『海自一佐(50)、昭和10年のダメ記者に転生。イージス艦長の未来知識(チート)で、敗戦ルートを完全粉砕します』

月神世一

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EP 29

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最後の「戦場」
1944年、夏。
クーデター鎮圧の銃声が止んだ東京の朝。
だが、街の空気は、勝利の熱狂と、鎮圧の恐怖と、何より「混乱」で濁り切っていた。
国民は、ラジオから流れる「マリアナ大勝利」の軍艦マーチに酔いしれていた。
その耳に、昨日の「御聖断」や、今朝の「陸軍一部の反乱」は、まだ届いていない。
彼らが望むのは、次なる勝利――ワシントン占領の吉報だけだった。
「(これが、最後の『ドンパチ』だ)」
坂上真一は、海軍省の地下壕から、放送局へと向かう車の中で、冷え切ったコーヒーを飲み干していた。
「本当に、国民が納得するのかね」
助手席の山本五十六が、疲れ切った顔で呟いた。
「今、ラジオで『戦争は終わりだ』と言えば、我々こそが『国賊』として、国民に八つ裂きにされかねんぞ」
「ですから、順番が重要なのです」
坂上は、無表情で言った。
「国民は『物語』を求めている。彼らが信じる『物語』を、こちらで上書きする」
午前10時。
日本放送協会、第一スタジオ。
坂上の陸戦隊によって、スタジオは外部から完全に隔離されていた。
「全国民に告ぐ」
定刻、ラジオから流れ始めたのは、山本五十六の、威厳に満ちた声だった。
「昨日、マリアナ沖海戦は、帝国海軍の完全勝利に終わった。米艦隊は、二度目の壊滅的打撃を受け、敗走した」
日本中の家庭や工場で、「万歳!」の声が上がった。
「しかし」
山本の声が、一転して厳しくなる。
「この大勝利の最中、誠に遺憾ながら、陸軍の一部将校が、自らの功を焦り、あろうことか『聖断』を待たずして、陛下の御心に反する『独断専行』を企てた」
国民が、「え?」と息をのんだ。
「彼らは、この国の破滅を顧みず、無謀なる『本土決戦』を煽り、和平への道を閉ざそうとした、真の『国賊』である」
「この反乱は、昨夜、陛下の御聖断を護持せんとする、海軍および陸軍の有志により、完全に鎮圧された」
「万歳」は、恐怖と混乱に変わった。
(勝ったのに、反乱?)
(本土決戦が、悪?)
山本は、続けた。
「今、日本は、歴史上、最も強く、最も輝かしい瞬間を迎えている。この『最強の瞬間』に、我が国がどう進むべきか」
「その『真実』を、これより、上海、ミッドウェー、マリアナの全ての勝利を設計した男、帝国海軍参謀長・坂上真一大佐が、直接、国民諸君に語り掛ける」
マイクの切り替わる、わずかな沈黙。
日本中が、ラジオに耳を寄せた。
「坂上大佐……? あの『軍神』か?」
「……国民の諸君。坂上真一だ」
低く、感情の無い、だが異様な説得力を持つ声だった。
「諸君は、今、『勝利』に酔っている。良いことだ。兵士たちも、国民も、実によく戦った。我々は、紛れも無く勝った」
「だが」
「『勝つ』ことと、『勝ち続ける』ことは、全く別の『算術』だ」
坂上は、そこで、あの「日米国力比較」を、ラジオで始めた。
「鉄鋼生産能力、日本を1とすれば、米国は10」
「石油生産、日本を1とすれば、米国は500」
「航空機の月産能力、日本3千機、米国1万機」
スタジオの放送員は、その数字の絶望的な羅列に、顔面蒼白になった。
「私が、なぜ勝てたか。それは、私が『未来の戦術(技術ドーピング)』を知っていたからだ。敵が気づく前に、電探を、新型戦闘機を、奇襲戦術を叩きつけた」
「だが」
「今、敵は、その全てを知った。我が軍の『紫電改』も、『神の目』も、研究し、来年には、その『倍』の性能の兵器を、『10倍』の数で、作ってくる」
「私の『奇襲』は、もう使えない」
日本中の家庭が、凍りついた。
「このまま戦えば、どうなるか」
「来年、我々はマリアナを失う」
「再来年、本土はB-29で焼き尽くされる。私の故郷広島も、東京も、全てだ」
「そして三年後、日本は『無条件降伏』し、国は滅びる」
「昨日、反乱を起こした者たちは、この『算術』から目を逸らし、『精神』で勝てると叫んだ。それこそが、国を滅ぼす『病』だ」
坂上は、そこで言葉を切り、声のトーンをわずかに上げた。
「だからこそ、だ」
「我が国は、今、『講和』する」
「負けたからではない。『最強』だからだ」
「敵が、我々の『圧倒的な強さ』に、心底怯えている今この瞬間こそが、我が国の国体を守り、領土を守り、諸君の家族の未来を守る、唯一にして最後の『勝利の瞬間』なのだ」
「陛下は、この『算術』を御理解された。故に、『聖断』は下された」
「……国民諸君。私を信じろ。私は諸君を『勝利』に導いた。そして今、諸君を『破滅』から救う」
「万歳を叫ぶのは、今日までだ。明日からは、新しい日本を『作る』戦いが始まる」
マイクが、切れた。
坂上は、スタジオを出た。山本が、震える手で彼にコーヒーを渡した。
「……言ってくれたな、坂上君」
「ええ」
坂上は、コーヒーキャンディを一粒、口に放り込んだ。
「(ミッションは、ほぼ完了した)」
(あとは、ワシントンからの『返事』を待つだけだ)
(そして、二度と特攻で死ぬことのない、平和な国を……)
彼は、空になったキャンディの缶を、強く握りしめた。
(祖父さん。あんたの孫は、やったぜ)
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