には、いかなる軍勢も、ただの障害でしかなかった。
激しい戦いの末、親衛隊を突破した一行は、やがて、広大な円形の広間へとたどり着いた。
そこには、敵の姿は一体もなかった。ただ、壁一面が、影が映り込む、巨大な黒い鏡で覆われているだけだった。
「…罠か」
ダイヤが警戒する。その時、広間に、再び、あの魔王の声が響き渡った。
『――最後の試練だ、英雄たちよ。お前たちが、本当に、その『絆』とやらを信じているのか、見せてみよ』
その言葉と共に、壁の鏡が、一斉に、彼らの姿を映し出した。
しかし、それは、ただの姿見ではない。鏡の中に映るのは、彼らが心の奥底に封じ込めた、最も深い「恐怖」と「後悔」の光景だった。
ダイヤの鏡には、帝国から追われる裏切り者となり、没落した実家が燃え盛る光景が映る。
ライラの鏡には、世界樹が完全に枯れ果て、仲間たちが瘴気に倒れていく絶望が。
ユイの鏡には、血塗れで倒れるダイチと龍魔呂の姿が。
そして、ダイチの鏡には、故郷の村が、自分を「勇者」として差し出したことを後悔し、自分を罵倒する両親の姿が、映し出されていた。
「あ…ぁ…」
「そんな…!」
仲間たちの心が、過去の悪夢に囚われ、揺らぎ始める。
そして、龍魔呂の鏡。
そこに映っていたのは、あの日の、燃え盛る家の中。腕の中で、か細い声で、彼を呼ぶ、弟のユウ。
『…どうして、助けてくれなかったの、にいちゃん…?』
それは、彼の魂を、根源から蝕む、呪いの言葉だった。
「ぐ…っ!」
龍魔呂の膝が、折れそうになる。赤黒い闘気が乱れ、内なる鬼が、再び、絶望を糧に暴れだそうとしていた。
『ククク…そうだ。それこそが、お前たちの本質。偽りの希望など、脆く、儚い…』
魔王の、嘲笑う声が響く。
だが。
龍魔呂は、もう、あの日の彼ではなかった。
彼は、震える手で、鏡の中のユウへと、そっと、手を伸ばした。
「…すまなかった、ユウ」
その声は、震えていた。しかし、そこには、確かな意志があった。
「俺は、もう、目を逸らさない。お前を守れなかった分まで、今度は…」
彼は、ゆっくりと、背後で同じように苦しむ仲間たちへと、振り返った。
「――こいつらを、絶対に、守り抜く」
その言葉は、誓い。
過去の自分への、そして、未来への、魂の誓約。
彼の全身から、黄金の粒子を纏った、赤黒い闘気が、再び、迸る。それは、もはや狂気の力ではない。覚悟の力だ。その闘気は、彼自身の意志で、目の前の鏡を、粉々に打ち砕いた!
その光景に、ダイチが、はっと我に返る。
「…そうだ…龍魔呂さんの言う通りだ!」
彼は、自らの鏡に映る、両親の幻影に向かって叫んだ。
「辛い思いをさせて、ごめんなさい! でも、僕は、もう逃げない! みんなを助ける、勇者になるんだ!」
ダイチの黄金の光が、広間全体を照らし出す。その光は、仲間たちの心の闇を、優しく、しかし力強く、払拭していく。
ダイヤが、ライラが、ユイが、次々と、自らの意志で、目の前の鏡を打ち砕いていく。
全ての鏡が砕け散った時、広間の奥の壁が、巨大な扉へと姿を変えた。
そこから漏れ出すのは、これまでの比ではない、圧倒的な魔王の気配。
五人は、傷つきながらも、互いを支え、その扉の前に立った。
彼らの瞳には、もはや、一切の迷いはない。
龍魔呂は、その巨大な扉に手をかけると、仲間たちへと、静かに、しかし、力強く、言った。
「――行くぞ」
扉が、開かれる。
その先に待つ、世界の闇の根源へと、五つの光は、今、挑む。
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