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EP 5
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不死鳥フレアの婚活(物理)とすき焼きパーティー
タロー皇国は、今日も平和だった。
元・凶悪ドラゴンの竜王デュークはラーメン屋台でスープを煮込み、元・破壊の化身である狼王フェンリルは、湯上がりに腰に手を当ててコーヒー牛乳を飲んでいる。
「ふう、今日サウナの湿度は完璧だったな」
「おう、後でチャーシューの端っこやるから待ってろ」
そんな緊張感のない二人の会話を、空から聞いていた者がいた。
「……信じられない。信じられないわっ!!」
ピキーン! と大気が裂ける音が響く。
突如、空が真っ赤に染まった。夕焼けではない。紅蓮の炎が空を覆い尽くしたのだ。
「あなた達、仕事をサボって何をしているのよぉぉぉッ!!!」
悲痛な叫びと共に、巨大な火の鳥が急降下してきた。
地上スレスレで炎が収束し、そこから現れたのは――真っ赤なドレスを纏った、絶世の美女だった。
ただし、その美しい顔は怒りで歪み、目の下には厚化粧でも隠せないクマがある。
世界の調停者、不死鳥フレアである。
「げっ、フレア……」
「お前が来たってことは、また面倒な仕事か?」
デュークとフェンリルが露骨に嫌な顔をする。
それにフレアがブチ切れた。
「『げっ』じゃないわよ! あなた達がニートしてるせいで、魔獣の間引きも邪神の封印チェックも、全部私一人に回ってきてるのよ! お肌のゴールデンタイムも寝れてないのよ!?」
フレアの周囲で、8つの炎の玉が荒れ狂う。
彼女のストレスは限界突破していた。
「もう許さない……! こんな堕落した国、私の『浄化の炎』で地図から消して、あなた達を職場に強制送還してやるわ!」
フレアが指を鳴らそうとした、その時。
「おーい、危ないから火遊びやめなー」
またしても、ジャージ姿の男が割って入った。タローである。
だが今回は、手ぶらではない。
タローは中庭のテーブルに、100均の「カセットコンロ」と「浅底の鉄鍋」をセットし、何やらジュージューと焼いていた。
「な、何よ人間! 私を止める気!? 灰になりたくなければ……」
「まあまあ。ちょうど今、いい肉が手に入ったから『すき焼き』やってたんだよ。お前も食ってく?」
「はぁ!? 私が怒ってるの分かってる!? 神獣を食事で釣ろうなんて……」
フレアが抗議しようとした鼻先に、タローは鍋の中身を突きつけた。
ジュワアァァァ……。
甘辛い醤油の焦げる香ばしい匂い。
そして、とろけるように霜が降った最高級和牛(※ロックバイソンの希少部位)が、茶色く染まっていくビジュアル。
「……っ」
フレアの喉が鳴った。
彼女は思い出してしまった。ここ数日、ゼリー飲料(魔力ポーション)しか飲んでいないことを。
「ほら、座った座った。生卵につけて食うんだぞ」
タローは強引にフレアを座らせ、小鉢に卵を割り入れた。
フレアは震える手で箸を持つ。
(ど、どうせ人間の料理なんて……。私は誇り高き不死鳥……)
肉を卵にくぐらせ、口へ運ぶ。
「んんっ……!!?」
フレアの思考が停止した。
口いっぱいに広がる、濃厚な脂の甘み。
それを包み込む卵のまろやかさ。
そして何より、この味付け――タローが100均で買った『すき焼きのタレ』の、暴力的なまでの砂糖と醤油のハーモニー。
この世界において、砂糖は貴重品だ。それを惜しげもなく使ったタレは、疲れたキャリアウーマンの脳髄を直撃した。
「おいしい……っ! なにこれ、すっごくおいしい……っ!」
「だろ? 酒もあるぞ」
タローはニヤリと笑い、コンビニコーナーで買った「ワンカップ大吟醸」の蓋を開けて渡した。
フレアはそれを一気に煽る。
カッ!
酒が回り、フレアの頬が朱に染まる。
そして――ダムが決壊した。
「うわあああああん!! おいしいよぉぉぉ!!」
フレアは泣き出した。号泣である。
「なんで私だけこんなに働かなきゃいけないのよぉ! 毎日毎日残業でぇ! 合コンに行く暇もないしぃ! このままだとお婆ちゃんになっちゃうぅぅ!」
最強の神獣が、ワンカップ片手に管(くだ)を巻き始めた。
タローは苦笑しながら、肉を追加してやる。
「大変なんだな、お前も。よしよし、今日は好きなだけ食って飲んでいいぞ」
タローが何気なく、泣きじゃくるフレアの背中をポンポンと優しく叩いた。
その瞬間。
フレアの涙が止まった。
彼女は潤んだ瞳でタローを見上げる。
優しく肉を取り分け、酒を注ぎ、愚痴を聞いてくれる男。
しかも、竜王と狼王を手懐けるほどの器の大きさ。
(……見つけた)
フレアの瞳に、炎とは違うハートマークが宿る。
「……責任、取ってくれるのよね?」
「え? 何の?」
「私にこんな美味しいもの食べさせて、優しくしたんだから! 責任取って、私を養ってよぉぉ!!」
フレアはタローに抱きついた。
「契約(コントラクト)破棄! 今日から私はここんちの子になる! 結婚(マリッジ)承認!!」
「えぇ……?」
タローが困惑する横で、サリーとライザが「あらあら、また増えたわね」「タロー様の魅力なら仕方ない」と、呆れつつも肉を食べている。
こうして、世界を滅ぼしに来たはずの不死鳥は、タロー皇国の「自称・第三王妃」として居座ることになった。
翌日。
国境付近にいたワイズ皇国のスパイから、震える声で報告が入った。
『き、緊急報告! タロー王は……不死鳥フレアに「未知の供物」と「神酒」を与え、一夜にして籠絡しました! 今やフレア様は「タローに指一本触れたら大陸ごと焼き払う」と愛の狂戦士化しています! 繰り返します、タロー王は神殺しならぬ、神タラシです!!』
タロー皇国には、今日も平和な朝日が昇る。
ただし、その朝日は不死鳥の輝きも混ざっているため、やたらと眩しいのだった。
タロー皇国は、今日も平和だった。
元・凶悪ドラゴンの竜王デュークはラーメン屋台でスープを煮込み、元・破壊の化身である狼王フェンリルは、湯上がりに腰に手を当ててコーヒー牛乳を飲んでいる。
「ふう、今日サウナの湿度は完璧だったな」
「おう、後でチャーシューの端っこやるから待ってろ」
そんな緊張感のない二人の会話を、空から聞いていた者がいた。
「……信じられない。信じられないわっ!!」
ピキーン! と大気が裂ける音が響く。
突如、空が真っ赤に染まった。夕焼けではない。紅蓮の炎が空を覆い尽くしたのだ。
「あなた達、仕事をサボって何をしているのよぉぉぉッ!!!」
悲痛な叫びと共に、巨大な火の鳥が急降下してきた。
地上スレスレで炎が収束し、そこから現れたのは――真っ赤なドレスを纏った、絶世の美女だった。
ただし、その美しい顔は怒りで歪み、目の下には厚化粧でも隠せないクマがある。
世界の調停者、不死鳥フレアである。
「げっ、フレア……」
「お前が来たってことは、また面倒な仕事か?」
デュークとフェンリルが露骨に嫌な顔をする。
それにフレアがブチ切れた。
「『げっ』じゃないわよ! あなた達がニートしてるせいで、魔獣の間引きも邪神の封印チェックも、全部私一人に回ってきてるのよ! お肌のゴールデンタイムも寝れてないのよ!?」
フレアの周囲で、8つの炎の玉が荒れ狂う。
彼女のストレスは限界突破していた。
「もう許さない……! こんな堕落した国、私の『浄化の炎』で地図から消して、あなた達を職場に強制送還してやるわ!」
フレアが指を鳴らそうとした、その時。
「おーい、危ないから火遊びやめなー」
またしても、ジャージ姿の男が割って入った。タローである。
だが今回は、手ぶらではない。
タローは中庭のテーブルに、100均の「カセットコンロ」と「浅底の鉄鍋」をセットし、何やらジュージューと焼いていた。
「な、何よ人間! 私を止める気!? 灰になりたくなければ……」
「まあまあ。ちょうど今、いい肉が手に入ったから『すき焼き』やってたんだよ。お前も食ってく?」
「はぁ!? 私が怒ってるの分かってる!? 神獣を食事で釣ろうなんて……」
フレアが抗議しようとした鼻先に、タローは鍋の中身を突きつけた。
ジュワアァァァ……。
甘辛い醤油の焦げる香ばしい匂い。
そして、とろけるように霜が降った最高級和牛(※ロックバイソンの希少部位)が、茶色く染まっていくビジュアル。
「……っ」
フレアの喉が鳴った。
彼女は思い出してしまった。ここ数日、ゼリー飲料(魔力ポーション)しか飲んでいないことを。
「ほら、座った座った。生卵につけて食うんだぞ」
タローは強引にフレアを座らせ、小鉢に卵を割り入れた。
フレアは震える手で箸を持つ。
(ど、どうせ人間の料理なんて……。私は誇り高き不死鳥……)
肉を卵にくぐらせ、口へ運ぶ。
「んんっ……!!?」
フレアの思考が停止した。
口いっぱいに広がる、濃厚な脂の甘み。
それを包み込む卵のまろやかさ。
そして何より、この味付け――タローが100均で買った『すき焼きのタレ』の、暴力的なまでの砂糖と醤油のハーモニー。
この世界において、砂糖は貴重品だ。それを惜しげもなく使ったタレは、疲れたキャリアウーマンの脳髄を直撃した。
「おいしい……っ! なにこれ、すっごくおいしい……っ!」
「だろ? 酒もあるぞ」
タローはニヤリと笑い、コンビニコーナーで買った「ワンカップ大吟醸」の蓋を開けて渡した。
フレアはそれを一気に煽る。
カッ!
酒が回り、フレアの頬が朱に染まる。
そして――ダムが決壊した。
「うわあああああん!! おいしいよぉぉぉ!!」
フレアは泣き出した。号泣である。
「なんで私だけこんなに働かなきゃいけないのよぉ! 毎日毎日残業でぇ! 合コンに行く暇もないしぃ! このままだとお婆ちゃんになっちゃうぅぅ!」
最強の神獣が、ワンカップ片手に管(くだ)を巻き始めた。
タローは苦笑しながら、肉を追加してやる。
「大変なんだな、お前も。よしよし、今日は好きなだけ食って飲んでいいぞ」
タローが何気なく、泣きじゃくるフレアの背中をポンポンと優しく叩いた。
その瞬間。
フレアの涙が止まった。
彼女は潤んだ瞳でタローを見上げる。
優しく肉を取り分け、酒を注ぎ、愚痴を聞いてくれる男。
しかも、竜王と狼王を手懐けるほどの器の大きさ。
(……見つけた)
フレアの瞳に、炎とは違うハートマークが宿る。
「……責任、取ってくれるのよね?」
「え? 何の?」
「私にこんな美味しいもの食べさせて、優しくしたんだから! 責任取って、私を養ってよぉぉ!!」
フレアはタローに抱きついた。
「契約(コントラクト)破棄! 今日から私はここんちの子になる! 結婚(マリッジ)承認!!」
「えぇ……?」
タローが困惑する横で、サリーとライザが「あらあら、また増えたわね」「タロー様の魅力なら仕方ない」と、呆れつつも肉を食べている。
こうして、世界を滅ぼしに来たはずの不死鳥は、タロー皇国の「自称・第三王妃」として居座ることになった。
翌日。
国境付近にいたワイズ皇国のスパイから、震える声で報告が入った。
『き、緊急報告! タロー王は……不死鳥フレアに「未知の供物」と「神酒」を与え、一夜にして籠絡しました! 今やフレア様は「タローに指一本触れたら大陸ごと焼き払う」と愛の狂戦士化しています! 繰り返します、タロー王は神殺しならぬ、神タラシです!!』
タロー皇国には、今日も平和な朝日が昇る。
ただし、その朝日は不死鳥の輝きも混ざっているため、やたらと眩しいのだった。
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