​拾った卵が始祖竜だった!通販スキルで育てる為、竜王とラーメン屋を始めたら、最強の3柱と契約してしまい世界が平和になった件

月神世一

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EP 7

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最強の従業員たち
​山奥の静寂は、もはや過去のものとなっていた。
正午過ぎ。太陽が一番高い位置に昇る頃、『麺屋 竜王』の前には長蛇の列が出来ていた。
​「オラァァッ! 列を乱すんじゃねぇ! 食われたい奴から前に出ろォッ!!」
​ドスの効いた怒号が響く。
ホールの接客係、狼王フェンリルだ。
彼は首から「接客係」と書かれた手書きの札(段ボール製)を下げ、並んでいるオークやゴブリン、そして噂を聞きつけてやってきた人間の冒険者たちを睨みつけている。
普通なら客が逃げ帰る対応だが、彼の背後から漂う「逆らったら死ぬ」というプレッシャーが、奇跡的に行列の規律を保っていた。
​「い、いらっしゃいませ……」
「キャーッ! 狼王様こっち向いてー!」
​一部の魔獣マニアや、度胸のある冒険者たちは、その恐怖をアトラクションのように楽しんですらいる。
​厨房では、竜王デュークが真剣な眼差しで麺を湯切りしていた。
​「チャッ! ……チッ、今日の湿度はスープの蒸発が早いな。火力を微調整するか」
​彼の黄金の瞳は、敵を焼き尽くす時よりも鋭く寸胴鍋の中身を見つめている。
その姿からは「世界を滅ぼす竜王」の威厳は消え失せ、完全に「頑固一徹なラーメン屋のオヤジ」の風格が漂っていた。
​そして、配膳係兼・看板娘。
​「はい、豚骨ラーメン大盛り一丁。……ちょっと、私の顔ばかり見てないで早く食べなさいよ。麺が伸びるじゃない」
​不死鳥フレアが、不満げに、しかし優雅な所作で丼を運ぶ。
復活した彼女の美貌は、直視すれば目が焼けるほど輝かしい。
ボサボサだった髪はツヤツヤになり(通販の高級シャンプーのおかげ)、肌は透き通るように白い(通販の高級美容液のおかげ)。
​「あ、ありがとうございます女神様……!」
「俺、このラーメン食ったら真面目に生きるよ……」
​客たちは彼女の美しさと、ふわりと香る残り香に骨抜きにされ、拝みながらラーメンを啜っている。
​そんなカオスな状況を、カウンターの奥から静かに見守る男がいた。
店主代理(実質的支配者)、佐藤太郎である。
​「……回転率は悪くないな」
​彼は頷き、店の入り口に設置した「新兵器」に目をやった。
​昨晩、100万ポイントを投じて通販で購入した『自動券売機(高機能タッチパネル式・自家発電ユニット付き)』である。
異世界の硬貨を投入すると、自動で重量と材質をスキャンして価値を判別する優れものだ(と、太郎が設定でこじつけた)。
​「なんだあの鉄の箱は? 人間が並んで、何やら板(食券)を買っているようだが」
​仕込みの合間にデュークが尋ねてきた。
​「あれは『券売機』です。注文の聞き間違いもなくなるし、お金の計算もしなくて済む。それに……」
​太郎はチラリとフェンリルを見た。
​「フェンリルが売上金を『つまみ食い』するのも防げますからね」
「なるほど。流石だな、太郎」
​デュークがニヤリと笑う。
最強の竜王も、現代のシステム化の波には感服するしかないようだ。
​その時、店内で騒ぎが起きた。
​「おい! なんだこの値段は! たかが汁物に銀貨一枚(千円)だと!? ふざけるな!」
​柄の悪い冒険者パーティの一人が、テーブルを叩いて立ち上がった。
まだこの店の「実態」を知らない、遠方から来た一見さんだろう。
​瞬間。
店内の空気が凍りついた。
​「あァ? テメェ今、ご主人の決めた値段にケチつけたか?」
​フェンリルの背後から、漆黒の殺気が立ち上る。
​「ほう……。我のスープを『たかが汁物』と抜かしたな、下等生物が」
​厨房から、黄金の闘気が漏れ出し、寸胴のスープがボコボコと沸騰する。
​「ちょっと。私の接客中に大声出さないでくれる? 灰にするわよ?」
​フレアの髪が炎のように揺らめき、周囲の温度が急上昇する。
​3柱の殺気が一点に集中した。
冒険者たちは顔面蒼白になり、ガタガタと震え出した。
世界の終わりのような絶望感が、彼らを包み込む。
​「ひ、ひぃぃぃッ! ご、ごめんなさ――」
​彼らが失禁しそうになった、その時。
​「――ストップ」
​パン、と乾いた柏手の音が響いた。
たったそれだけの音で、充満していた殺気が霧散する。
​「店長、フェンリル、フレアさん。業務中です。お客様を脅さないでください」
​太郎がカウンターから出てきた。
彼は冒険者たちの前に立つと、怒るでもなく、ただ事務的に、しかし有無を言わせぬ静けさで告げた。
​「お客様、当店は適正価格で提供しております。使用している素材、手間、そして人件費。すべて計算した上での価格です」
​太郎はニッコリと微笑んだ。
​「お気に召さないのであれば、退店していただいて構いません。ただし、他のお客様のご迷惑になる騒ぎを起こすなら……」
​太郎はチラリと、背後の「従業員」たちに目配せをした。
デューク、フェンリル、フレアが、ニタニタと凶悪な笑みを浮かべてスタンバイしている。
​「……出禁(物理)処分とさせていただきますが、よろしいですか?」
​その笑顔は、背後の怪物たちよりも遥かに恐ろしかった。
底知れぬ「何か」を感じ取った冒険者は、青ざめた顔で座り直した。
​「く、食います! 銀貨一枚、喜んで払います!」
「ありがとうございます。……フェンリル、オーダー通して」
「へい! 豚骨一丁、カタで!!」
​ラーメンが出されると、冒険者は一口食べて涙を流した。
あまりの美味さと、生きて帰れる安堵感による涙だった。
​夕暮れ時。
スープ切れで閉店の看板を出した後、太郎は券売機から売上金を回収した。
ずっしりと重い硬貨の袋。そして、システム画面に表示される『本日の獲得善行ポイント』の数字。
​「今日も大盛況だったな。皆、お疲れ様」
​太郎が労うと、3柱はそれぞれの流儀で応えた。
​「フン、当然だ。我の味に間違いはない」
「腹減ったー! ご主人、俺の賄いは!?」
「あー疲れた。太郎、肩揉んでよ」
​最強の神々を、ただの「同僚」として扱うコンビニ店員。
その光景は、もはやこの森の日常となりつつあった。
だが、その平穏な日常の外側では、とんでもない噂が世界中を駆け巡り始めていたことに、太郎だけが気づいていなかった。
​『竜王、狼王、不死鳥が結託し、謎の黒幕(人間)の下で軍事拠点を築いている』
​と。
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