『F-35B、ミッドウェーに降臨す ~超エリート空自パイロット、一回限りの『魔法』で歴史を覆す~』

月神世一

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EP 26

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鉄底(アイアンボトム)の目
1942年7月2日 10時30分 - 戦艦「大和」長官室(柱島泊地)
受話器を置いた山本五十六の顔には、もはや驚きはなかった。
あるのは、恐ろしいほどの「確信」だけだった。
「……長官」
傍らに立つ首席参謀が、息を呑んで尋ねた。
「ラバウルの坂上顧問は、今、何と?」
「……『テストは成功した』。そう言っていた」
山本は、ソロモン諸島の海図を指差した。
「そして、『鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)』の掃除を、我々に要請してきた」
「掃除…でありますか?」
「うむ。米軍の戦艦・巡洋艦による、ガダルカナル(川口支隊)への夜間艦砲射撃を『予言』し、その『迎撃』を求めてきた」
山本は、ラバウル方面を統括する、第八艦隊司令長官・三川軍一(みかわ ぐんいち)中将の司令部(トラック諸島)へ、電話機(ホットライン)を繋ぐよう命じた。
「三川君か。私だ」
山本は、帝国海軍の運命を左右する、第二の「賭け」に出た。
「ラバウルへ急行せよ。
重巡『鳥海』『青葉』『古鷹』『加古』『衣笠』、軽巡『天龍』『夕張』、および、麾下(きか)の全駆逐艦を率い、ガダルカナルへ突入せよ」
「……!」
電話の向こうで、三川が息を呑む気配がした。敵飛行場が健在な海域への、昼間は自殺行為とも言える突入命令だったからだ。
「……夜だ」
山本は、三川の疑問を先読みした。
「今夜、敵主力艦隊が、我が川口支隊を砲撃しに来る。
それを、貴官の艦隊で、水上戦闘にて『逆迎撃』する」
「しかし、長官! 敵は我々をレーダーで先に探知します! ミッドウェーで証明された通り…」
「案ずるな」
山本は、坂上の存在を、初めて艦隊司令官に明かした。
「ラバウルに、我が軍の『神の目』がいる。
坂上真一1尉。
彼の『魔改造レーダー』を搭載した夜間戦闘機(月光)が、貴官の艦隊の『目』となり、空から敵の位置を、リアルタイムで知らせる」
「……空から、夜間に、艦隊を誘導する…と?」
三川は、その荒唐無稽(こうとうむけい)な戦術に絶句した。
「そうだ」
山本は、断言した。
「貴官は、自分の『目』を信じるな。艦の『電探』も信じるな。
――空(そら)に浮かぶ、坂上顧問の『声』だけを信じろ。
彼が『撃て』と言った瞬間に、貴官の持つ、世界最強の『酸素魚雷(九三式)』の全門を、暗黒の海に叩き込め。
これは、『大本営』ではなく、この私(ヤマモト)個人の、厳命である」
1942年7月2日 23時00分 - ガダルカナル島沖「鉄底海峡」
「……クソっ、揺れる!」
源田実中佐は、再び「月光」の後部電探席で、緑色のブラウン管に顔を押し付けていた。
眼下には、サボ島とガダルカナル島に挟まれた、漆黒の海峡が広がっている。
『こちら「ヴァルキリー(坂上)」』
前席の操縦士のヘッドセットに、ラバウル基地の坂上からの、冷静な声が響き続ける。坂上は、ラバウル司令部で、前線の「天の目(月光=源田)」と、突入する「鉄槌(三川艦隊)」の両方を、直接指揮していた。
「源田さん、状況は?」
「……来た!」
源田は、ブラウン管に現れた、複数の巨大な光点(ブリップ)に叫んだ。
「敵艦隊、サボ島南水道を通過! 隊形、単縦陣!
戦艦らしき大型艦2、重巡4、駆逐艦多数!」
(史実の、スコット少将、あるいはキャラハン少将の艦隊だ!)
『三川艦隊に通達!』
坂上の声が、ラバウルの無線機を通じて、闇の中を疾走する「鳥海」の艦橋に届く。
『こちら三川、感(かん)あり!
――坂上顧問の言う通りだ! 敵艦隊、真正面!』
三川中将もまた、自艦に搭載された「魔改造レーダー(試作22号)」で、敵の姿を捉えていた。
だが、その探知距離は、源田が空から捉えた距離には、まだ及ばない。
『待て!』
坂上が、両軍の突入を制止した。
『敵艦隊、我が川口支隊(陸上)への砲撃体勢に入る! 陣形が崩れる! 今だ!』
米艦隊(ノーマン・スコット少将指揮)は、日本の陸上砲台を沈黙させるため、射撃諸元(データ)の算出に集中していた。
彼らのレーダー(SG)は、前方の陸地(ガダルカナル)に反射する電波(シークラッター)に紛れ、闇に潜む三川艦隊の接近に、気づいていなかった。
『三川司令! 距離2万! 敵、完全に油断している!』
坂上の声が、轟いた。
『九三式酸素魚雷、発射可能全門! 扇状に、発射(ファイア)!』
「……撃(て)ええええっ!!」
三川中将が、旗艦「鳥海」の艦橋で絶叫した。
「全艦、魚雷戦、用意! 撃て!」
「鳥海」「青葉」「古鷹」「衣笠」――
日本の誇る重巡洋艦群の側面から、致死性の「槍」が、音もなく暗黒の海へと放たれた。
この時代の米海軍が、その存在すら知らない、射程2万メートルを超える「長槍(ロングランス)」が、数十本。
同刻 23時15分 - 米艦隊旗艦「サンフランシスコ」艦橋
「……何だ?」
スコット少将は、レーダーに突如として映った、高速で接近する複数の「航跡(こうせき)」に、眉をひそめた。
(魚雷艇か? いや、数が多すぎる!)
「敵襲! 魚雷接近!」
見張り員の絶叫と、魚雷が艦体に突き刺さる轟音は、ほぼ同時だった。
ドッゴオオオオオン!
「サンフランシスコ」の右舷に、2本の魚雷が命中。凄まじい水柱が、艦橋を叩いた。
「1番砲塔、大破!」
「機関室、浸水!」
「どこからだ! 敵はどこだ!」
スコットが叫ぶ。
だが、彼らが探す「敵」は、まだ砲撃射程の遥か外側にいた。
「重巡『ソルトレイクシティ』、被雷!」
「戦艦『ノースカロライナ』、回避運動中!」
「駆逐艦『ダンカン』、轟沈!」
米艦隊は、坂上がオーケストレートした「未来の戦術(レーダー誘導によるアウトレンジ飽和雷撃)」の前に、戦う前に、その戦列をズタズタに引き裂かれた。
『源田さん、上空から戦果を確認しろ!』
『……見えるぞ、坂上!』
源田は、「月光」の窓から、眼下の地獄絵図を見下ろしていた。
『敵艦隊、火の海だ! 3隻、4隻…炎上している!』
『よし!』
坂上の、満足げな声が響いた。
『三川艦隊に通達! これより、第二フェーズ!
――「鉄槌(ハンマー)」を、振り下ろせ!』
「全艦、突撃!」
三川中将は、勝利を確信した。
「砲雷同時戦、用意! 敵残存艦隊を、一隻残らず、この『鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)』に叩き込め!」
レーダーと長距離魚雷で「目」と「牙」を奪われた米艦隊に、無傷の日本重巡洋艦隊が、今、必殺の「砲撃戦」を挑みかかろうとしていた。
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