​【元三ツ星シェフの裏稼業】転生した最強の少年は、ヤバすぎるクラスメイト(竜・天使・人魚)の胃袋を料理で掌握し、学園の影の支配者となる

月神世一

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第三章 模擬対抗戦

EP 6

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 檻の中の悪魔、囁き戦術
​「……ふあぁ。暇だな」
​頑丈な丸太で組まれた牢屋の中で、俺(リアン)は仰向けに寝転がりながら、大あくびをした。
A班の陣地は静かだ。
連日の夜襲(爆音矢)と食料不足で疲弊しきった生徒たちは、泥のように眠っている。
​見張りに立っているのは、一人の男子生徒だけ。
彼もまた、立ったまま船を漕ぎそうになるほど消耗していた。
​「おい、そこの君」
「ひっ!? な、何だ囚人!」
​俺が声をかけると、見張りの生徒は過剰にビクリと肩を震わせた。
名札を見る。……バロン男爵家の三男か。
​「そんなに怯えるなよ。……なぁ、この手錠、少しきつくないか? 手首が痛くてかなわないんだが」
「だ、駄目だ! お前は危険人物だ! 拘束を緩めるわけにはいかない!」
​彼は槍を構えて威嚇してくるが、その穂先は震えている。
俺は鉄格子の隙間から、彼をじっと見つめた。
​「……ふーん。いいのか? 俺をそんなに邪険に扱って」
「は?」
「知ってるだろ? 俺の家は『クライン侯爵家』だ。……父上は、息子が不当な扱いを受けたとなると、黙っていない人なんだがなぁ」
​貴族社会において、家格の差は絶対だ。
侯爵家の跡取りである俺に対し、下級貴族である彼が剣を向けること自体、本来なら心臓が縮む行為なのだ。
​「うっ……そ、それは……」
「演習が終わった後、君の実家がどうなるか……想像したことはあるかい?」
​俺が冷たい笑みを向けると、彼の顔から血の気が引いていった。
よし、揺らいだ。あと一押しで――
​「――そこまでだ、リアン!」
​凛とした声が、その空気を切り裂いた。
テントから出てきたクラウスだ。
​「ちっ。お目覚めか、優等生」
「見張りを脅すのはやめろ! ここは戦場だ。家柄も身分も関係ない!」
​クラウスは俺の前に立ちふさがり、正義感に燃える瞳で見張りの生徒を励ました。
​「恐れることはない! 君は『A班の兵士』として、正当な任務を遂行しているだけだ! 侯爵家の圧力など、僕が跳ね除けてやる!」
「ク、クラウス様……! はいっ!」
​見張りの生徒の目に、再び光が戻る。
クラウスは満足げに頷くと、俺を睨みつけた。
​「無駄な抵抗はやめろ。君の仲間(イグニスたち)も、指揮官を失って撤退したようだ。……この勝負、僕たちの勝ちだ」
「……そう見えるか?」
「負け惜しみを。……行くぞ、少し見回ってくる」
​クラウスは部下を連れて、陣地の外周警備へと向かっていった。
さすがは正統派主人公。部下の士気を上げるのが上手い。
​だが――正しすぎる光は、時に足元の影を見落とすものだ。
​   ◇
​クラウスがいなくなり、再び牢屋の前には見張りの生徒と俺だけになった。
​「……ふん。クラウス様に言われた通りだ。お前の脅しには屈しないぞ!」
​生徒は強気に胸を張る。
俺は鉄格子にもたれかかり、先ほどとは違う、低く湿った声で囁いた。
​「……なぁ。脅しじゃないんだ。これは『取引』だよ」
「と、取引?」
​俺はポケットから(没収され損ねた)一枚のキャラメルを取り出し、指先で弾いた。
甘い匂いが、空腹の彼の鼻腔をくすぐる。
​「君の実家……バロン男爵領。最近、特産の『麦』が不作で、資金繰りが苦しいそうじゃないか?」
「ッ!? な、なぜそれを……」
​図星か。
リベラ理事長との雑談で仕入れた情報だ。この国の貴族の懐事情は、全てあの女の頭に入っている。
​「借金の返済期限は来月。……このままじゃ、領地の一部を切り売りしなきゃならない。君も学費が払えなくて、退学の危機にある……違うか?」
​生徒がゴクリと唾を飲む。
彼の額に、嫌な汗が浮かんでいた。
​「クラウスの『正義』は立派だが、君の実家の借金は返してくれないぞ?」
「う……うぅ……」
「だが、俺ならどうにかできる」
​俺は悪魔の笑みで、彼の手元を見つめた。
​「父上(侯爵)に頼んで、君の領地に『農業支援』を出させてもいい。……さらに言えば、リベラ理事長のゴルド商会に口添えして、不作の麦を高値で買い取らせることも可能だ」
​「な……ほん、とうに……?」
​「ああ。俺はこの学園の『影の支配者』だぞ? そのくらい造作もない」
​嘘ではない。リベラに頼めばその程度、電話一本で片付く案件だ。
俺は鉄格子の隙間から手を伸ばし、キャラメルを彼の手のひらに乗せた。
​「条件は一つ。……俺の手錠の鍵を、うっかり落としてくれればいい」
​「……ッ!」
​彼は震える手でキャラメルを握りしめた。
脳内で天秤が揺れている。
『一時の演習での勝利』と、『実家の未来と安定』。
空腹と疲労で判断力が低下した彼にとって、どちらが重いかは明白だった。
​「……本当に、助けてくれるんだな?」
「約束する。俺は敵には容赦しないが、味方には甘いんだ」
​俺がウィンクすると、彼の瞳から『正義の光』が消え、濁った『欲の色』が宿った。
​「……わ、分かった……」
​彼は周囲をキョロキョロと確認すると、腰から鍵束を外し、指先で弄び始めた。
​「あー、疲れたなぁ。手が滑りそうだなぁ……」
​堕ちた。
俺は口元を歪めた。
クラウス、悪いな。お前の騎士道精神では、このドロドロとした大人の事情には勝てないんだよ。
​さあ、あとは外の連中(ルナたち)が派手に花火を上げるのを待つだけだ。
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