​100均グッズで快適生活してたら、世界最強の軍事帝国になっていた件~カップ麺とアルミホイルで、魔王も神獣も土下座してくるんですが~

月神世一

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EP 4

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狼王フェンリル、サウナで「ととのう」を覚える
 タロー皇国の城の庭に、「竜王軒」がオープンしてから数日。
 今日も竜王デュークは、ねじり鉢巻姿で湯切りに精を出していた。
「へいお待ち! チャーシュー麺大盛りだ!」
「あざーっす! 竜王様のラーメン最高!」
 兵士たちが列を作る平和な昼下がり。
 突如として、その穏やかな空気は凍りついた。物理的に。
 ヒュオオオオオッ……!
 猛吹雪が吹き荒れ、ラーメンのスープが一瞬で冷める。
 極寒の冷気と共に、銀色の毛並みを持つ青年が空から舞い降りた。
 その目は飢えた獣のように血走り、殺気を撒き散らしている。
「見つけたぞデュークゥゥゥ!! こんな所でままごとは終わりだ! 俺と殺し合いをしろぉぉぉ!!」
 世界の調停者の一角、狼王フェンリルである。
 三柱の中でも随一の戦闘狂(バトルジャンキー)であり、暇さえあれば強い奴に喧嘩を売り歩く、生きた厄災だ。
「チッ、駄犬が……。スープが冷めるだろうが!」
「あぁ!? 俺の牙でその屋台ごと粉砕してやるよ!」
 フェンリルの背後に、無数の氷の剣が出現する。
 デュークもどんぶりを置いて臨戦態勢に入る。
 このままでは、城どころか国一つが消し飛ぶ「神々の喧嘩」が始まってしまう。
 兵士たちが絶望し、逃げ惑う中。
 ジャージ姿の男が、桶とタオルを持ってふらりと二人の間に割って入った。
「おーい、ストップストップ。店の前で騒ぐなよ」
 タローである。
「あぁ? なんだこの弱そうな人間は。死にたいのか――」
「お前らさぁ、喧嘩する前に一風呂浴びてけよ。汗かいてスッキリすれば、殺し合いとかどうでもよくなるから」
「……は?」
 フェンリルは毒気を抜かれたような顔をした。
 風呂? 殺し合いの前に?
「ふっ、なるほどな。俺への挑戦状か」
 フェンリルは勝手に納得し、ニヤリと笑った。
「いいだろう。貴様が用意した『地獄の釜』とやら、この俺が涼しい顔で泳ぎきってやる!」
 こうして、フェンリルはタローに連れられ、城の地下に新設された『タローの湯(スーパー銭湯)』へと足を踏み入れた。
 そこは、タローが【100円ショップ】のグッズと、サリーの魔法、ドワーフの技術を総動員して作った癒やしの空間だった。
「まずはここだ」
 タローが案内したのは、木造の密室――サウナ室である。
 中では、魔法で召喚された火の精霊(イフリート)が、熱したサウナストーンに水をかけていた。
 ジュワアアアアアッ……!
 強烈な熱波(ロウリュ)が襲いかかる。室温は優に100度を超えている。
「ぐっ……! な、なんだこの熱気は……! 炎魔法による持続ダメージ空間か!?」
「座ってじっとしてろ。自分との戦いだぞ」
 タローは涼しい顔で、100均の「折りたたみサウナマット」を敷いて座る。
 フェンリルも対抗心から、隣に座り込んだ。
(くそっ、俺は氷の狼王だぞ……こんな熱さ……!)
 5分、10分。
 汗が滝のように流れ出る。心臓が早鐘を打つ。
 だが、隣のタローが平然としている以上、出るわけにはいかない。
 フェンリルが限界を迎えそうになった、その時。
「よし、そろそろ出るか」
 タローが立ち上がった。
 二人はサウナ室を出て、掛け湯で汗を流す。
 そしてタローが指差したのは、青々と透き通った水風呂だった。
「次はあそこだ。肩まで浸かれよ」
「ふん、水か。熱さの次は冷気攻めとはな!」
 フェンリルは勢いよく水風呂に飛び込んだ。
 氷属性の彼にとって、冷気は得意分野のはずだった。
 ザブンッ!
「…………ッ!?」
 言葉が出なかった。
 極限まで熱せられた体に、冷水が染み渡る。
 血管が収縮し、全身の皮膚が引き締まる感覚。
 それは、今までに感じたことのない衝撃的な刺激だった。
(な、なんだこれは……! 攻撃魔法ではない……だが、俺の肉体が歓喜している!?)
「ふぅー……。よし、上がろう」
 1分ほど浸かってから、タローは水風呂を出た。
 そして最後に案内したのは、中庭に置かれた「プラスチック製の白い椅子(ととのい椅子)」だった。
「ここに座って、空を見るんだ。何も考えるな」
 言われるがまま、フェンリルは椅子に深く腰掛けた。
 風が吹く。
 火照った体を、優しい外気が撫でていく。
 その瞬間。
 世界が、回った。
 ドクン、ドクン、ドクン。
 心臓の鼓動が心地よく響く。
 頭の中から雑念が消え、視界が鮮明になり、全身が浮遊感に包まれる。
「あ……あぁ…………」
 フェンリルの口から、間の抜けた声が漏れた。
 殺意も、闘争心も、デュークへの対抗心も、すべてがどうでもよくなっていく。
「これが……『ととのう』……」
 伝説の狼王は、だらしなく口を開け、白目を剥いて昇天した。
 それは、数千年の時を生きてきた彼が、初めて到達した「ニルヴァーナ(涅槃)」の境地だった。
 ……30分後。
 湯上がりの休憩室にて。
 腰にタオルを巻いたフェンリルは、タローから渡された「瓶入りのコーヒー牛乳」を一気飲みしていた。
「プハァッ! ……美味い。五臓六腑に染み渡るとはこのことか」
「だろ? 風呂上がりの一杯は格別なんだよ」
 タローが笑うと、フェンリルは真剣な顔でタローに向き直った。
「タロー。俺は決めたぞ」
「ん?」
「俺はここに住む。戦いなど虚しい。これからは、サウナと水風呂の往復こそが俺の戦場(生きがい)だ」
 こうして、タロー皇国にまた一柱、最強の居候が増えた。
 フェンリルはその後、デュークのラーメン屋台に行き、「サウナ後の飯(サ飯)は格別だな!」とチャーシュー麺を5杯おかわりして、デュークと仲直りしたという。
 なお、この光景を見ていたスパイたちは、国にこう報告した。
『報告。タロー王は、戦闘狂のフェンリルに対し、未知の拷問と洗脳を行い、わずか数十分で従順な下僕へと変えた。精神攻撃においても最強である』
 タローの評価は、留まることを知らない。
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