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EP 37
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両手に花と、白熱のおんぶ争奪戦
秋晴れの空が広がる、サバルテ獣人国の休日。
茶室『和光庵』で一服した後、黒豹(豹耳族)のミーナは、我慢しきれないというように飛鳥の背中にピタッと抱きついた。
「ねぇ飛鳥! ずっと座ってばっかりじゃつまんない! 何処かに遊びに行こうよ!」
ミーナの頭にある豹の耳が、期待でピコピコと愛らしく動いている。
普段の厳しい親衛隊の顔はどこへやら、完全に飼い主に甘える大型猫である。
「おや。遊び、ですか?」
飛鳥は苦笑しながら、背中の重み(と柔らかさ)を受け止めた。
そこへ、お茶を啜っていた女王レオナが、ピクッと反応して立ち上がった。
(……飛鳥殿と遊び……楽しい。それに、城外での逢瀬となれば、さらに親密になれる……!)
レオナの脳内で、素晴らしい計算式が成り立った。
彼女はツカツカと歩み寄ると、有無を言わさず飛鳥の右手をギュッと握りしめた。
「うむ! 飛鳥殿、たまには外の空気を吸い、身体を動かすのも良かろう! 私が案内してやろう!」
「おやおや。……では、少し街の散歩に行きますか」
「うん! 飛鳥、もし歩き疲れたら、私がおんぶしてあげるからね!」
「ミーナ! そ、それは私の役目だ! 抜け駆けは許さんぞ!」
「あらあら」
バチバチと火花を散らす二人を両脇に従え、飛鳥たちは王宮を抜け出し、城下町へと向かった。
サバルテのメインストリートは、活気に満ちていた。
しかし、今日ばかりは露店の売り声よりも、別の「ざわめき」が通りを支配していた。
「おい……見ろよあれ」
「嘘だろ。ミーナ様が、男の手を引いて歩いてるぞ……?」
「な、なんだよあれ……レオナ様まで!? しかも……!」
道行く獣人たちの目が、ピンポン玉のように飛び出している。
それもそのはずだ。
右には、サバルテの絶対王者にして美しき獅子の女王、レオナ。
左には、漆黒の疾風と恐れられる親衛隊副隊長、ミーナ。
その国を代表する絶世の美女二人が、間の抜けたような和服の人間(飛鳥)と、あろうことか**『恋人繋ぎ(指を絡ませる繋ぎ方)』**をして、満面の笑みで歩いているのだ。
「両手に花かよ!」
「誰だよあの男は!? 他国の王子か!?」
「いや、ヒョロヒョロだぞ! 俺の方が絶対強いってのに、なんでお二人があんなデレデレなんだ!」
嫉妬と驚愕の視線が、無数の矢のように飛鳥に突き刺さる。
しかし、当の飛鳥は全く気にした様子もなく、キョロキョロと珍しい屋台の品物を眺めていた。
「ほう。獣人国の木工細工は、とても繊細で美しいですね」
そう言って歩き続けて数十分。
獣人たちの歩幅とペースは、基礎体力のない人間にとって、実はかなりの早歩きに相当する。
「……はぁ、はぁ……」
ふと、飛鳥の足が止まった。
額には玉の汗が浮かび、肩で息をしている。
「飛鳥!?」
「どうした、飛鳥殿! 具合でも悪いのか!?」
二人が慌てて飛鳥の顔を覗き込む。
「いえ……お恥ずかしながら……少し、息が切れてしまいまして……」
「よし! では私が!」
レオナが即座に飛鳥の前にしゃがみ込み、広い背中を向けた。
「さぁ、乗るが良い! 私の背なら、揺れも少なく快適だぞ!」
「駄目ですぅ! 私がおんぶします!」
ミーナがレオナを突き飛ばさんばかりの勢いで割り込む。
「レオナ様は目立ちすぎます! 私のしなやかな筋肉の方が、おんぶには最適です!」
「親衛隊風情が、王に譲れんと言うのか!」
「恋の戦場に身分は関係ありません!」
街のど真ん中で、国境防衛戦よりも激しい女の戦いが勃発した。
飛鳥が「あ、あの、少し休めば歩けますので……」と止めるのも聞かず、二人は睨み合った。
「……ならば、公平に決めよう。じゃんけんだ。交代交代で乗せることにする」
「望むところです! いざ!」
「「最初はグー! じゃんけん、ポン!!」」
レオナは『チョキ』。
ミーナは『グー』。
「やったぁぁぁ!! 勝ちぃっ!!」
ミーナが空に向かってガッツポーズを決めた。
レオナは自分の指を見つめ、「な、何故だ……私の獅子の爪が、豹の拳に負けるなど……!」とワナワナ震えている。
「ふふふーん! さぁ飛鳥、遠慮なく乗って乗って!」
ミーナは嬉々として飛鳥の前に背中を出した。
飛鳥は苦笑いしながら、「では、お言葉に甘えまして……」と、そっとミーナの背中に乗った。
「よっと! うわ、飛鳥、すっごく軽い! もっとご飯食べなきゃ駄目だよ!」
「面目ない。……ですが、ミーナさんの背中は温かくて、とても楽になりました。ありがとうございます」
「ふへへへ~、どう~?」
ミーナは照れ隠しに笑ったが、その後ろでは、彼女の長い黒豹の尻尾が、犬のように**『ブンブンッ!』**と千切れんばかりに振られていた。
背中に当たる飛鳥の体温が嬉しくて仕方ないのだ。
「よし、出発ー!」
「は、早く! ミーナ、早く私に代わるのだ!」
ミーナが歩き出した瞬間、後ろからレオナが血相を変えて追いすがってきた。
「まだ十歩も歩いてないですよ! 私のターンはここから王宮の門までです!」
「長すぎる! ズルいぞ! 時計の針が三つ動いたら交代だ!」
「あの……お二人とも、あまり大声を出すと……」
道行く獣人たちは、
『おい、あの男……ミーナ様におんぶされたぞ……』
『しかも、レオナ様が後ろから順番待ちしてる……』
『なんだあのヒモ男は……(ゴクリ)』
と、さらにドン引き(と一部は尊敬)の視線を送るのであった。
こうして、飛鳥は最強の獣人におんぶされながら、秋の王都を優雅に(?)散歩し続けるのだった。
秋晴れの空が広がる、サバルテ獣人国の休日。
茶室『和光庵』で一服した後、黒豹(豹耳族)のミーナは、我慢しきれないというように飛鳥の背中にピタッと抱きついた。
「ねぇ飛鳥! ずっと座ってばっかりじゃつまんない! 何処かに遊びに行こうよ!」
ミーナの頭にある豹の耳が、期待でピコピコと愛らしく動いている。
普段の厳しい親衛隊の顔はどこへやら、完全に飼い主に甘える大型猫である。
「おや。遊び、ですか?」
飛鳥は苦笑しながら、背中の重み(と柔らかさ)を受け止めた。
そこへ、お茶を啜っていた女王レオナが、ピクッと反応して立ち上がった。
(……飛鳥殿と遊び……楽しい。それに、城外での逢瀬となれば、さらに親密になれる……!)
レオナの脳内で、素晴らしい計算式が成り立った。
彼女はツカツカと歩み寄ると、有無を言わさず飛鳥の右手をギュッと握りしめた。
「うむ! 飛鳥殿、たまには外の空気を吸い、身体を動かすのも良かろう! 私が案内してやろう!」
「おやおや。……では、少し街の散歩に行きますか」
「うん! 飛鳥、もし歩き疲れたら、私がおんぶしてあげるからね!」
「ミーナ! そ、それは私の役目だ! 抜け駆けは許さんぞ!」
「あらあら」
バチバチと火花を散らす二人を両脇に従え、飛鳥たちは王宮を抜け出し、城下町へと向かった。
サバルテのメインストリートは、活気に満ちていた。
しかし、今日ばかりは露店の売り声よりも、別の「ざわめき」が通りを支配していた。
「おい……見ろよあれ」
「嘘だろ。ミーナ様が、男の手を引いて歩いてるぞ……?」
「な、なんだよあれ……レオナ様まで!? しかも……!」
道行く獣人たちの目が、ピンポン玉のように飛び出している。
それもそのはずだ。
右には、サバルテの絶対王者にして美しき獅子の女王、レオナ。
左には、漆黒の疾風と恐れられる親衛隊副隊長、ミーナ。
その国を代表する絶世の美女二人が、間の抜けたような和服の人間(飛鳥)と、あろうことか**『恋人繋ぎ(指を絡ませる繋ぎ方)』**をして、満面の笑みで歩いているのだ。
「両手に花かよ!」
「誰だよあの男は!? 他国の王子か!?」
「いや、ヒョロヒョロだぞ! 俺の方が絶対強いってのに、なんでお二人があんなデレデレなんだ!」
嫉妬と驚愕の視線が、無数の矢のように飛鳥に突き刺さる。
しかし、当の飛鳥は全く気にした様子もなく、キョロキョロと珍しい屋台の品物を眺めていた。
「ほう。獣人国の木工細工は、とても繊細で美しいですね」
そう言って歩き続けて数十分。
獣人たちの歩幅とペースは、基礎体力のない人間にとって、実はかなりの早歩きに相当する。
「……はぁ、はぁ……」
ふと、飛鳥の足が止まった。
額には玉の汗が浮かび、肩で息をしている。
「飛鳥!?」
「どうした、飛鳥殿! 具合でも悪いのか!?」
二人が慌てて飛鳥の顔を覗き込む。
「いえ……お恥ずかしながら……少し、息が切れてしまいまして……」
「よし! では私が!」
レオナが即座に飛鳥の前にしゃがみ込み、広い背中を向けた。
「さぁ、乗るが良い! 私の背なら、揺れも少なく快適だぞ!」
「駄目ですぅ! 私がおんぶします!」
ミーナがレオナを突き飛ばさんばかりの勢いで割り込む。
「レオナ様は目立ちすぎます! 私のしなやかな筋肉の方が、おんぶには最適です!」
「親衛隊風情が、王に譲れんと言うのか!」
「恋の戦場に身分は関係ありません!」
街のど真ん中で、国境防衛戦よりも激しい女の戦いが勃発した。
飛鳥が「あ、あの、少し休めば歩けますので……」と止めるのも聞かず、二人は睨み合った。
「……ならば、公平に決めよう。じゃんけんだ。交代交代で乗せることにする」
「望むところです! いざ!」
「「最初はグー! じゃんけん、ポン!!」」
レオナは『チョキ』。
ミーナは『グー』。
「やったぁぁぁ!! 勝ちぃっ!!」
ミーナが空に向かってガッツポーズを決めた。
レオナは自分の指を見つめ、「な、何故だ……私の獅子の爪が、豹の拳に負けるなど……!」とワナワナ震えている。
「ふふふーん! さぁ飛鳥、遠慮なく乗って乗って!」
ミーナは嬉々として飛鳥の前に背中を出した。
飛鳥は苦笑いしながら、「では、お言葉に甘えまして……」と、そっとミーナの背中に乗った。
「よっと! うわ、飛鳥、すっごく軽い! もっとご飯食べなきゃ駄目だよ!」
「面目ない。……ですが、ミーナさんの背中は温かくて、とても楽になりました。ありがとうございます」
「ふへへへ~、どう~?」
ミーナは照れ隠しに笑ったが、その後ろでは、彼女の長い黒豹の尻尾が、犬のように**『ブンブンッ!』**と千切れんばかりに振られていた。
背中に当たる飛鳥の体温が嬉しくて仕方ないのだ。
「よし、出発ー!」
「は、早く! ミーナ、早く私に代わるのだ!」
ミーナが歩き出した瞬間、後ろからレオナが血相を変えて追いすがってきた。
「まだ十歩も歩いてないですよ! 私のターンはここから王宮の門までです!」
「長すぎる! ズルいぞ! 時計の針が三つ動いたら交代だ!」
「あの……お二人とも、あまり大声を出すと……」
道行く獣人たちは、
『おい、あの男……ミーナ様におんぶされたぞ……』
『しかも、レオナ様が後ろから順番待ちしてる……』
『なんだあのヒモ男は……(ゴクリ)』
と、さらにドン引き(と一部は尊敬)の視線を送るのであった。
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