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EP 36
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琥珀色の宝石と、縁側の特等席
畑仕事の手を休め、少し日が傾き始めた頃。
心地よい秋風が吹く茶室『和光庵』の縁側(えんがわ)に、三人の姿があった。
「ふぅ……。良い汗をかきましたね」
飛鳥は手ぬぐいで額を拭うと、台所から竹ざるを持ってきた。
そこには、白い粉を吹き、飴色に縮んだ不思議な物体が並んでいる。
「では、休憩にしましょう。……ちょうど良い具合に仕上がった『干し柿(ほしがき)』がありますので」
「え!? 干し柿!?」
その言葉に、ミーナの猫耳がピンと立った。
彼女は目をキラキラさせ、竹ざるの中身に釘付けになった。
「やったー! 私、これ大好きなの! 甘くて、ねっとりしてて……食べたい! 今すぐ食べたい!」
「ま、待てミーナ。……なんだ、その『干し柿』とやらは」
一方、レオナは怪訝な顔でざるを覗き込んだ。
彼女の目には、それはただの「しわくちゃになった茶色い果実」にしか見えなかったからだ。
「……見た目は随分と、こう……枯れているように見えるが。本当に美味いのか?」
「ふふ。……人は見かけによりませんし、果実もまた然りです」
飛鳥は優しく微笑み、その一つを手に取った。
「渋柿という、そのままでは食べられない柿の皮を剥き、紐で吊るし、寒風に晒(さら)してじっくりと乾燥させたものです。……天日で干すことで、渋みが抜け、驚くほどの甘みが凝縮されるのですよ」
「ほう……。あえて厳しい環境に晒すことで、甘くなるとは。……まるで修行僧のようだな」
「さぁ、百聞は一見に如かず。どうぞ」
飛鳥は、温かいほうじ茶と共に、干し柿を二人に差し出した。
三人は縁側に並んで腰掛けた。
目の前には、自分たちが耕した畑と、サバルテの穏やかな夕景が広がっている。
「では……頂くとしよう」
レオナは恐る恐る、そのしわくちゃな果実を口に運んだ。
かぶりつくと、表面は少し固いが、中は羊羹のように柔らかい。
「ん……?」
噛み締めた瞬間、レオナの目が大きく見開かれた。
「――っ!!」
口いっぱいに広がる、濃厚で深みのある甘さ。
砂糖の甘さとは違う、果実そのものが持つ生命力が凝縮されたような、ねっとりとした旨味。
「あ、甘い……! なんだこれは!?」
「ん~~っ! これこれ! この味!」
隣では、ミーナが幸せそうに頬を緩ませていた。
「お茶が……うまい」
レオナは慌ててほうじ茶を啜った。
干し柿の強烈な甘さが残る口内を、香ばしい茶が洗い流していく。
甘味と苦味の完璧な往復。
「本当だ……。優しい甘さだ。……見た目の無骨さからは想像もできぬ、高貴な味だ」
「良かった。お気に召しましたか」
飛鳥もまた、自分の一口を楽しみながら、二人の横顔を眺めた。
「手間と時間をかければ、渋いものでも、こうして甘く変わるのです」
「……飛鳥殿らしいな」
レオナは二口目をゆっくりと味わいながら、しみじみと言った。
「待つことを知っている。……今の我々に必要な時間だ」
「うん。……幸せだねぇ」
ミーナが飛鳥の肩に頭を預け、レオナも反対側から寄り添った。
夕日が三人の影を長く伸ばす。
縁側の下では、虫の声が聞こえ始めていた。
「……もう少し、こうしていても良いか?」
「えぇ。お茶のお代わりなら、幾らでもありますから」
飛鳥たちは、言葉少なに、ゆっくりと流れる時間を楽しんだ。
二人の女王と一人の茶人の尻尾(と心)は、秋風に吹かれて穏やかに揺れていた。
畑仕事の手を休め、少し日が傾き始めた頃。
心地よい秋風が吹く茶室『和光庵』の縁側(えんがわ)に、三人の姿があった。
「ふぅ……。良い汗をかきましたね」
飛鳥は手ぬぐいで額を拭うと、台所から竹ざるを持ってきた。
そこには、白い粉を吹き、飴色に縮んだ不思議な物体が並んでいる。
「では、休憩にしましょう。……ちょうど良い具合に仕上がった『干し柿(ほしがき)』がありますので」
「え!? 干し柿!?」
その言葉に、ミーナの猫耳がピンと立った。
彼女は目をキラキラさせ、竹ざるの中身に釘付けになった。
「やったー! 私、これ大好きなの! 甘くて、ねっとりしてて……食べたい! 今すぐ食べたい!」
「ま、待てミーナ。……なんだ、その『干し柿』とやらは」
一方、レオナは怪訝な顔でざるを覗き込んだ。
彼女の目には、それはただの「しわくちゃになった茶色い果実」にしか見えなかったからだ。
「……見た目は随分と、こう……枯れているように見えるが。本当に美味いのか?」
「ふふ。……人は見かけによりませんし、果実もまた然りです」
飛鳥は優しく微笑み、その一つを手に取った。
「渋柿という、そのままでは食べられない柿の皮を剥き、紐で吊るし、寒風に晒(さら)してじっくりと乾燥させたものです。……天日で干すことで、渋みが抜け、驚くほどの甘みが凝縮されるのですよ」
「ほう……。あえて厳しい環境に晒すことで、甘くなるとは。……まるで修行僧のようだな」
「さぁ、百聞は一見に如かず。どうぞ」
飛鳥は、温かいほうじ茶と共に、干し柿を二人に差し出した。
三人は縁側に並んで腰掛けた。
目の前には、自分たちが耕した畑と、サバルテの穏やかな夕景が広がっている。
「では……頂くとしよう」
レオナは恐る恐る、そのしわくちゃな果実を口に運んだ。
かぶりつくと、表面は少し固いが、中は羊羹のように柔らかい。
「ん……?」
噛み締めた瞬間、レオナの目が大きく見開かれた。
「――っ!!」
口いっぱいに広がる、濃厚で深みのある甘さ。
砂糖の甘さとは違う、果実そのものが持つ生命力が凝縮されたような、ねっとりとした旨味。
「あ、甘い……! なんだこれは!?」
「ん~~っ! これこれ! この味!」
隣では、ミーナが幸せそうに頬を緩ませていた。
「お茶が……うまい」
レオナは慌ててほうじ茶を啜った。
干し柿の強烈な甘さが残る口内を、香ばしい茶が洗い流していく。
甘味と苦味の完璧な往復。
「本当だ……。優しい甘さだ。……見た目の無骨さからは想像もできぬ、高貴な味だ」
「良かった。お気に召しましたか」
飛鳥もまた、自分の一口を楽しみながら、二人の横顔を眺めた。
「手間と時間をかければ、渋いものでも、こうして甘く変わるのです」
「……飛鳥殿らしいな」
レオナは二口目をゆっくりと味わいながら、しみじみと言った。
「待つことを知っている。……今の我々に必要な時間だ」
「うん。……幸せだねぇ」
ミーナが飛鳥の肩に頭を預け、レオナも反対側から寄り添った。
夕日が三人の影を長く伸ばす。
縁側の下では、虫の声が聞こえ始めていた。
「……もう少し、こうしていても良いか?」
「えぇ。お茶のお代わりなら、幾らでもありますから」
飛鳥たちは、言葉少なに、ゆっくりと流れる時間を楽しんだ。
二人の女王と一人の茶人の尻尾(と心)は、秋風に吹かれて穏やかに揺れていた。
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