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EP 2
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正道の騎士と、邪道の暗殺者
「席につけ、ガキ共。HR(ホームルーム)を始めるぞ」
教室のドアが乱暴に開かれ、気怠げな男が入ってきた。
豹の耳を持つ獣人族。鋭い眼光と、それに見合わない疲労感を漂わせた男――クルーガ先生だ。
元近衛騎士にして元敏腕探偵。そして現在は、俺の「裏の顔」を知る数少ない理解者(共犯者)でもある。
彼は教卓に手をつくと、胃薬の袋をゴミ箱に投げ捨ててからクラス全体を見渡した。
「今日からこのクラスの担任になったクルーガだ。俺のモットーは『事なかれ主義』だ。面倒をかけるなよ? ガキ共……特にリアン」
クルーガ先生の視線が、一点に突き刺さる。
俺は頬杖をついたまま、わざとらしく首を傾げた。
「何のことですかね? 先生。僕は品行方正な生徒ですよ」
「……その減らず口が成績に含まれるなら、お前は首席なんだがな」
先生は深くため息をついた。
教室が少しざわつく中、俺の隣の席では、今朝拾った(救出した)人魚姫リーザが、瞳をキラキラさせていた。
「(怖そうな先生ですわ……。でも、先生に従っていれば『給食』が貰えるのですわよね? 給食のためならエンヤコラですわ!)」
彼女の頭の中は、すでに昼食のメニューで埋め尽くされているらしい。
このクラス、前途多難すぎる。
◇
一限目は、屋外演習場での「実技訓練」だった。
太郎国では、貴族であろうと戦う力が求められる。
生徒たちは木製の模擬刀を持ち、ペアを組んで打ち合いを始めていた。
「リアン、僕と組もう」
凛とした声が響く。
現れたのは、金髪碧眼の美少年。アルヴィン侯爵家の嫡男、クラウス・アルヴィンだ。
俺とは家格も同等、幼い頃からの腐れ縁であり――「光」と「闇」のように対照的なライバルでもある。
「お手柔らかに頼むぜ、クラウス様」
「嫌味を言うな。いくぞ!」
開始の合図と共に、クラウスが踏み込んだ。
速い。
アルヴィン流聖騎士剣術。教科書のお手本のような、しかし極限まで研ぎ澄まされた正統派の斬撃。
「っと!」
俺は半身になって切っ先をかわす。
だが、クラウスの剣は止まらない。流れるような連撃。盾がない模擬戦だというのに、彼の剣圧だけで防戦一方に追い込まれる。
「どうしたリアン! 逃げてばかりか!」
「正面からやり合って勝てる相手じゃないんでね!」
カカカッ! と木刀がぶつかる乾いた音が響く。
俺の剣術は、あくまで護身用だ。殺し合いならともかく、ルールの決まった「試合」で、天才クラウスに勝てる道理がない。
じりじりと、演習場の端まで追い詰められる。
「これで終わりだ!」
クラウスが決定的な隙を見つけ、大上段から剣を振り下ろそうとした、その瞬間。
俺は左手に持っていた「鞘(さや)」を、クラウスの顔面めがけて全力で投げつけた。
「なっ!?」
不意をつかれたクラウス。
騎士道精神の塊である彼にとって、武器の一部である鞘を投げるなど、思考の外にある行為だ。
彼は反射的に首をすくめ、顔を庇う。
視界が塞がった。
――ここだ。
俺は姿勢を低くし、無防備になったクラウスの鳩尾(みぞおち)へ、鋭い前蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
苦悶の声と共に、クラウスの体がくの字に折れてよろめく。
俺は追撃の手を緩めない。踏み込み、がら空きの顔面へ右ストレートを放つ。
ゴッ。
鈍い音がして、美少年の顔が歪む。
観衆が息を飲む音が聞こえた。
だが――そこまでだった。
「ふざけるなッ! リアン!!」
激昂したクラウスの瞳に、雷光が走った気がした。
彼は殴られた痛みを気迫でねじ伏せ、体勢を立て直すと、渾身の横薙ぎを一閃させた。
ドガッ!!
「ぐあッ……!」
俺の防御ごと吹き飛ばすような重い一撃。
俺は地面に転がり、模擬刀を取り落とした。
静寂が訪れる。
「勝者、クラウス!」
審判役のクルーガ先生が、淡々と告げた。
その瞬間、張り詰めていた空気が解け、クラスメイトたちから非難の声が上がった。
「おい見ろよ、今の……」
「きたねぇぞ! 鞘を投げるなんて!」
「あんなのは貴族の技じゃない。卑怯者のやり方だ」
嘲笑と軽蔑の視線が俺に刺さる。
俺は土埃を払いながら立ち上がり、痛む腕をさすった。
「痛ってぇ……。やっぱり怒らせると怖いな、クラウスは」
負け惜しみのように軽口を叩く俺を、クラウスは肩で息をしながら睨みつけている。
その顔には、勝利の喜びなど微塵もない。
彼は投げ捨てられた俺の鞘を見つめ、自身の腹部を無意識に押さえた。
「…………」
周囲は俺を卑怯者だと罵っている。
だが、クラウスだけは違った。彼の顔色は青ざめ、冷や汗が流れている。
(――もし、あれが『実戦』だったら)
鞘にナイフが仕込まれていたら?
蹴りの後の拳が、毒塗りの暗器だったら?
最後の追撃を待たず、俺は喉を掻き切られて死んでいたんじゃないか?
「……くそッ」
クラウスは悔しげに唇を噛み、俺に背を向けた。
試合に勝って、勝負に負けた。
そんな顔をしていた。
俺は心の中で苦笑する。
ごめんな、クラウス。俺は英雄にはなれない。
お前が「光」なら、俺はとことん「影」をやってやるさ。
「さてと。……おいリーザ、給食の時間だぞ」
「はっ! 起きましたわ! カレーの匂いがしますわリアン様!」
観客席で寝ていた(空腹で気絶していた?)リーザが、給食という単語に反応して飛び起きた。
この緊張感のなさ。
俺はため息をつきながら、殺伐とした演習場を後にした。
「席につけ、ガキ共。HR(ホームルーム)を始めるぞ」
教室のドアが乱暴に開かれ、気怠げな男が入ってきた。
豹の耳を持つ獣人族。鋭い眼光と、それに見合わない疲労感を漂わせた男――クルーガ先生だ。
元近衛騎士にして元敏腕探偵。そして現在は、俺の「裏の顔」を知る数少ない理解者(共犯者)でもある。
彼は教卓に手をつくと、胃薬の袋をゴミ箱に投げ捨ててからクラス全体を見渡した。
「今日からこのクラスの担任になったクルーガだ。俺のモットーは『事なかれ主義』だ。面倒をかけるなよ? ガキ共……特にリアン」
クルーガ先生の視線が、一点に突き刺さる。
俺は頬杖をついたまま、わざとらしく首を傾げた。
「何のことですかね? 先生。僕は品行方正な生徒ですよ」
「……その減らず口が成績に含まれるなら、お前は首席なんだがな」
先生は深くため息をついた。
教室が少しざわつく中、俺の隣の席では、今朝拾った(救出した)人魚姫リーザが、瞳をキラキラさせていた。
「(怖そうな先生ですわ……。でも、先生に従っていれば『給食』が貰えるのですわよね? 給食のためならエンヤコラですわ!)」
彼女の頭の中は、すでに昼食のメニューで埋め尽くされているらしい。
このクラス、前途多難すぎる。
◇
一限目は、屋外演習場での「実技訓練」だった。
太郎国では、貴族であろうと戦う力が求められる。
生徒たちは木製の模擬刀を持ち、ペアを組んで打ち合いを始めていた。
「リアン、僕と組もう」
凛とした声が響く。
現れたのは、金髪碧眼の美少年。アルヴィン侯爵家の嫡男、クラウス・アルヴィンだ。
俺とは家格も同等、幼い頃からの腐れ縁であり――「光」と「闇」のように対照的なライバルでもある。
「お手柔らかに頼むぜ、クラウス様」
「嫌味を言うな。いくぞ!」
開始の合図と共に、クラウスが踏み込んだ。
速い。
アルヴィン流聖騎士剣術。教科書のお手本のような、しかし極限まで研ぎ澄まされた正統派の斬撃。
「っと!」
俺は半身になって切っ先をかわす。
だが、クラウスの剣は止まらない。流れるような連撃。盾がない模擬戦だというのに、彼の剣圧だけで防戦一方に追い込まれる。
「どうしたリアン! 逃げてばかりか!」
「正面からやり合って勝てる相手じゃないんでね!」
カカカッ! と木刀がぶつかる乾いた音が響く。
俺の剣術は、あくまで護身用だ。殺し合いならともかく、ルールの決まった「試合」で、天才クラウスに勝てる道理がない。
じりじりと、演習場の端まで追い詰められる。
「これで終わりだ!」
クラウスが決定的な隙を見つけ、大上段から剣を振り下ろそうとした、その瞬間。
俺は左手に持っていた「鞘(さや)」を、クラウスの顔面めがけて全力で投げつけた。
「なっ!?」
不意をつかれたクラウス。
騎士道精神の塊である彼にとって、武器の一部である鞘を投げるなど、思考の外にある行為だ。
彼は反射的に首をすくめ、顔を庇う。
視界が塞がった。
――ここだ。
俺は姿勢を低くし、無防備になったクラウスの鳩尾(みぞおち)へ、鋭い前蹴りを叩き込んだ。
「ぐっ……!?」
苦悶の声と共に、クラウスの体がくの字に折れてよろめく。
俺は追撃の手を緩めない。踏み込み、がら空きの顔面へ右ストレートを放つ。
ゴッ。
鈍い音がして、美少年の顔が歪む。
観衆が息を飲む音が聞こえた。
だが――そこまでだった。
「ふざけるなッ! リアン!!」
激昂したクラウスの瞳に、雷光が走った気がした。
彼は殴られた痛みを気迫でねじ伏せ、体勢を立て直すと、渾身の横薙ぎを一閃させた。
ドガッ!!
「ぐあッ……!」
俺の防御ごと吹き飛ばすような重い一撃。
俺は地面に転がり、模擬刀を取り落とした。
静寂が訪れる。
「勝者、クラウス!」
審判役のクルーガ先生が、淡々と告げた。
その瞬間、張り詰めていた空気が解け、クラスメイトたちから非難の声が上がった。
「おい見ろよ、今の……」
「きたねぇぞ! 鞘を投げるなんて!」
「あんなのは貴族の技じゃない。卑怯者のやり方だ」
嘲笑と軽蔑の視線が俺に刺さる。
俺は土埃を払いながら立ち上がり、痛む腕をさすった。
「痛ってぇ……。やっぱり怒らせると怖いな、クラウスは」
負け惜しみのように軽口を叩く俺を、クラウスは肩で息をしながら睨みつけている。
その顔には、勝利の喜びなど微塵もない。
彼は投げ捨てられた俺の鞘を見つめ、自身の腹部を無意識に押さえた。
「…………」
周囲は俺を卑怯者だと罵っている。
だが、クラウスだけは違った。彼の顔色は青ざめ、冷や汗が流れている。
(――もし、あれが『実戦』だったら)
鞘にナイフが仕込まれていたら?
蹴りの後の拳が、毒塗りの暗器だったら?
最後の追撃を待たず、俺は喉を掻き切られて死んでいたんじゃないか?
「……くそッ」
クラウスは悔しげに唇を噛み、俺に背を向けた。
試合に勝って、勝負に負けた。
そんな顔をしていた。
俺は心の中で苦笑する。
ごめんな、クラウス。俺は英雄にはなれない。
お前が「光」なら、俺はとことん「影」をやってやるさ。
「さてと。……おいリーザ、給食の時間だぞ」
「はっ! 起きましたわ! カレーの匂いがしますわリアン様!」
観客席で寝ていた(空腹で気絶していた?)リーザが、給食という単語に反応して飛び起きた。
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