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EP 9
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地下アイドル「リーザ」と、マグナギア大会
タロー皇国の城下町広場は、かつてない熱気に包まれていた。
「さあ、始まるぞ! 第一回タロー杯争奪・マグナギア世界大会! 実況は私、タローでお送りします!」
櫓(やぐら)の上で、タローが100均の「拡声器」片手に叫ぶ。
「マグナギア」。
それはドワーフの技術と、タローのホビー魂が融合して生まれた、全長30センチの魔導操り人形だ。プレイヤーの魔力とイメージで自在に動き、盤上で戦う。
優勝賞金は、なんと白金貨100枚(1億円)。
この莫大な賞金に釣られ、一人の少女がエントリーしていた。
「……勝つ。絶対に勝って、お腹いっぱい『茹で卵』を食べるのよ……!」
選手控え室の隅で、ボロボロのフリル衣装を着た少女が震えている。
リーザ(本名:エリザベート・シーラン)。
深海国家シーランの王女でありながら、勘違いで家出し、現在は売れない地下アイドルとして極貧生活を送る人魚姫だ。
彼女の手にあるマグナギアは、異彩を放っていた。
空き缶、割れたガラス、針金、そして川で拾った流木。
それらをタロー皇国名物「強力瞬間接着剤」で無理やりくっつけた、名付けて『スクラップ・プリンセス号』である。
「見てなさい……ゴミ拾いで鍛えた私の執念、見せてあげるわ!」
◇ ◇ ◇
そして迎えた決勝戦。
フィールド(巨大なテーブル)に立ったのは、リーザだけではなかった。
「フン、貴様のガラクタごとき、我が黄金のギアで粉砕してくれる!」
「あぁ? 氷漬けにしてカキ氷にしてやるよ!」
大人気なく参戦してきたのは、竜王デュークと狼王フェンリルだった。
デュークの機体は、純金とミスリルで作られた『ゴールデン・エンペラー』。
フェンリルの機体は、永久凍土の氷で作られた『シルバー・ウルフ』。
どちらも素材だけで国が買えるレベルの代物だ。
「それでは決勝戦、レディー・ゴー!!」
タローの掛け声と共に、試合が始まった。
「喰らえ! アルティメット・バースト(模型版)!!」
「アブソリュート・ゼロ(模型版)!!」
ズガアアアアアンッ!!
開幕直後、フィールドが光と冷気に包まれた。
模型の出力ではない。操り手(神獣)の魔力が強すぎて、30センチの人形から本物のドラゴンブレスと絶対零度の吹雪が噴射されたのだ。
「ひいいいッ!?」
リーザは悲鳴を上げて、自分の操作盤にしがみついた。
彼女の『スクラップ・プリンセス号』は、爆風に煽られて木の葉のように舞う。
「ガハハハ! どうだ駄犬! 我の火力には勝てまい!」
「うるせぇトカゲ! その金メッキ剥がしてやる!」
神獣二人は、眼中にリーザなどいなかった。
互いの機体を激突させ、フィールドであるテーブルを物理的に粉砕し、衝撃波で観客のズラを飛ばす。
(だ、ダメだわ……! あんな化け物たちに勝てるわけがない……!)
リーザの心は折れかけた。
だが、その時。彼女の脳裏に浮かんだのは、昨日の夕食だった。
――パンの耳(素揚げ)。
(……嫌よ。私は、もうパンの耳はいやぁぁぁッ!! 私は、卵とマヨネーズたっぷりのサンドイッチが食べたいのぉぉぉッ!!)
リーザの瞳に、飢餓という名の炎が宿る。
彼女はマイク(拡声機能付き魔道具)を握りしめた。
「聴いてください! 私の新曲……『ハングリー・ハート ~空腹は最強のスパイス~』!!」
ガンガンガン! オナカガガン!
リーザが歌い出した瞬間、奇跡が起きた。
彼女の固有魔法【人魚の歌声(セイレーン・ボイス)】が、情念(食欲)を魔力に変換し、スクラップ人形に注ぎ込まれたのだ。
キィィィィン……!
空き缶とゴミでできた『スクラップ・プリンセス号』が、虹色のオーラを放ち始める。
「な、なんだあの薄汚い人形は!?」
「魔力が……増幅しているだと!?」
デュークとフェンリルが気づいた時には、遅かった。
「必殺! 『半額シール貼り(特攻)』アタァァァック!!」
リーザの操作に呼応し、ゴミ人形が音速を超えた。
スーパーの半額惣菜を奪い合う時に培った、神速の動き。
スクラップ人形は、激突し合って動きの止まった黄金の機体と銀の機体の足元へ滑り込むと――。
バキッ!
空き缶の鋭利な断面で、二体の関節部(一番脆いところ)を正確に切断した。
「なっ!?」
「足がぁぁぁ!?」
バランスを崩した二体の超高性能機は、互いにもつれ合うようにしてフィールド外へ落下。
ガシャーン……。
場外、リングアウト。
砂煙が晴れたフィールドには、ボロボロになりながらも片足で立つ、空き缶ロボットの姿だけがあった。
「……勝者、リーザァァァァッ!!」
タローが叫ぶと同時に、広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
弱者が強者を、ゴミが黄金を制したジャイアント・キリングに、民衆は涙したのだ。
◇ ◇ ◇
「うぅっ……ありがとう……神様、タロー様……!」
表彰式。
賞金(白金貨100枚)を受け取ったリーザは、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
その姿を見た観客たちは、また勘違いをする。
「見ろ、あの涙……! 自分の技術が認められた嬉し涙だ!」
「あえて廃材を使ったのは、『素材の差など技術で覆せる』というメッセージだったんだ!」
「リーザ様万歳! 廃材の魔術師万歳!」
違う。彼女は今日の晩御飯のことを考えて泣いているだけだ。
だが、この日を境に、彼女のアイドルランク(とタロー皇国の技術力への評価)は爆上がりした。
一方、タローは壊れたテーブルを見ながら呟く。
「……次はもっと丈夫なテーブル、100均の『スチールラック』で作るか」
マグナギアの流行と共に、タロー皇国のガラクタ(資源)価格が高騰するという、謎の経済現象が起きるのだった。
タロー皇国の城下町広場は、かつてない熱気に包まれていた。
「さあ、始まるぞ! 第一回タロー杯争奪・マグナギア世界大会! 実況は私、タローでお送りします!」
櫓(やぐら)の上で、タローが100均の「拡声器」片手に叫ぶ。
「マグナギア」。
それはドワーフの技術と、タローのホビー魂が融合して生まれた、全長30センチの魔導操り人形だ。プレイヤーの魔力とイメージで自在に動き、盤上で戦う。
優勝賞金は、なんと白金貨100枚(1億円)。
この莫大な賞金に釣られ、一人の少女がエントリーしていた。
「……勝つ。絶対に勝って、お腹いっぱい『茹で卵』を食べるのよ……!」
選手控え室の隅で、ボロボロのフリル衣装を着た少女が震えている。
リーザ(本名:エリザベート・シーラン)。
深海国家シーランの王女でありながら、勘違いで家出し、現在は売れない地下アイドルとして極貧生活を送る人魚姫だ。
彼女の手にあるマグナギアは、異彩を放っていた。
空き缶、割れたガラス、針金、そして川で拾った流木。
それらをタロー皇国名物「強力瞬間接着剤」で無理やりくっつけた、名付けて『スクラップ・プリンセス号』である。
「見てなさい……ゴミ拾いで鍛えた私の執念、見せてあげるわ!」
◇ ◇ ◇
そして迎えた決勝戦。
フィールド(巨大なテーブル)に立ったのは、リーザだけではなかった。
「フン、貴様のガラクタごとき、我が黄金のギアで粉砕してくれる!」
「あぁ? 氷漬けにしてカキ氷にしてやるよ!」
大人気なく参戦してきたのは、竜王デュークと狼王フェンリルだった。
デュークの機体は、純金とミスリルで作られた『ゴールデン・エンペラー』。
フェンリルの機体は、永久凍土の氷で作られた『シルバー・ウルフ』。
どちらも素材だけで国が買えるレベルの代物だ。
「それでは決勝戦、レディー・ゴー!!」
タローの掛け声と共に、試合が始まった。
「喰らえ! アルティメット・バースト(模型版)!!」
「アブソリュート・ゼロ(模型版)!!」
ズガアアアアアンッ!!
開幕直後、フィールドが光と冷気に包まれた。
模型の出力ではない。操り手(神獣)の魔力が強すぎて、30センチの人形から本物のドラゴンブレスと絶対零度の吹雪が噴射されたのだ。
「ひいいいッ!?」
リーザは悲鳴を上げて、自分の操作盤にしがみついた。
彼女の『スクラップ・プリンセス号』は、爆風に煽られて木の葉のように舞う。
「ガハハハ! どうだ駄犬! 我の火力には勝てまい!」
「うるせぇトカゲ! その金メッキ剥がしてやる!」
神獣二人は、眼中にリーザなどいなかった。
互いの機体を激突させ、フィールドであるテーブルを物理的に粉砕し、衝撃波で観客のズラを飛ばす。
(だ、ダメだわ……! あんな化け物たちに勝てるわけがない……!)
リーザの心は折れかけた。
だが、その時。彼女の脳裏に浮かんだのは、昨日の夕食だった。
――パンの耳(素揚げ)。
(……嫌よ。私は、もうパンの耳はいやぁぁぁッ!! 私は、卵とマヨネーズたっぷりのサンドイッチが食べたいのぉぉぉッ!!)
リーザの瞳に、飢餓という名の炎が宿る。
彼女はマイク(拡声機能付き魔道具)を握りしめた。
「聴いてください! 私の新曲……『ハングリー・ハート ~空腹は最強のスパイス~』!!」
ガンガンガン! オナカガガン!
リーザが歌い出した瞬間、奇跡が起きた。
彼女の固有魔法【人魚の歌声(セイレーン・ボイス)】が、情念(食欲)を魔力に変換し、スクラップ人形に注ぎ込まれたのだ。
キィィィィン……!
空き缶とゴミでできた『スクラップ・プリンセス号』が、虹色のオーラを放ち始める。
「な、なんだあの薄汚い人形は!?」
「魔力が……増幅しているだと!?」
デュークとフェンリルが気づいた時には、遅かった。
「必殺! 『半額シール貼り(特攻)』アタァァァック!!」
リーザの操作に呼応し、ゴミ人形が音速を超えた。
スーパーの半額惣菜を奪い合う時に培った、神速の動き。
スクラップ人形は、激突し合って動きの止まった黄金の機体と銀の機体の足元へ滑り込むと――。
バキッ!
空き缶の鋭利な断面で、二体の関節部(一番脆いところ)を正確に切断した。
「なっ!?」
「足がぁぁぁ!?」
バランスを崩した二体の超高性能機は、互いにもつれ合うようにしてフィールド外へ落下。
ガシャーン……。
場外、リングアウト。
砂煙が晴れたフィールドには、ボロボロになりながらも片足で立つ、空き缶ロボットの姿だけがあった。
「……勝者、リーザァァァァッ!!」
タローが叫ぶと同時に、広場は割れんばかりの歓声に包まれた。
弱者が強者を、ゴミが黄金を制したジャイアント・キリングに、民衆は涙したのだ。
◇ ◇ ◇
「うぅっ……ありがとう……神様、タロー様……!」
表彰式。
賞金(白金貨100枚)を受け取ったリーザは、顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
その姿を見た観客たちは、また勘違いをする。
「見ろ、あの涙……! 自分の技術が認められた嬉し涙だ!」
「あえて廃材を使ったのは、『素材の差など技術で覆せる』というメッセージだったんだ!」
「リーザ様万歳! 廃材の魔術師万歳!」
違う。彼女は今日の晩御飯のことを考えて泣いているだけだ。
だが、この日を境に、彼女のアイドルランク(とタロー皇国の技術力への評価)は爆上がりした。
一方、タローは壊れたテーブルを見ながら呟く。
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