​拾った卵が始祖竜だった!通販スキルで育てる為、竜王とラーメン屋を始めたら、最強の3柱と契約してしまい世界が平和になった件

月神世一

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EP 8

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噂の拡散と、クロの夜泣き
世界の「リアリティ」は、時として残酷なほど正確に機能する。
情報伝達のラグ。
それが解消された時、マンルシア大陸全土に激震が走った。
ルミナス帝国の諜報機関、商業ギルドのネットワーク、そして冒険者ギルドの酒場。
あらゆる場所で、一つの「噂」がまことしやかに囁かれ始めた。
『西の大森林に、神々を従える黒髪の魔王が現れた』
報告書によれば、その魔王は伝説の竜王を厨房で酷使し、狼王をパシリに使い、不死鳥を侍らせているという。
さらに、謎の「茶色い城砦(段ボールハウス)」を拠点とし、未知の魔道具(券売機)で民から金を巻き上げているらしい。
人々は戦慄した。
一体どれほどの魔力を持てば、三代調停者を支配できるのか、と。
          ◇
一方、噂の震源地である『麺屋 竜王』。
そこには、世界征服の野望とは程遠い、ほのぼのとした(?)日常があった。
「パパ! 抱っこ!」
「はいはい。……クロ、また重くなったな」
太郎は、足元にまとわりつく始祖竜の幼体、クロを抱き上げた。
孵化してから数週間。
最強種族の成長速度は凄まじく、クロはすでに大型犬ほどのサイズになっていた。
黒曜石の鱗は硬度を増し、背中には立派な翼が生え始めている。
「オイ駄犬! クロに唐揚げ(つまみ食い用)を与えるな! 塩分過多だ!」
「ケチくせぇこと言うなよご主人! 将来の魔獣王には肉が必要だろ!」
「あらクロちゃん、こっちにいらっしゃい。お姉さんが高い高いしてあげる」
フェンリルが餌付けしようとし、フレアが可愛がり、デュークが「フン、甘やかすな」と言いつつ最高級チャーシューの切れ端を用意している。
最強の3柱は、すっかり「親戚のオジサン・オバサン」化していた。
しかし、その夜。
平穏な段ボールハウスに激震が走った。
「うぅ……ううぅ……」
深夜、クロが苦しげな唸り声を上げ始めたのだ。
体からは高熱を発し、その熱で敷いていた布団(通販の安物)が焦げ始めている。
「おい太郎! ガキの様子がおかしいぞ!」
飛び起きたデュークが叫ぶ。
クロの全身が赤熱し、周囲の空間がぐにゃりと歪み始めていた。
「ギャァァァッ!!」
クロが泣き叫んだ、その瞬間。
バシュッ!!
衝撃波が段ボールハウスを突き抜けた。
ただの衝撃波ではない。
波を受けた木製のテーブルが、一瞬で「朽ち果てて土に還った」かと思えば、直後に「苗木に戻り」、また「製材された板に戻る」という現象を高速で繰り返したのだ。
「なっ……!?」
「時間操作(タイム・コントロール)かよ!?」
フェンリルが悲鳴を上げて飛び退く。
始祖竜の固有能力。泣き声に混じった魔力が、周囲の時間をデタラメに書き換えているのだ。
「くっ、結界を張る! このままでは店ごと時間が風化するぞ!」
デュークが黄金の闘気でドームを作るが、その結界すらも「張る前の時間」に戻されそうになり、拮抗する。
フレアが癒やしの炎を飛ばすが、クロの体に触れる前に炎が「消える未来」へと飛ばされ、無効化される。
「ダメよ! 私たちの干渉自体が『無かったこと』にされてる!」
「ええい、泣き止ませろ! さもなくばこの一帯が太古の海に戻るぞ!」
神々ですら対処不能の災害(夜泣き)。
世界の危機が迫る中、唯一、動じない男がいた。
「――どいてください」
佐藤太郎である。
彼はパジャマ姿のまま、冷静に電子ボードを展開していた。
「なっ、太郎! 近づくな! 貴様の寿命が吸い取られるぞ!」
デュークの制止を無視し、太郎はクロの枕元に膝をついた。
彼の目には、時空の歪みなど見えていないかのように、ただ苦しむ「我が子」だけが映っていた。
「熱いな……。知恵熱、いや『進化熱』ってやつか」
太郎はボードをタップした。
『購入:お熱とろ~り冷却シート(子供用・12枚入り)』
『購入:小児用風邪シロップ(イチゴ味)』
ポトン、と落ちてきた箱を素早く開ける。
青いジェルシートのフィルムを剥がし、灼熱を発するクロの額に、ピタリと貼り付けた。
ジュワァ……。
ひんやりとした感触と、気化熱による冷却効果。
地球の化学の結晶が、異世界のドラゴンの熱を奪っていく。
「……ぅ?」
クロが薄っすらと目を開けた。
そこに、太郎はシロップの蓋を開け、甘い香りのするピンク色の液体を流し込んだ。
「大丈夫だ。パパがついてる。苦しくない、苦しくない」
太郎は、時空が歪むクロの背中を、一定のリズムで優しくトントンと叩き続けた。
寿命が縮むかもしれない? 時間が狂うかもしれない?
そんなことは、親が子をあやす理由の前では些事にもならない。
「パパ……ちめたい……あまい……」
冷却シートの冷たさと、シロップの甘さ、そして太郎の手の温もり。
それらが安心感となり、暴走していたクロの精神を鎮めていく。
数分後。
空間の歪みが収まり、クロはスースーと健やかな寝息を立て始めた。
「…………」
静寂が戻った部屋で、3柱は呆然と立ち尽くしていた。
「……オイ、嘘だろ? 俺たちの魔法が効かなかった始祖竜を、あんな青い湿布一枚で……」
「あのピンクの液体……もしや『神の霊薬(エリクサー)』か?」
「信じられない……。あの子(太郎)、寿命を削られるどころか、クロちゃんの時間を安定させたわ……」
太郎はクロに布団を掛け直すと、ふぅと息を吐き、3柱に振り返って微笑んだ。
「ただの風邪薬と冷えピタですよ。子供は急に熱を出しますから、常備しておかないと」
そう言って笑う太郎の姿に、デュークたちは戦慄と、それ以上の深い敬服を抱いた。
力でねじ伏せるのではなく、知恵と愛で鎮める。
この男の「強さ」は、やはり底が知れない。
「……フン。貴様には敵わんな」
デュークがボソリと呟き、夜泣き騒動は幕を閉じた。
だが、彼らは気づいていなかった。
この騒動で放たれた時空の歪みが、森の外まで広がり、それを探知した者たちが接近していることに。
翌朝。
開店準備をする『麺屋 竜王』の周囲を、完全武装した集団が音もなく包囲していた。
「……反応はここだ。奪われた神(始祖竜)を取り戻すぞ」
竜人族の精鋭部隊。
彼らはまだ知らない。
自分たちが踏み込もうとしている場所が、神々が住まう「魔境」であることを。
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