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EP 7
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商人ニャングルと、ラップで包まれた「終わりの卵」
山一つを消し飛ばした「威嚇射撃」から数日後。
タロー皇国には、新たな訪問者が訪れていた。
「まいど! ゴルド商会のニャングルでっせ~!」
謁見の間に響き渡る、コテコテの関西弁。
現れたのは、大きなリュックと、身の丈ほどある黄金の算盤(そろばん)を背負った猫耳族の青年だ。
彼はゴルド商会の行商人で、タローの「100均グッズ」を世界に流通させているパートナーでもある。
「ようニャングル。今日は何の用だ?」
「へへっ、王様にはいつも贔屓にしてもろてますからな。今日はとびっきりの『掘り出し物』を持ってきましてん!」
ニャングルは鼻息荒く、リュックから厳重に梱包された物体を取り出した。
「辺境の古代遺跡で見つけた謎の石……いや、宝石でっしゃろか。とにかく綺麗で、ただならぬオーラ放ってますねん!」
ゴトッ。
テーブルに置かれたのは、バレーボールほどの大きさがある「虹色の結晶体」だった。
表面は脈打つように明滅し、見る角度によって色を変える。
「……ん?」
タローは眉をひそめた。
綺麗だ。確かに綺麗だが――。
ジジジ……ジュウ……。
その物体の周囲だけ、空間が歪んでいる。
さらに、テーブルに置かれた花瓶の花が、一瞬で枯れては蕾に戻り、また咲き誇るという奇妙なループを繰り返していた。
(……やばい。これ絶対、放射能とか有害物質が出てるやつだ)
タローの現代知識が警鐘を鳴らす。
これは「呪い」とか以前に、物理的に人体に有害なエネルギーを垂れ流している。
「おいニャングル、これヤバいだろ。なんか漏れてるぞ」
「え? そうでっか? ワシには『金(カネ)』の匂いしかしませんが」
銭ゲバすぎて危険察知能力が麻痺しているニャングルをよそに、タローは即座に行動した。
このままでは城が汚染される。遮蔽(シールド)が必要だ。
「スキル発動――【100円ショップ】」
タローが取り出したのは、銀色に輝く円筒形の箱。
『アルミホイル(厚手・25cm×8m)』である。
「よし、とりあえずこれで包んで遮断しよう」
タローはアルミホイルを引き出し、虹色の物体(卵)に巻き付けた。
ビリッ、クシャクシャ。
何重にも、隙間なく。
すると――。
シーン……。
空間の歪みが消えた。
花のループ現象も止まった。
禍々しいオーラは、薄さ0.01ミリの銀紙によって完全に遮断されたのだ。
「ふぅ、これで安心だな。とりあえず倉庫の奥にでもしまっておくか」
「さすが王様! その銀色の紙、ただもんやないですな!」
◇ ◇ ◇
その光景を、遠く離れた場所から魔法の水晶玉で監視していた者がいた。
魔導大国ワイズ皇国、魔界議会の筆頭公爵ルーベンスである。
ガタッ!!
冷静沈着なルーベンスが、執務室の椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「ば、馬鹿な……! あれは『始祖竜の卵』ではないか!?」
ルーベンスは震えた。
かつて世界を破滅寸前まで追い込んだ、時空を操る最悪の魔獣。
その卵が放つ波動は、いかなる魔法障壁も貫通し、周囲の時間を腐らせる。
本来なら、触れただけでニャングルの腕は消滅し、タローの城ごと時間が巻き戻って消えるはずなのだ。
だが、タローはそれを素手で触り、あろうことか――。
「あの『銀色の紙』……一体何なのだ!?」
ルーベンスの魔眼には見えていた。
卵から溢れ出る規格外の時空干渉エネルギーが、あの薄っぺらい銀紙に触れた瞬間、全反射されているのを。
(ミスリル? いや、それ以上の魔力伝導率を持つオリハルコンを、紙のように薄く延ばしたのか!?)
そんな加工技術は、ドワーフにも、魔族にも、天界にすら存在しない。
しかもタローは、それを「使い捨て」のようにクシャクシャにして巻き付けた。
(なんという贅沢……なんという技術力……! 『始祖竜の呪い』すら、彼にとっては生ゴミの臭いを防ぐ程度のことだというのか……!)
ルーベンスは額に脂汗を浮かべ、部下に命じた。
「……タロー皇国との敵対行動を全て中止せよ。あの国には、我々の常識が通じない『神の結界技術』がある。下手に手を出せば、あの銀色の結界で我々ごと封印されるぞ」
◇ ◇ ◇
一方、タロー皇国。
「ほな、お代はこれで頂きまっせ!」
ニャングルは、卵の代金としてタローから「大量の駄菓子(うまい棒など)」と「100均の電卓」を受け取り、ホクホク顔で帰っていった。
タローは、アルミホイルで銀色の塊になった卵を持ち上げる。
「うん、重さもちょうどいいな」
そして、執務室のドアが風で閉まらないよう、足元にドンと置いた。
「よし、ドアストッパーにしよう」
世界を滅ぼす「始祖竜」は今、タロー皇国のドアが勝手に閉まるのを防ぐという、重要な任務(?)に就いている。
孵化する気配は、アルミホイルの結界によって完全に沈黙していた。
山一つを消し飛ばした「威嚇射撃」から数日後。
タロー皇国には、新たな訪問者が訪れていた。
「まいど! ゴルド商会のニャングルでっせ~!」
謁見の間に響き渡る、コテコテの関西弁。
現れたのは、大きなリュックと、身の丈ほどある黄金の算盤(そろばん)を背負った猫耳族の青年だ。
彼はゴルド商会の行商人で、タローの「100均グッズ」を世界に流通させているパートナーでもある。
「ようニャングル。今日は何の用だ?」
「へへっ、王様にはいつも贔屓にしてもろてますからな。今日はとびっきりの『掘り出し物』を持ってきましてん!」
ニャングルは鼻息荒く、リュックから厳重に梱包された物体を取り出した。
「辺境の古代遺跡で見つけた謎の石……いや、宝石でっしゃろか。とにかく綺麗で、ただならぬオーラ放ってますねん!」
ゴトッ。
テーブルに置かれたのは、バレーボールほどの大きさがある「虹色の結晶体」だった。
表面は脈打つように明滅し、見る角度によって色を変える。
「……ん?」
タローは眉をひそめた。
綺麗だ。確かに綺麗だが――。
ジジジ……ジュウ……。
その物体の周囲だけ、空間が歪んでいる。
さらに、テーブルに置かれた花瓶の花が、一瞬で枯れては蕾に戻り、また咲き誇るという奇妙なループを繰り返していた。
(……やばい。これ絶対、放射能とか有害物質が出てるやつだ)
タローの現代知識が警鐘を鳴らす。
これは「呪い」とか以前に、物理的に人体に有害なエネルギーを垂れ流している。
「おいニャングル、これヤバいだろ。なんか漏れてるぞ」
「え? そうでっか? ワシには『金(カネ)』の匂いしかしませんが」
銭ゲバすぎて危険察知能力が麻痺しているニャングルをよそに、タローは即座に行動した。
このままでは城が汚染される。遮蔽(シールド)が必要だ。
「スキル発動――【100円ショップ】」
タローが取り出したのは、銀色に輝く円筒形の箱。
『アルミホイル(厚手・25cm×8m)』である。
「よし、とりあえずこれで包んで遮断しよう」
タローはアルミホイルを引き出し、虹色の物体(卵)に巻き付けた。
ビリッ、クシャクシャ。
何重にも、隙間なく。
すると――。
シーン……。
空間の歪みが消えた。
花のループ現象も止まった。
禍々しいオーラは、薄さ0.01ミリの銀紙によって完全に遮断されたのだ。
「ふぅ、これで安心だな。とりあえず倉庫の奥にでもしまっておくか」
「さすが王様! その銀色の紙、ただもんやないですな!」
◇ ◇ ◇
その光景を、遠く離れた場所から魔法の水晶玉で監視していた者がいた。
魔導大国ワイズ皇国、魔界議会の筆頭公爵ルーベンスである。
ガタッ!!
冷静沈着なルーベンスが、執務室の椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「ば、馬鹿な……! あれは『始祖竜の卵』ではないか!?」
ルーベンスは震えた。
かつて世界を破滅寸前まで追い込んだ、時空を操る最悪の魔獣。
その卵が放つ波動は、いかなる魔法障壁も貫通し、周囲の時間を腐らせる。
本来なら、触れただけでニャングルの腕は消滅し、タローの城ごと時間が巻き戻って消えるはずなのだ。
だが、タローはそれを素手で触り、あろうことか――。
「あの『銀色の紙』……一体何なのだ!?」
ルーベンスの魔眼には見えていた。
卵から溢れ出る規格外の時空干渉エネルギーが、あの薄っぺらい銀紙に触れた瞬間、全反射されているのを。
(ミスリル? いや、それ以上の魔力伝導率を持つオリハルコンを、紙のように薄く延ばしたのか!?)
そんな加工技術は、ドワーフにも、魔族にも、天界にすら存在しない。
しかもタローは、それを「使い捨て」のようにクシャクシャにして巻き付けた。
(なんという贅沢……なんという技術力……! 『始祖竜の呪い』すら、彼にとっては生ゴミの臭いを防ぐ程度のことだというのか……!)
ルーベンスは額に脂汗を浮かべ、部下に命じた。
「……タロー皇国との敵対行動を全て中止せよ。あの国には、我々の常識が通じない『神の結界技術』がある。下手に手を出せば、あの銀色の結界で我々ごと封印されるぞ」
◇ ◇ ◇
一方、タロー皇国。
「ほな、お代はこれで頂きまっせ!」
ニャングルは、卵の代金としてタローから「大量の駄菓子(うまい棒など)」と「100均の電卓」を受け取り、ホクホク顔で帰っていった。
タローは、アルミホイルで銀色の塊になった卵を持ち上げる。
「うん、重さもちょうどいいな」
そして、執務室のドアが風で閉まらないよう、足元にドンと置いた。
「よし、ドアストッパーにしよう」
世界を滅ぼす「始祖竜」は今、タロー皇国のドアが勝手に閉まるのを防ぐという、重要な任務(?)に就いている。
孵化する気配は、アルミホイルの結界によって完全に沈黙していた。
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