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第二章 ルナミス少年探偵団
EP 6
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勇者の血統、大人の事情を黙らせろ
「よし、突入だ! 俺様の拳が唸るぜ!」
「待てイグニス。まずはフォーメーションを……」
イグニスとクラウスがアジトへ踏み込もうとした、その時だった。
ウゥゥゥゥゥ――ッ!!
けたたましいサイレンの音が、港の静寂を引き裂いた。
パトカー数台と、一台の黒塗りの高級魔導車が、砂煙を上げて現場に滑り込んでくる。
「チッ……。鮫島の旦那にしちゃあ、到着が早すぎるな」
俺が眉をひそめると、車から降りてきたのは鮫島ではなかった。
恰幅の良い、脂ぎったスーツの男と、階級章をつけた警察の上層部らしき男だ。
「待て待て待てぇい!!」
スーツの男――この港を取り仕切る悪徳商人、ドルマン商会の会長が叫んだ。
「何をしている、ガキ共! ここは立ち入り禁止区域だぞ!」
「そうだ! 直ちに解散して家に帰りなさい!」
警察署長(鮫島の上司)も、商人の顔色を窺いながら怒鳴りつけてくる。
なるほど。
この『赤錆団』が長く捕まらなかった理由が分かった。
この商人が盗品を裏ルートで捌き、警察の上層部に賄賂を渡して捜査を握りつぶしていたわけだ。
「おいおい、おじさんたち。今、いいところなんだよ」
俺が一歩前に出ると、署長は鼻で笑った。
「はんっ! 小学生が探偵ごっこか? これは『大人の事情』というやつだ。ミルクでも飲んで寝てなさい!」
「そうだ! この倉庫の管理権は私にある! 不法侵入で訴えるぞ!」
大人の論理。権力の壁。
普通の子どもなら、ここで泣いて帰るところだろう。
だが――残念だったな。
うちの探偵団には、この国で一番「怒らせてはいけない親」を持つ少女がいる。
「……リリス。出番だ」
俺が合図を送ると、栗色の髪を揺らして、リリスが一歩前に出た。
彼女はスカートの埃を払い、可愛らしく小首を傾げた。
「あのぉ、おじ様たち?」
「あぁ? なんだお嬢ちゃん。人形遊びなら他所で……」
「私のパパに、言いつけてもいいんですか?」
リリスはニコリと微笑んだ。
その笑顔の背後に、巨大な『勇者』の幻影が立ち上る。
「パパ? 誰だそれは」
「勇者アリスター。……あと、ママは聖女セシルです」
その二つの名前が出た瞬間、大人たちの動きが凍りついた。
「ゆ、ゆゆゆ、勇者アリスターだとぉ!?」
「あの大戦で魔王の角をへし折った、伝説の英雄か!?」
「そ、その娘……!?」
リリスは追い打ちをかけるように、スマホを取り出した。
「パパ、最近心配性でねぇ。『リリスが学校で嫌な目に遭ったら、いつでも言いなさい。パパが聖剣エクスカリバーで、その国ごと更地にしてあげるから』って言ってるんです」
ヒュッ、と大人たちが息を飲む音がした。
勇者アリスターは、魔王討伐後は極度の親バカと化している。彼にとって、娘の涙は世界崩壊のトリガーだ。
「それにぃ……ママも怖いの。『リリスの邪魔をする害虫は、神聖魔法(ホーリー・レイ)で浄化しなきゃね♡』って」
「ひぃぃぃっ!?」
署長の膝がガクガクと震え出す。
勇者と聖女。この国の最高戦力にして、歩く戦略核兵器。
その娘を敵に回すということは、太郎国軍隊ですら守りきれない『死』を意味する。
「あ、それとですね」
俺も横から口を挟んだ。
「この探偵団の顧問弁護士兼スポンサーは、リベラ・ゴルド理事長です。……もし僕たちの捜査を妨害したとなれば、ゴルド商会の全ルートを使って、ドルマン商会さんを兵糧攻めにすることになりますが?」
「ゴ、ゴルド商会までバックにいるのか……ッ!?」
商人の顔色が土気色になり、脂汗が滝のように流れ落ちた。
勇者の武力と、ゴルド商会の財力。
この二つを相手にして、勝てる『大人の事情』など、この世界には存在しない。
「う、ううぅ……」
商人と署長は顔を見合わせ、そして崩れ落ちるように膝をついた。
見事な土下座(ドゲザ)だ。
「ど、どうぞ……お通りください……!」
「我々は何も見ておりません! 好きに捜査してくださいぃぃ!」
「ふふっ。分かればよろしいのです♡」
リリスは満足げにVサインをした。
さすがは『政治担当』。親の七光りを最大限に利用する、その図太さ。将来は大物になるぞ。
「道は開けたな」
俺は震える大人たちを跨ぎ越え、仲間たちに号令をかけた。
「邪魔者は消えた! イグニス、クラウス! やってやれ!」
「おうよ! 待ちくたびれたぜ!」
「……まったく。君たちのやり方は心臓に悪いが、今回だけは感謝する!」
イグニスとクラウスが、獰猛な笑みを浮かべて倉庫の正面玄関へと走る。
さあ、ここからは『子供の時間』だ。
大人たちが作った腐った扉を、力づくでこじ開けてやろう。
「よし、突入だ! 俺様の拳が唸るぜ!」
「待てイグニス。まずはフォーメーションを……」
イグニスとクラウスがアジトへ踏み込もうとした、その時だった。
ウゥゥゥゥゥ――ッ!!
けたたましいサイレンの音が、港の静寂を引き裂いた。
パトカー数台と、一台の黒塗りの高級魔導車が、砂煙を上げて現場に滑り込んでくる。
「チッ……。鮫島の旦那にしちゃあ、到着が早すぎるな」
俺が眉をひそめると、車から降りてきたのは鮫島ではなかった。
恰幅の良い、脂ぎったスーツの男と、階級章をつけた警察の上層部らしき男だ。
「待て待て待てぇい!!」
スーツの男――この港を取り仕切る悪徳商人、ドルマン商会の会長が叫んだ。
「何をしている、ガキ共! ここは立ち入り禁止区域だぞ!」
「そうだ! 直ちに解散して家に帰りなさい!」
警察署長(鮫島の上司)も、商人の顔色を窺いながら怒鳴りつけてくる。
なるほど。
この『赤錆団』が長く捕まらなかった理由が分かった。
この商人が盗品を裏ルートで捌き、警察の上層部に賄賂を渡して捜査を握りつぶしていたわけだ。
「おいおい、おじさんたち。今、いいところなんだよ」
俺が一歩前に出ると、署長は鼻で笑った。
「はんっ! 小学生が探偵ごっこか? これは『大人の事情』というやつだ。ミルクでも飲んで寝てなさい!」
「そうだ! この倉庫の管理権は私にある! 不法侵入で訴えるぞ!」
大人の論理。権力の壁。
普通の子どもなら、ここで泣いて帰るところだろう。
だが――残念だったな。
うちの探偵団には、この国で一番「怒らせてはいけない親」を持つ少女がいる。
「……リリス。出番だ」
俺が合図を送ると、栗色の髪を揺らして、リリスが一歩前に出た。
彼女はスカートの埃を払い、可愛らしく小首を傾げた。
「あのぉ、おじ様たち?」
「あぁ? なんだお嬢ちゃん。人形遊びなら他所で……」
「私のパパに、言いつけてもいいんですか?」
リリスはニコリと微笑んだ。
その笑顔の背後に、巨大な『勇者』の幻影が立ち上る。
「パパ? 誰だそれは」
「勇者アリスター。……あと、ママは聖女セシルです」
その二つの名前が出た瞬間、大人たちの動きが凍りついた。
「ゆ、ゆゆゆ、勇者アリスターだとぉ!?」
「あの大戦で魔王の角をへし折った、伝説の英雄か!?」
「そ、その娘……!?」
リリスは追い打ちをかけるように、スマホを取り出した。
「パパ、最近心配性でねぇ。『リリスが学校で嫌な目に遭ったら、いつでも言いなさい。パパが聖剣エクスカリバーで、その国ごと更地にしてあげるから』って言ってるんです」
ヒュッ、と大人たちが息を飲む音がした。
勇者アリスターは、魔王討伐後は極度の親バカと化している。彼にとって、娘の涙は世界崩壊のトリガーだ。
「それにぃ……ママも怖いの。『リリスの邪魔をする害虫は、神聖魔法(ホーリー・レイ)で浄化しなきゃね♡』って」
「ひぃぃぃっ!?」
署長の膝がガクガクと震え出す。
勇者と聖女。この国の最高戦力にして、歩く戦略核兵器。
その娘を敵に回すということは、太郎国軍隊ですら守りきれない『死』を意味する。
「あ、それとですね」
俺も横から口を挟んだ。
「この探偵団の顧問弁護士兼スポンサーは、リベラ・ゴルド理事長です。……もし僕たちの捜査を妨害したとなれば、ゴルド商会の全ルートを使って、ドルマン商会さんを兵糧攻めにすることになりますが?」
「ゴ、ゴルド商会までバックにいるのか……ッ!?」
商人の顔色が土気色になり、脂汗が滝のように流れ落ちた。
勇者の武力と、ゴルド商会の財力。
この二つを相手にして、勝てる『大人の事情』など、この世界には存在しない。
「う、ううぅ……」
商人と署長は顔を見合わせ、そして崩れ落ちるように膝をついた。
見事な土下座(ドゲザ)だ。
「ど、どうぞ……お通りください……!」
「我々は何も見ておりません! 好きに捜査してくださいぃぃ!」
「ふふっ。分かればよろしいのです♡」
リリスは満足げにVサインをした。
さすがは『政治担当』。親の七光りを最大限に利用する、その図太さ。将来は大物になるぞ。
「道は開けたな」
俺は震える大人たちを跨ぎ越え、仲間たちに号令をかけた。
「邪魔者は消えた! イグニス、クラウス! やってやれ!」
「おうよ! 待ちくたびれたぜ!」
「……まったく。君たちのやり方は心臓に悪いが、今回だけは感謝する!」
イグニスとクラウスが、獰猛な笑みを浮かべて倉庫の正面玄関へと走る。
さあ、ここからは『子供の時間』だ。
大人たちが作った腐った扉を、力づくでこじ開けてやろう。
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