​拾った卵が始祖竜だった!通販スキルで育てる為、竜王とラーメン屋を始めたら、最強の3柱と契約してしまい世界が平和になった件

月神世一

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EP 9

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竜人族の襲撃と、静かなる威圧
朝日が昇り、森に朝霧が立ち込める刻限。
『麺屋 竜王』の周囲は、異様な緊張感に包まれていた。
茂みの陰、木の上、そして地中。
数十の気配が、音もなく屋台(と段ボールハウス)を包囲している。
竜人族の精鋭部隊『逆鱗(ゲキリン)』である。
彼らは始祖竜を信仰し、その復活を悲願とする過激派集団だ。
「……間違いない。あのボロ小屋から、神(始祖竜)の強大な魔力が漏れ出ている」
「神を拉致し、あのような粗末な紙の檻に閉じ込めるとは……万死に値する!」
隊長のガルドは、怒りで震える拳を握りしめた。
昨夜の時空振動を探知し、一晩かけてここまで辿り着いたのだ。
相手が何者であろうと、神を穢す者は排除する。
「総員、突入! 神を奪還し、不届き者どもを殲滅せよ!」
ガササッ!
合図と共に、数十人の竜人戦士が一斉に飛び出した。
彼らは竜の如き身体能力で跳躍し、鋭い槍と剣を構え、店を取り囲む。
「動くな! 我らは竜人族精鋭『逆鱗』! 貴様らの悪行は全てお見通しだ!」
ガルドが店先で咆哮した。
普通の人間なら、この殺気だけで心臓が止まるだろう。
だが、彼らの目の前に広がっていたのは、予想外の光景だった。
「……あ?」
店先では、銀髪の青年(フェンリル)が、モップを持って気だるげに床を拭いていた。
カウンターでは、赤い髪の美女(フレア)が、あくびをしながら箸を並べている。
そして厨房には、渋いオヤジ(デューク)が寸胴鍋を睨んでいる。
「……なんだ、客か?」
銀髪の青年が、モップの手を止めてギロリとこちらを見た。
その瞬間、ガルドの背筋に冷たいものが走った。
(なんだ、こいつの目は……。ただの人間じゃない?)
だが、引くわけにはいかない。
ガルドは槍を突きつけ、さらに声を張り上げた。
「とぼけるな! ここに始祖竜様がいるのは分かっている! 神を誘拐し、あまつさえあのような薄汚い紙箱(段ボールハウス)に監禁するなど……!」
「あァ? 監禁? 人聞き悪いこと言ってんじゃねえぞトカゲ野郎」
フェンリルがモップをへし折り、低い唸り声を上げた。
彼の背後に、巨大な氷の狼の幻影が揺らめく。
「五月蝿い。スープの蒸らし時間だと言っているだろうが」
厨房から、黄金の闘気が噴き出した。
デュークが包丁を持ったまま振り返る。その眼光は、竜人たちが崇める「古竜」よりも遥かに恐ろしかった。
「朝から騒々しいわね……。私、お肌のゴールデンタイム明けで機嫌が悪いのよ?」
フレアの髪が炎となって逆巻き、周囲の気温が一瞬で沸点近くまで跳ね上がる。
(な、なんなんだこいつらは……!?)
ガルドたち精鋭部隊は、本能的な恐怖で足が竦んだ。
ただのラーメン屋のはずが、そこには世界を滅ぼせる怪物が三体も揃っていたのだ。
一触即発。
竜王のブレス、狼王の氷牙、不死鳥の劫火が、竜人族を灰にするべく放たれようとした、その時だった。
「――静かに」
凛とした、しかし決して大きくはない声が響いた。
段ボールハウスの入り口から、一人の青年が出てきた。
佐藤太郎である。
彼はエプロンを締めながら、口元に人差し指を当てていた。
「シーッ。今、子供をやっと寝かしつけたところなんです。大声を出さないでもらえますか?」
太郎は怒っていなかった。
殺気も、魔力も放っていない。
ただ、「近所迷惑を注意する住人」のような、あまりにも自然な態度。
だが、その一言の効果は絶大だった。
ピタリ。
暴れ出しそうだった三柱の動きが、完全に停止したのだ。
「……チッ。すまねぇご主人」
「……フン」
「……ごめんなさい」
フェンリルが牙を収め、デュークが闘気を消し、フレアが炎を鎮める。
あの怪物たちが、たった一人の人間の言葉に従った。
その事実に、ガルドは戦慄した。
(この黒髪の男……一体何者だ!? これほどの化け物どもを、言葉一つで従わせるとは……まさか、魔王以上の存在なのか!?)
太郎は静かにガルドの前に歩み寄った。
竜人族の精鋭たちが、恐怖でジリジリと後退する。
「あなたたちが、クロ……始祖竜を探しているのは分かりました。でも」
太郎は真剣な眼差しで言った。
「今は、あの子にとって睡眠が一番大事な仕事なんです。昨夜、熱を出して大変だったんですよ。親なら分かりますよね?」
「お、親……?」
ガルドは混乱した。
神を「あの子」と呼び、あまつさえ自分が親だと言い放つ傲慢さ。
だが、その瞳には嘘も邪念もなく、ただ純粋な慈愛だけがあった。
そして何より、段ボールハウスの隙間から見える始祖竜(クロ)は、鎖に繋がれているわけでもなく、柔らかい布団の上で、幸せそうにお腹を出して眠っていたのだ。
(神が……あんなに無防備に……)
「連れて行きたいなら止めはしません。でも、あの子が起きた時、ちゃんとご飯を作って、遊んで、夜泣きをあやせますか?」
太郎の問いかけに、ガルドは言葉に詰まった。
崇めることはできても、育てることなど考えたこともなかったからだ。
「僕たちは、あの子が自分で空を飛べるようになるまで、ここで見守ると決めました。……それでも邪魔をするなら」
太郎はニコリと微笑んだ。
それは営業用のスマイルだったが、背後に控える三柱(竜王・狼王・不死鳥)が同時に一歩踏み出したことで、とてつもない威圧感となった。
「――出禁(物理)にしますが、よろしいですか?」
カラン……。
ガルドの手から、槍が滑り落ちた。
勝てるわけがない。
武力でも、そして神への「愛」の深さでも。
「……も、申し訳ございませんでしたァァァッ!!」
ガルドはその場に平伏した。
部下たちも一斉に続き、数十人の竜人が地面に額を擦り付ける。
「我らの浅はかな考えで、神とその……ち、父親(パパ)の安眠を妨げるとは! 万死に値します!」
「分かってくれればいいんです。……ああ、それとお腹が空いているなら、食べていきませんか? ちょうど開店時間ですし」
太郎は何事もなかったかのように、暖簾を掛けた。
「フェンリル、お客様をご案内して。デューク、麺茹でお願い。フレアさん、お冷を」
「へいよ!」
「フン、人使いの荒い……」
「はーい」
呆気にとられる竜人たちをよそに、『麺屋 竜王』の一日が始まった。
この日、竜人族の間で新たな伝説が生まれた。
『始祖竜様は、人間界で最強の父と守護者たちに守られ、すくすくと育っておられる』と。
そして、彼らが落とした大量の代金(詫び料込み)によって、太郎の善行ポイントはまたしても跳ね上がったのである。
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