​拾った卵が始祖竜だった!通販スキルで育てる為、竜王とラーメン屋を始めたら、最強の3柱と契約してしまい世界が平和になった件

月神世一

文字の大きさ
11 / 13

EP 11

しおりを挟む
海は涙色、嵐を呼ぶモンスターペアレント
その日、森のラーメン屋『麺屋 竜王』は、開店休業状態にあった。
原因は、異常気象である。
「……やまないな」
店主代理の佐藤太郎は、入り口から曇天を見上げて溜息をついた。
ただの雨ではない。
空を覆っているのは雲ではなく、巨大な「海水のマナ」の塊であり、そこから降り注ぐ雨はしょっぱい塩水だった。
「オイご主人、なんか生臭くねぇか? まるで海の中にいるみてぇだ」
狼王フェンリルが、湿った鼻をヒクつかせて不快そうに唸る。
「湿度が高すぎる。これでは製麺した麺の乾燥具合が変わってしまう。……ええい、鬱陶しい!」
厨房では、竜王デュークがイライラしながら寸胴鍋を睨んでいる。
湿気はラーメン作りの大敵だ。竜王の機嫌が悪いと、スープの味が攻撃的になりすぎるので困る。
その時だった。
ビチャビチャと濡れた足音が近づき、暖簾が力なく持ち上げられた。
「……やってるかしら……?」
現れたのは、濡れ鼠になった女性だった。
透き通るような青い髪に、深海を思わせる藍色のドレス。
本来なら息を飲むほどの美女なのだろうが、今の彼女は、この世の終わりを見たかのような悲壮な顔をしていた。
「いらっしゃいませ。……お客様、ずぶ濡れですよ」
太郎が声をかけると、彼女はカウンター席に座るなり、突っ伏して泣き出した。
「うっ……ううぅ……あの子がぁ……私の可愛いリーザがぁ……!!」
ドザーーーッ!!
彼女の嗚咽に合わせて、外の雨脚が劇的に強まった。
それどころか、店内の床からも海水が染み出し、またたく間にくるぶしまで浸水する。
「うおっ!? なんだこれ、店が沈むぞ!?」
「チッ、この魔力……まさか海王か?」
フェンリルが椅子の上に避難し、デュークが眉をひそめた。
彼女こそ、世界中の海を統べる女王、リヴァイアサン。
三代調停者と並ぶ、海の最強生物である。
だが、太郎の反応は冷静だった。
(店が水浸しになると、掃除が面倒くさいな)
彼は電子ボードを展開すると、手早く操作を行った。
『購入:今治タオル(極厚・超吸水タイプ)』
「お客様、まずはこれで拭いてください。風邪を引きますよ」
太郎は温かいタオルを彼女の肩にかけた。
ふわりとした高級コットンの感触に、リヴァイアサンは泣き腫らした顔を上げた。
「……ありがとう。貴方、優しいのね……」
「温かいお茶も出します。……で、何があったんですか?」
太郎が尋ねると、海王はタオルを握りしめ、再び涙ぐんだ。
「娘が……一人娘のリーザが、家出したのよぉぉぉ!!」
ザッパーン!
店内に小規模な津波が発生した。
「落ち着いてください。お客様が泣くと湿度が上がって、麺が伸びるんです」
太郎は淡々と注意しつつ、話を聞き出した。
どうやら彼女の娘、リーザ王女が「アイドルになりたい」という書き置きを残して、海中国家シーランを飛び出したらしい。
「アイドルって何よぉ! 次期女王の座を捨ててまでやることなの!? しかも、あの子ったらルミナス帝国の貧民街(スラム)で、みかん箱の上で歌ってるって……!」
リヴァイアサンは、水晶玉に映った娘の現状を嘆いた。
「パンの耳を齧って飢えを凌いでるのよ!? あの子、王宮では最高級の真珠しか食べたことないのに! 近所のおばちゃんから貰った『ソウザイ』で生き延びてるなんて……不憫すぎて見てられないわぁぁぁ!!」
泣くたびに水位が上がる。
このままでは、『麺屋 竜王』が海底遺跡になってしまう。
「……分かりました。お客様、まずは何かお腹に入れましょう」
太郎は厨房に入り、デュークに目配せをした。
(店長、あっさり系でお願いします。海鮮ベースで)
(フン、分かった。泣き虫女を黙らせればいいのだな)
太郎は通販スキルで『焼きあご(トビウオ)だしパック』と『ヒマラヤ岩塩』を取り出した。
海の女王に、脂っこい豚骨はミスマッチだ。
ここは故郷の海を感じさせつつ、洗練された一杯が必要だった。
「へい、お待ち。『特製・あご出汁塩ラーメン』です」
透き通るような黄金色のスープ。
トッピングには、炙ったホタテと、白髪ネギ、そして柚子の皮を一切れ。
リヴァイアサンは鼻を啜りながら、レンゲでスープを口に運んだ。
「……んっ」
上品な魚介の旨味が、口いっぱいに広がる。
それは深海の冷たさではなく、陽の光が差し込む浅瀬のような、優しく温かい味だった。
「美味しい……。懐かしい海の味がするわ……」
彼女がため息をつくと同時に、外の豪雨がピタリと止んだ。
店内の水も引き、柔らかな日差しが差し込んでくる。
「少し、落ち着きましたか?」
「ええ……取り乱してごめんなさい。……でも、どうすればいいのか分からないの。私が迎えに行けば、あの子はまた『お母様は過保護すぎる!』って反発するし……でも心配で……」
最強の海竜も、一人の母親としては無力だった。
その姿に、太郎はふと、深夜のコンビニで補導待ちをしていた家出少女たちを思い出した。
「……僕で良ければ、様子を見てきましょうか?」
「え?」
「ちょうど、明日はルミナス帝国へ買い出しに行く予定だったんです。ついでに娘さんに差し入れをして、現状を確認してきますよ」
善行ポイント稼ぎ(人助け)と、街への買い出し。
そして何より、このまま彼女に泣き続けられて営業妨害されるのを防ぐための提案だった。
「本当!? お願いできるの!?」
リヴァイアサンが食い気味に太郎の手を握った。
「貴方なら信用できそう……! お願い、あの子に『温かいご飯』を食べさせてあげて! お代ならいくらでも弾むわ!」
チャリン、とカウンターに置かれたのは、巨大な真珠と、海底に沈んでいたであろう古代金貨。
システム換算で数百万ポイント級の報酬だ。
「承りました。では、娘さんの特徴を教えてください」
こうして、太郎はラーメン屋の仕入れついでに、「家出王女(地下アイドル)」のプロデュースという、厄介極まりない案件を背負い込むことになった。
「パパ、お土産よろしくね!」
「ああ、クロはいい子で留守番してるんだぞ」
翌朝。
太郎はリュックを背負い、フェンリルを護衛(荷物持ち)に従えて、人間たちの住むルミナス帝国へと出発した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...