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第三章 模擬対抗戦
EP 7
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プラン2発動、エルフの災害
「……ねえ、イグニスさん。リアンさん、帰ってきませんねぇ」
魔の森、上流の川岸。
A班の陣地を見下ろせる高台で、ルナがのんびりと呟いた。
その手には、道中で摘んだ野花が握られている。
「ケッ。あの野郎、ヘマして捕まりやがったな」
イグニスが斧で地面を突きながら鼻を鳴らす。
だが、その表情に焦りはない。
彼らは知っているのだ。リアンが捕まった場合――それは『交渉(プラン1)』が失敗し、最も過激な『殲滅(プラン2)』へ移行する合図であることを。
「仕方ありませんねぇ。……それじゃあ、少し『お掃除』しましょうか」
ルナは川のほとりにしゃがみ込むと、水面から顔を出している岩や、岸辺の柳の木に優しく語りかけた。
「もしもし、森の皆さん。……ちょっと、水の流れを変えてみたい気分じゃないですか?」
ざわっ……。
風もないのに、木々が大きく揺れる。
川底の水草が蠢き、上流の古木がミシミシと音を立てて傾く。
「あそこの窪地(クラウスたちの陣地)に、お水をたくさん届けてあげたいの。……お願いできるかしら?」
バキバキバキッ!
ルナの『植物対話』に応じ、上流で倒木が折り重なり、一時的に堰き止められていた水流が一気に決壊した。
あるいは、ビーバーたちが協力してダムを崩したのかもしれない。
「……うおっ。相変わらず、お前のそれは魔法よりタチが悪いな」
イグニスが半歩下がる。
目の前の川が、怒れる龍のように膨れ上がり、濁流となって下流へ奔り出したからだ。
「ふふっ。私はただ、自然にお願いしただけですよぉ? ルール違反じゃありません」
ルナは無邪気に微笑んだ。
そう、これは魔法攻撃ではない。『自然災害』だ。
誰が責められようか。
◇
一方、A班の陣地。
クラウスたちは、久しぶりの静寂(リアンの爆撃がない)の中で、泥のような眠りを貪っていた。
「……ん、んん……?」
見張りに立っていた生徒の一人が、異変に気づいた。
地面が微かに振動している。
そして、遠くから聞こえる轟音。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「なんだ? 地震か……?」
彼が森の奥へ目を凝らした、その時だった。
ザパァァァァァンッ!!
木々の隙間から、茶色い水の壁が押し寄せてきた。
「なっ!? み、水だぁぁぁ!!」
「て、鉄砲水だ! 起きろぉぉぉ!」
見張りの叫び声で、クラウスたちが飛び起きる。
だが、時すでに遅し。
「きゃああああ! 冷たっ!?」
「テントが! テントが流されるぅぅ!」
A班の陣地は、風除けのために窪地に設営されていた。それが仇となった。
濁流は低い方へと流れ込み、瞬く間にキャンプ地を膝下までの泥水で満たしていく。
「くそっ! なぜこんな時に雨も降っていないのに!」
クラウスが剣を杖にして踏ん張る。
キャルルが木の上に避難し、リリスとキュララが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「高い所へ逃げろ! 物資を守れ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
だが、これはまだ序章に過ぎない。
「ヒャッハー!! 水浴びの後は、泥パックの時間だぜぇぇ!!」
高台から、聞き覚えのある凶悪な笑い声が降ってきた。
「イ、イグニス!?」
見上げれば、崖の上に立つイグニスと、数名のモブ生徒たち(B班)。
彼らは弓を構え――いや、手に持っているのは『泥団子』や『ペイント弾』だ。
「撃てぇぇぇ!!」
ババババババッ!!
雨あられと降り注ぐ弾幕。
足場を奪われ、動きの鈍ったクラウスたちにとって、それは回避不能の爆撃だった。
「ぐわっ!?」
「目が! 目に泥が!」
「服が汚れるぅぅ!」
「くっ……! 反撃だ! 弓隊、構え……!」
クラウスが指示を出そうとするが、足元の泥に滑って体勢が整わない。
一方的な蹂躙。
自然災害と波状攻撃のコンボ。
その混乱のドサクサに紛れて――
「……今だ」
牢屋の中のリアンが、見張りのバロン令息に目配せをした。
「……はい」
バロン令息は、周囲がパニックになっているのを確認すると、震える手で鍵束を取り出し、わざとらしく足元に落とした。
チャリ……。
そして、彼は叫んだ。
「うわぁぁ! 転んだぁ! 鍵を落としちゃったぁぁ!」
なんて棒読みだ。だが、この状況では誰も気に止めない。
リアンは泥水の中に手を突っ込み、鍵を拾い上げると、素早く手錠を解錠した。
カチャリ。
拘束から解き放たれた両腕を回し、リアンはニヤリと笑った。
「……取引成立だ。感謝するぜ、未来の富豪くん」
リアンは牢屋の扉を蹴破り、混乱の渦中へと躍り出た。
目指すは一つ。
敵陣の中央に掲げられた、勝利の証――『軍旗』だ。
「……ねえ、イグニスさん。リアンさん、帰ってきませんねぇ」
魔の森、上流の川岸。
A班の陣地を見下ろせる高台で、ルナがのんびりと呟いた。
その手には、道中で摘んだ野花が握られている。
「ケッ。あの野郎、ヘマして捕まりやがったな」
イグニスが斧で地面を突きながら鼻を鳴らす。
だが、その表情に焦りはない。
彼らは知っているのだ。リアンが捕まった場合――それは『交渉(プラン1)』が失敗し、最も過激な『殲滅(プラン2)』へ移行する合図であることを。
「仕方ありませんねぇ。……それじゃあ、少し『お掃除』しましょうか」
ルナは川のほとりにしゃがみ込むと、水面から顔を出している岩や、岸辺の柳の木に優しく語りかけた。
「もしもし、森の皆さん。……ちょっと、水の流れを変えてみたい気分じゃないですか?」
ざわっ……。
風もないのに、木々が大きく揺れる。
川底の水草が蠢き、上流の古木がミシミシと音を立てて傾く。
「あそこの窪地(クラウスたちの陣地)に、お水をたくさん届けてあげたいの。……お願いできるかしら?」
バキバキバキッ!
ルナの『植物対話』に応じ、上流で倒木が折り重なり、一時的に堰き止められていた水流が一気に決壊した。
あるいは、ビーバーたちが協力してダムを崩したのかもしれない。
「……うおっ。相変わらず、お前のそれは魔法よりタチが悪いな」
イグニスが半歩下がる。
目の前の川が、怒れる龍のように膨れ上がり、濁流となって下流へ奔り出したからだ。
「ふふっ。私はただ、自然にお願いしただけですよぉ? ルール違反じゃありません」
ルナは無邪気に微笑んだ。
そう、これは魔法攻撃ではない。『自然災害』だ。
誰が責められようか。
◇
一方、A班の陣地。
クラウスたちは、久しぶりの静寂(リアンの爆撃がない)の中で、泥のような眠りを貪っていた。
「……ん、んん……?」
見張りに立っていた生徒の一人が、異変に気づいた。
地面が微かに振動している。
そして、遠くから聞こえる轟音。
ゴゴゴゴゴゴゴ……。
「なんだ? 地震か……?」
彼が森の奥へ目を凝らした、その時だった。
ザパァァァァァンッ!!
木々の隙間から、茶色い水の壁が押し寄せてきた。
「なっ!? み、水だぁぁぁ!!」
「て、鉄砲水だ! 起きろぉぉぉ!」
見張りの叫び声で、クラウスたちが飛び起きる。
だが、時すでに遅し。
「きゃああああ! 冷たっ!?」
「テントが! テントが流されるぅぅ!」
A班の陣地は、風除けのために窪地に設営されていた。それが仇となった。
濁流は低い方へと流れ込み、瞬く間にキャンプ地を膝下までの泥水で満たしていく。
「くそっ! なぜこんな時に雨も降っていないのに!」
クラウスが剣を杖にして踏ん張る。
キャルルが木の上に避難し、リリスとキュララが悲鳴を上げて逃げ惑う。
「高い所へ逃げろ! 物資を守れ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
だが、これはまだ序章に過ぎない。
「ヒャッハー!! 水浴びの後は、泥パックの時間だぜぇぇ!!」
高台から、聞き覚えのある凶悪な笑い声が降ってきた。
「イ、イグニス!?」
見上げれば、崖の上に立つイグニスと、数名のモブ生徒たち(B班)。
彼らは弓を構え――いや、手に持っているのは『泥団子』や『ペイント弾』だ。
「撃てぇぇぇ!!」
ババババババッ!!
雨あられと降り注ぐ弾幕。
足場を奪われ、動きの鈍ったクラウスたちにとって、それは回避不能の爆撃だった。
「ぐわっ!?」
「目が! 目に泥が!」
「服が汚れるぅぅ!」
「くっ……! 反撃だ! 弓隊、構え……!」
クラウスが指示を出そうとするが、足元の泥に滑って体勢が整わない。
一方的な蹂躙。
自然災害と波状攻撃のコンボ。
その混乱のドサクサに紛れて――
「……今だ」
牢屋の中のリアンが、見張りのバロン令息に目配せをした。
「……はい」
バロン令息は、周囲がパニックになっているのを確認すると、震える手で鍵束を取り出し、わざとらしく足元に落とした。
チャリ……。
そして、彼は叫んだ。
「うわぁぁ! 転んだぁ! 鍵を落としちゃったぁぁ!」
なんて棒読みだ。だが、この状況では誰も気に止めない。
リアンは泥水の中に手を突っ込み、鍵を拾い上げると、素早く手錠を解錠した。
カチャリ。
拘束から解き放たれた両腕を回し、リアンはニヤリと笑った。
「……取引成立だ。感謝するぜ、未来の富豪くん」
リアンは牢屋の扉を蹴破り、混乱の渦中へと躍り出た。
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