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EP 12
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妖精(害虫)駆除には、粘着シートが一番効く
地下ダンジョン「天魔窟」の出現から数日。
タロー皇国の城内は、別の意味で地獄と化していた。
「イェーイ! 仕事なんか放り出して踊ろうよっ☆」
「うおおお! 書類整理が止まらねぇぇ! 徹夜最高ォォォ!!」
「俺は……俺は鳥になるんだぁぁぁ!!」
城の廊下で、近衛兵や文官たちが奇声を上げながらブレイクダンスを踊ったり、窓から飛び降りようとしている。
原因は、空中を飛び回る七色の光――妖精キュルリンが撒き散らす「強制ハイテンション粉(鱗粉)」だ。
この粉を吸い込んだ者は、脳内麻薬がドバドバと分泌され、極度の興奮状態(トランス)に陥る。
おかげで城の機能は完全に麻痺していた。
「あははっ☆ みんなノリいいねー! もっとキラキラしちゃえー!」
キュルリンは無邪気に笑いながら、新たな被害者を探して飛び回る。
その時、執務室のドアが乱暴に開かれた。
「……うっさい」
現れたのは、目の下にクマを作ったタローだ。
自慢の「快眠枕(低反発)」で昼寝をしようとしたところ、廊下の騒音で起こされたのだ。機嫌は最悪である。
「あ、オーナーさんだ! ねぇねぇ、一緒に踊ろっ?」
「断る。お前、いい加減にしろよ。これ以上騒ぐなら『駆除』するぞ」
タローが低い声で警告するが、キュルリンは鼻で笑った。
「駆除ぉ? ムリムリっ☆ 妖精族のスピードは音速を超えるんだよ? 魔法だって当たらないのに、鈍くさい人間に捕まるわけ……」
シュンッ!
キュルリンが高速移動でタローの背後に回る。
確かに速い。目にも止まらない速さだ。
「ほらねっ☆ ボクは風そのものなんだから!」
調子に乗ったキュルリンは、タローの頭上をブンブンと旋回し始めた。
タローはため息をつき、虚空に手をかざす。
「スキル発動――【100円ショップ】」
取り出したのは、茶色い紙筒。
筒の端から、ベタベタした黄色いリボンを引き出す。
『昔ながらのハエ取りリボン(強力粘着タイプ・吊り下げ式)』である。
「よし、設置完了」
タローはそれを天井の梁(はり)に数本、適当にぶら下げた。
さらに、右手には『伸縮式・虫取り網(子供用)』を構える。
「あはは! なにそれ、装飾? センス悪ーい!」
キュルリンは黄色いリボンを見て爆笑した。
そして、興味本位でそのヒラヒラしたリボンに近づく。
妖精はキラキラしたものや、ゆらゆら揺れるものに引き寄せられる習性があるのだ。
「こんなの、指でツンってすれば……」
キュルリンがリボンに触れた、その瞬間。
ペタッ。
「え?」
指が離れない。
驚いて羽ばたこうとして、今度は羽がリボンにくっついた。
ベチャッ。
「えっ、ちょ、なにこれ!? 離れない!? 取れないよぉぉぉ!?」
キュルリンが藻掻けば藻掻くほど、強力な粘着剤が全身に絡みつく。
音速で動ける妖精も、物理的に固定されてしまえば動けない。
宙吊りになり、ジタバタする妖精。
「今だ」
タローは無慈悲に虫取り網を振るった。
バサッ。
「あべしっ☆」
網の中でリボンごと団子になったキュルリンが捕獲された。
「……捕ったどー」
◇ ◇ ◇
その一部始終を見ていた妻のライザ(剣聖)が、ガタガタと震えていた。
「ま、まさか……あれは伝説の捕縛宝具『スカイ・ネット(天網)』と、呪縛の魔布『ゴールデン・バインド』……!?」
ライザの眼には、タローの持つ虫取り網が、空間そのものを断ち切り獲物を逃さない神の網に見えていた。
そしてあの黄色いリボンは、触れた者の自由意思を奪う、絶対拘束の呪具に見えたのだ。
「妖精王の加護を持つ彼女を、傷つけずに無力化するなんて……。タロー様の慈悲深さと、アイテムの凶悪さに震えが止まりませんわ」
◇ ◇ ◇
執務室のテーブルの上。
粘着剤でベタベタになり、半泣きのキュルリンが転がされていた。
「うぅぅ……酷いよぉ……羽がベトベトだよぉ……」
「反省したか?」
「した……ぐすっ……。もう粉撒かないもん……」
しょんぼりするキュルリンを見て、タローは少し可哀想になった。
まあ、悪気があってやったわけではないのだろう(たぶん)。
「ほら、これやるから機嫌直せ」
タローは冷蔵庫から『3連プリン』を一つ取り出し、蓋を開けて差し出した。
「……なにこれ?」
「プリンだ。甘いぞ」
キュルリンは警戒しつつ、小さなスプーンで黄色い塊をすくって口に入れた。
チュルッ。
「んんっ!?」
キュルリンの羽がピーンと立った。
卵のコク、牛乳の優しさ、そして底にあるカラメルソースのほろ苦さ。
妖精界の主食である「朝露」や「花の蜜」とは比較にならない、濃厚な味の暴力。
「お、おいしぃぃぃぃっ!! なにこれ! プルプルしてて甘くて、最高じゃんっ☆」
キュルリンは猛スピードでプリンを平らげ、空になったカップを舐め回した。
そして、キラキラした目でタローを見る。
「オーナーさん! これもっとちょうだい!」
「ダンジョンの管理を真面目にやるならな。あと、城の中で暴れないこと」
「やるやるーっ! ボク、今日から真面目な管理人になるっ☆ だからプリンおかわり!」
こうして、最恐の妖精は、1個数十円のプリンによって餌付けされた。
タローは安堵のため息をつく。
「(よかった、ハエ取りリボンで捕まえたことは恨んでないみたいだ……)」
だが、この一件以降、キュルリンはタローのことを「プリン神(しん)」と呼んで崇めるようになり、ダンジョンの景品に勝手に「タローの私物」を混ぜるようになるのだが、それはまた別の話である。
地下ダンジョン「天魔窟」の出現から数日。
タロー皇国の城内は、別の意味で地獄と化していた。
「イェーイ! 仕事なんか放り出して踊ろうよっ☆」
「うおおお! 書類整理が止まらねぇぇ! 徹夜最高ォォォ!!」
「俺は……俺は鳥になるんだぁぁぁ!!」
城の廊下で、近衛兵や文官たちが奇声を上げながらブレイクダンスを踊ったり、窓から飛び降りようとしている。
原因は、空中を飛び回る七色の光――妖精キュルリンが撒き散らす「強制ハイテンション粉(鱗粉)」だ。
この粉を吸い込んだ者は、脳内麻薬がドバドバと分泌され、極度の興奮状態(トランス)に陥る。
おかげで城の機能は完全に麻痺していた。
「あははっ☆ みんなノリいいねー! もっとキラキラしちゃえー!」
キュルリンは無邪気に笑いながら、新たな被害者を探して飛び回る。
その時、執務室のドアが乱暴に開かれた。
「……うっさい」
現れたのは、目の下にクマを作ったタローだ。
自慢の「快眠枕(低反発)」で昼寝をしようとしたところ、廊下の騒音で起こされたのだ。機嫌は最悪である。
「あ、オーナーさんだ! ねぇねぇ、一緒に踊ろっ?」
「断る。お前、いい加減にしろよ。これ以上騒ぐなら『駆除』するぞ」
タローが低い声で警告するが、キュルリンは鼻で笑った。
「駆除ぉ? ムリムリっ☆ 妖精族のスピードは音速を超えるんだよ? 魔法だって当たらないのに、鈍くさい人間に捕まるわけ……」
シュンッ!
キュルリンが高速移動でタローの背後に回る。
確かに速い。目にも止まらない速さだ。
「ほらねっ☆ ボクは風そのものなんだから!」
調子に乗ったキュルリンは、タローの頭上をブンブンと旋回し始めた。
タローはため息をつき、虚空に手をかざす。
「スキル発動――【100円ショップ】」
取り出したのは、茶色い紙筒。
筒の端から、ベタベタした黄色いリボンを引き出す。
『昔ながらのハエ取りリボン(強力粘着タイプ・吊り下げ式)』である。
「よし、設置完了」
タローはそれを天井の梁(はり)に数本、適当にぶら下げた。
さらに、右手には『伸縮式・虫取り網(子供用)』を構える。
「あはは! なにそれ、装飾? センス悪ーい!」
キュルリンは黄色いリボンを見て爆笑した。
そして、興味本位でそのヒラヒラしたリボンに近づく。
妖精はキラキラしたものや、ゆらゆら揺れるものに引き寄せられる習性があるのだ。
「こんなの、指でツンってすれば……」
キュルリンがリボンに触れた、その瞬間。
ペタッ。
「え?」
指が離れない。
驚いて羽ばたこうとして、今度は羽がリボンにくっついた。
ベチャッ。
「えっ、ちょ、なにこれ!? 離れない!? 取れないよぉぉぉ!?」
キュルリンが藻掻けば藻掻くほど、強力な粘着剤が全身に絡みつく。
音速で動ける妖精も、物理的に固定されてしまえば動けない。
宙吊りになり、ジタバタする妖精。
「今だ」
タローは無慈悲に虫取り網を振るった。
バサッ。
「あべしっ☆」
網の中でリボンごと団子になったキュルリンが捕獲された。
「……捕ったどー」
◇ ◇ ◇
その一部始終を見ていた妻のライザ(剣聖)が、ガタガタと震えていた。
「ま、まさか……あれは伝説の捕縛宝具『スカイ・ネット(天網)』と、呪縛の魔布『ゴールデン・バインド』……!?」
ライザの眼には、タローの持つ虫取り網が、空間そのものを断ち切り獲物を逃さない神の網に見えていた。
そしてあの黄色いリボンは、触れた者の自由意思を奪う、絶対拘束の呪具に見えたのだ。
「妖精王の加護を持つ彼女を、傷つけずに無力化するなんて……。タロー様の慈悲深さと、アイテムの凶悪さに震えが止まりませんわ」
◇ ◇ ◇
執務室のテーブルの上。
粘着剤でベタベタになり、半泣きのキュルリンが転がされていた。
「うぅぅ……酷いよぉ……羽がベトベトだよぉ……」
「反省したか?」
「した……ぐすっ……。もう粉撒かないもん……」
しょんぼりするキュルリンを見て、タローは少し可哀想になった。
まあ、悪気があってやったわけではないのだろう(たぶん)。
「ほら、これやるから機嫌直せ」
タローは冷蔵庫から『3連プリン』を一つ取り出し、蓋を開けて差し出した。
「……なにこれ?」
「プリンだ。甘いぞ」
キュルリンは警戒しつつ、小さなスプーンで黄色い塊をすくって口に入れた。
チュルッ。
「んんっ!?」
キュルリンの羽がピーンと立った。
卵のコク、牛乳の優しさ、そして底にあるカラメルソースのほろ苦さ。
妖精界の主食である「朝露」や「花の蜜」とは比較にならない、濃厚な味の暴力。
「お、おいしぃぃぃぃっ!! なにこれ! プルプルしてて甘くて、最高じゃんっ☆」
キュルリンは猛スピードでプリンを平らげ、空になったカップを舐め回した。
そして、キラキラした目でタローを見る。
「オーナーさん! これもっとちょうだい!」
「ダンジョンの管理を真面目にやるならな。あと、城の中で暴れないこと」
「やるやるーっ! ボク、今日から真面目な管理人になるっ☆ だからプリンおかわり!」
こうして、最恐の妖精は、1個数十円のプリンによって餌付けされた。
タローは安堵のため息をつく。
「(よかった、ハエ取りリボンで捕まえたことは恨んでないみたいだ……)」
だが、この一件以降、キュルリンはタローのことを「プリン神(しん)」と呼んで崇めるようになり、ダンジョンの景品に勝手に「タローの私物」を混ぜるようになるのだが、それはまた別の話である。
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