三つ星シェフ、ネット通販と簿記1級で異世界を経営する~現代食材と物流で経済無双してたら、女神と魔王が常連客になりました~

月神世一

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EP 30

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聖都の新しい神
​ 世界樹が黄金の輝きを取り戻し、空中に『おかわり』の文字を浮かべてから数刻。
 青田優也は、追加で作ったスープを惜しげもなく根元に注ぎ続けていた。
​「よし、顔色が良くなったな。葉のツヤも戻った」
​ 優也は満足げに空の鍋を置いた。
 まるで庭木の手入れを終えた庭師のような態度だが、周囲の反応は劇的だった。
​「おぉ……奇跡だ……」
「アオタ様……いや、聖アオタ様……!」
​ 聖騎士も市民も、地面にひれ伏して優也を拝んでいる。
 数百年間、どんな祈りも届かなかった世界樹を、たった数十分で蘇らせたのだ。彼らにとって優也は、もはや生ける伝説(レジェンド)だった。
​ ただ一人、教皇イグナティウスだけが、現実を受け入れられずに震えていた。
​「ば、馬鹿な……。清貧こそが正義のはず……。魚の死骸のスープで神が喜ぶなど……そんな教義は……!」
​ その時。
 上空から、鈴を転がすような明るい声が降ってきた。
​『あ~、やっと生き返ったわ~。ここ数百年、お腹と背中がくっつくかと思ったもの』
​ パァァァッ……!
 世界樹の輝きの中から、光の粒子が凝縮し、一人の女性の姿を形作った。
 輝く金髪、慈愛に満ちた瞳。
 しかし、その手にはなぜか『缶ビール(アオタ商会で購入)』が握られている。
​ この世界の創造主、女神ルチアナだ。
​「め、女神様ぁぁぁッ!?」
​ 教皇が白目を剥いて土下座した。
 本物の降臨だ。生涯で一度拝めるかどうかの奇跡に、広場中が感涙に咽ぶ。
​「ルチアナ様! 愚かな我々をお導きください! 世界樹様をお救いになったのは、貴女様の御力ですね!?」
​ 教皇がすがりつくように叫ぶ。
 だが、ルチアナはプシュッと缶ビールを開けながら、あっけらかんと言った。
​『ん? 違うわよ。治したのはそこのユーヤ君。……ていうか、私が最近忙しくて(主に飲み会で)、肥料やるの忘れてたのよね~。テヘッ☆』
「…………は?」
​ 教皇の思考が停止した。
​『いや~、観葉植物って水だけじゃ育たないじゃない? たまには栄養剤あげないとね。ユーヤ君のスープ、最高に効いたわ~』
「か、観葉植物……?」
『そうそう。ユーヤ君の言う通り、ただの栄養失調だったの。……イグナティウス、貴方たち真面目すぎ。もっと肩の力抜いて、美味しいもの食べなさいよ』
​ 神託(物理)。
 教皇の信念が、ガラガラと音を立てて崩れ去った。
 数百年守り続けてきた「清貧」の教えは、単なる「園芸知識不足」だったのだ。
​「あ、あぁぁ……私は……私はなんと愚かなことを……!」
「分かればいいんですよ、教皇猊下」
​ 優也が教皇の肩に手を置いた。
​「信仰心は否定しません。ですが、現実はもっとシンプルだ。……腹が減っては戦も、祈りもできませんからね」
​ 教皇は涙を流しながら、優也の手を握りしめた。
​「貴方様こそ……真の預言者……いや、神の庭師です! どうかこの愚か者をお許しください! 何でもします! 靴でも舐めます!」
「靴は結構です。その代わり……」
​ 優也は懐から、予め用意していた書類(契約書)を取り出した。
​「聖都における『アオタ商会』の永続的な営業許可と、関税および法人税の完全免除。……これで手を打ちましょう」
​ 教皇は二つ返事でサインした。震える手で。
 こうして、青田優也は聖都においても、神(と教皇)のお墨付きを得た「アンタッチャブルな商人」となったのである。
​ ***
​ 数日後。
 聖都の『パティスリー・アオタ』は、連日大盛況となっていた。
 もはや隠れる必要はない。
 シスターも神官も、堂々とスイーツを頬張り、教皇すらも「世界樹様への供物(という名目の自分用)」としてキッシュを買いに来る始末だ。
​「ふぅ。……これで聖都の市場も安定したな」
​ 優也は店のカウンターで、売上台帳を閉じた。
 ルナの指名手配も「世界樹再生の功労者」として取り消され、ヴァルキュリアやフレアも常連として定着した。
 平和だ。
​ ――バンッ!!
​ その平和を破るように、店の扉が開かれた。
 息を切らせて飛び込んできたのは、魔公爵ルーベンスだ。
​「ゆ、優也君! 大変だ!」
「どうしました、ルーベンスさん。また新聞のクロスワードが解けないんですか?」
「違う! ……これを見たまえ!」
​ ルーベンスがカウンターに叩きつけたのは、最新の『魔界経済新聞』。
 その一面トップには、衝撃的な見出しが躍っていた。
​ 【魔王ラスティア主催! 『第一回・魔界ラーメン博覧会』開催決定!】
 【経済崩壊の危機!? 麺の原材料費高騰により、魔界通貨(マカイ)が大暴落!】
​「……は?」
「ラスティア様が、君のラーメンに感化されてな……。『魔界中の食材で最高のラーメンを作れ! 作れぬ者は処刑!』と無茶苦茶な命令を出したんだ!」
​ ルーベンスは頭を抱えた。
​「そのせいで魔界中の小麦と豚が徴収され、物流が麻痺している! さらに『スープが不味い』という理由で城が3つ消し飛んだ! ……このままでは魔界の経済が破綻する! 助けてくれ、優也君!」
​ 優也は天を仰いだ。
 聖都の次は、魔界か。
 しかも原因は、自分が広めたラーメン文化。
​「……やれやれ。自業自得(因果応報)ですか」
​ 優也はエプロンを外し、コックコートのボタンを留め直した。
 その瞳に、再び「戦う料理人」の光が宿る。
​「行きましょう、魔界へ。……暴走した魔王を止めるには、本物の『味』を教えるしかない」
​ 次なる舞台は、混沌と暴力が支配する魔界。
 三つ星シェフの新たな戦い――「魔界ラーメン戦争」が、今始まろうとしていた。
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