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EP 14
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無法地帯のダンジョンに、法曹三羽烏が降臨する
地下ダンジョン「天魔窟」は、世界中から荒くれ者たちが集まる場所だ。
当然、トラブルも絶えない。
「おい! その宝箱は俺が見つけたんだぞ!」
「ハァ? 鍵を開けたのは俺だ! 横取りすんじゃねぇ!」
「うっせぇ! 力ずくで奪ってやるよ! PK(プレイヤーキル)だオラァ!」
地下30階層のセーフティエリア。
本来は休憩所であるはずの場所で、冒険者パーティ同士が剣を抜いて睨み合っていた。
ドロップ品の奪い合い、場所取り、そして暴力。
ここは法が届かない弱肉強食の世界――のはずだった。
カーン! カーン!
殺伐とした空気を、乾いた音が切り裂いた。
全員が振り返ると、広場の隅に、いつの間にか「木造のカウンター(法廷)」が設置されていた。
「静粛に。……これより、地下30階層・簡易裁判所を開廷する」
中央に座るのは、眼鏡を光らせた天使族、サトウ・ケンギ判事。
その手にはタローから譲り受けた『100均の木槌(おもちゃ)』が握られている。
「な、なんだテメェらは!?」
「俺たちのシマで勝手なマネしてんじゃ……」
チンピラ冒険者が凄むが、次の瞬間、左右からとてつもないプレッシャーが放たれた。
「……やかましい。被告人は黙っていろ」
「あら、暴力はいけませんわ。損害賠償額が増えるだけですのよ?」
右席には、魔刀「閻魔」を抜き放ち、コーヒーキャンディを噛み砕く魔族検事、堂羅デューラ。
左席には、電卓片手に優雅に微笑むゴルド商会の悪徳令嬢、リベラ・ゴルド。
世界を裏で牛耳る「法曹三羽烏」が、治安維持のために出張ってきたのだ。
「ぼ、冒険者に法律なんて関係ねぇ! やっちまえ!」
PK常習犯のリーダーが剣を振り上げた。
だが、その剣が振り下ろされることはなかった。
ザンッ。
一閃。
デューラの姿が掻き消えたかと思うと、リーダーの持っていた剣だけが、粉々に砕け散っていた。
「……スキル【因果の天秤】。貴様の罪状(カルマ)は『強盗傷害』12件、『詐欺』5件。……執行猶予なしの実刑だ」
デューラは納刀しながら、冷酷に告げた。
殺してはいない。だが、冒険者の命である武器を破壊され、男は腰を抜かして失禁した。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
「裁判長、検察側は『被告人への厳罰』を求めます。具体的には……」
デューラがニヤリと笑う。
「『ダンジョン清掃活動100年』か、あるいは……」
「その必要はない。即決裁判を行う」
ケンギ裁判長が立ち上がった。
彼は懐から、ドクロマークのついた赤い小瓶を取り出した。
タローから仕入れた『激辛デスソース(カプサイシン抽出液)』である。
「判決。被告人はこの『赤き清めの聖水』を一気飲みし、罪を悔い改めることとする」
「は? なんだその水……ごふぅっ!?」
ケンギの聖なる魔力で拘束された男の口に、瓶ごと突っ込まれる。
「ギァァァァァァァァッ!!? 喉が! 喉が焼けるゥゥゥッ!!」
断末魔のような叫びと共に、男はのたうち回り、口から火を吹いて気絶した。
その光景に、周囲の荒くれ者たちが震え上がる。
「つ、次はどいつだ……?」
「俺たちはただ、ドロップ品の分配で揉めてただけで……」
震える別のパーティに、今度はリベラが菩薩のような笑顔で近づいた。
「揉め事はよくありませんわ。……でしたら、こうしましょう?」
彼女が差し出したのは、示談書と『ゴルド商会・商品券』だった。
「被害者の方には、この商品券(お見舞金)を差し上げます。その代わり、告訴は取り下げていただけますわね? 加害者の方は……これだけの借用書にサインすれば、我が商会が弁護して差し上げますわよ?」
「へ? か、金がもらえるなら……」
「裁判になるよりはマシか……」
リベラの甘い言葉と金の力(商品券)によって、血で血を洗う抗争が、あっという間に「事務的な示談」へと処理されていく。
◇ ◇ ◇
一時間後。
地下30階層は、奇妙な静寂に包まれていた。
「おい、先に宝箱開けていいぞ……」
「いやいや、どうぞどうぞ。後で訴えられたくないんで……」
「譲り合いの精神、大事だよな……」
冒険者たちは互いに敬語を使い、列を作ってモンスターを狩るようになっていた。
無法地帯だったダンジョンは、世界一マナーの良い(そして法を恐れる)場所に生まれ変わったのである。
後日、視察に来たタローは、整列してゴブリンを殴る冒険者たちを見て呟いた。
「……なんか、俺の知ってるファンタジーと違う」
だが、治安が良くなったことで、家族連れの観光客が増え、天魔窟の収益はさらに跳ね上がるのだった。
地下ダンジョン「天魔窟」は、世界中から荒くれ者たちが集まる場所だ。
当然、トラブルも絶えない。
「おい! その宝箱は俺が見つけたんだぞ!」
「ハァ? 鍵を開けたのは俺だ! 横取りすんじゃねぇ!」
「うっせぇ! 力ずくで奪ってやるよ! PK(プレイヤーキル)だオラァ!」
地下30階層のセーフティエリア。
本来は休憩所であるはずの場所で、冒険者パーティ同士が剣を抜いて睨み合っていた。
ドロップ品の奪い合い、場所取り、そして暴力。
ここは法が届かない弱肉強食の世界――のはずだった。
カーン! カーン!
殺伐とした空気を、乾いた音が切り裂いた。
全員が振り返ると、広場の隅に、いつの間にか「木造のカウンター(法廷)」が設置されていた。
「静粛に。……これより、地下30階層・簡易裁判所を開廷する」
中央に座るのは、眼鏡を光らせた天使族、サトウ・ケンギ判事。
その手にはタローから譲り受けた『100均の木槌(おもちゃ)』が握られている。
「な、なんだテメェらは!?」
「俺たちのシマで勝手なマネしてんじゃ……」
チンピラ冒険者が凄むが、次の瞬間、左右からとてつもないプレッシャーが放たれた。
「……やかましい。被告人は黙っていろ」
「あら、暴力はいけませんわ。損害賠償額が増えるだけですのよ?」
右席には、魔刀「閻魔」を抜き放ち、コーヒーキャンディを噛み砕く魔族検事、堂羅デューラ。
左席には、電卓片手に優雅に微笑むゴルド商会の悪徳令嬢、リベラ・ゴルド。
世界を裏で牛耳る「法曹三羽烏」が、治安維持のために出張ってきたのだ。
「ぼ、冒険者に法律なんて関係ねぇ! やっちまえ!」
PK常習犯のリーダーが剣を振り上げた。
だが、その剣が振り下ろされることはなかった。
ザンッ。
一閃。
デューラの姿が掻き消えたかと思うと、リーダーの持っていた剣だけが、粉々に砕け散っていた。
「……スキル【因果の天秤】。貴様の罪状(カルマ)は『強盗傷害』12件、『詐欺』5件。……執行猶予なしの実刑だ」
デューラは納刀しながら、冷酷に告げた。
殺してはいない。だが、冒険者の命である武器を破壊され、男は腰を抜かして失禁した。
「ひ、ひぃぃぃ……!」
「裁判長、検察側は『被告人への厳罰』を求めます。具体的には……」
デューラがニヤリと笑う。
「『ダンジョン清掃活動100年』か、あるいは……」
「その必要はない。即決裁判を行う」
ケンギ裁判長が立ち上がった。
彼は懐から、ドクロマークのついた赤い小瓶を取り出した。
タローから仕入れた『激辛デスソース(カプサイシン抽出液)』である。
「判決。被告人はこの『赤き清めの聖水』を一気飲みし、罪を悔い改めることとする」
「は? なんだその水……ごふぅっ!?」
ケンギの聖なる魔力で拘束された男の口に、瓶ごと突っ込まれる。
「ギァァァァァァァァッ!!? 喉が! 喉が焼けるゥゥゥッ!!」
断末魔のような叫びと共に、男はのたうち回り、口から火を吹いて気絶した。
その光景に、周囲の荒くれ者たちが震え上がる。
「つ、次はどいつだ……?」
「俺たちはただ、ドロップ品の分配で揉めてただけで……」
震える別のパーティに、今度はリベラが菩薩のような笑顔で近づいた。
「揉め事はよくありませんわ。……でしたら、こうしましょう?」
彼女が差し出したのは、示談書と『ゴルド商会・商品券』だった。
「被害者の方には、この商品券(お見舞金)を差し上げます。その代わり、告訴は取り下げていただけますわね? 加害者の方は……これだけの借用書にサインすれば、我が商会が弁護して差し上げますわよ?」
「へ? か、金がもらえるなら……」
「裁判になるよりはマシか……」
リベラの甘い言葉と金の力(商品券)によって、血で血を洗う抗争が、あっという間に「事務的な示談」へと処理されていく。
◇ ◇ ◇
一時間後。
地下30階層は、奇妙な静寂に包まれていた。
「おい、先に宝箱開けていいぞ……」
「いやいや、どうぞどうぞ。後で訴えられたくないんで……」
「譲り合いの精神、大事だよな……」
冒険者たちは互いに敬語を使い、列を作ってモンスターを狩るようになっていた。
無法地帯だったダンジョンは、世界一マナーの良い(そして法を恐れる)場所に生まれ変わったのである。
後日、視察に来たタローは、整列してゴブリンを殴る冒険者たちを見て呟いた。
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