『無作法な異世界にSWAT流の鉄槌を ―弾丸一発一千円、女神と契約した俺たちの戦術防衛記―』

月神世一

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EP 2

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「状況開始(グリーン・ライト)――初弾のコスト」
​ ドサッ、という重たい音と共に、俺とニコラスは湿った草の上に放り出された。
 頭上には見たこともない巨大な樹木が覆いかぶさり、紫がかった太陽の光が漏れている。
​「……クリア」
「クリア。敵影なし」
​ 転移の衝撃を殺し、即座に背中合わせになって周囲を警戒(スキャン)する。これが身体に染みついた習性だ。
 周囲30メートルに動くものはなし。俺はホルスターのKorthを戻さず、ニコラスにハンドサインを送る。
​「装備チェックだ。現状を確認する」
「了解(ラジャー)。……チッ、圏外かよ」
​ ニコラスはスマホを一瞥して舌打ちすると、手際よくベネリM4のチャンバーを確認した。
​「メイン、ベネリM4。装填済み7発、予備弾薬(シェル)はベルトに20発。サブのグロック20、予備マガジン2本。……心細いっすね」
「俺はKorthに6発、クイックローダーが2つ。シールド、スタングレネード1発。……以上だ」
​ 圧倒的に物資が足りない。
 あの駄女神の言葉が本当なら、ここで無駄弾を使えば、追加購入には現地通貨が必要になる。
​「ボス、計算しました? 俺がトリガーハッピーになってワンマガジン撃ち尽くしたら……」
「3,500円と手数料だ。今日の晩飯が消えるぞ」
「世知辛ぇ……! 魔法とかないんすか、俺たち」
​ 軽口を叩きながらも、俺たちは森の中を移動し始めた。
 足音を殺し、互いの死角をカバーしながら進む。SWATのツーマンセル(二人一組)ドリルだ。
​ 数分ほど進んだ時だ。
 風向きが変わった。
​「……ボス」
「ああ、匂うな」
​ 鼻孔をつく、鉄錆のような臭気。血の匂いだ。
 それも、かなり新しい。
​ 俺たちは速度を上げた。藪をかき分けた先、視界が開ける。
 眼下には、粗末な木の柵で囲まれた小さな集落――『ポポロ村』があった。
​「うわぁ、典型的(クラシック)なファンタジーだ」
「感傷に浸るな。状況を見ろ」
​ 村は燃えていた。
 緑色の肌をした小鬼の集団――ゴブリンが、蟻のように柵を乗り越えようとしている。数はざっと30匹。
 対する村側は、数人の自警団が必死にバリケードを支えているが、今にも決壊しそうだ。
​「オラァアア! ここは通さねぇよッ!」
​ 一際大きな怒号が響いた。
 最前線で、鎖付きの戦斧を振り回す巨乳の女戦士がいる。モウラだ。
 彼女は豪快に斧を旋回させ、ゴブリンを薙ぎ払っているが、多勢に無勢。背後には逃げ遅れた子供や老人が震えているのが見える。
​ ゴブリンの一匹が、モウラの死角から錆びたナイフを持って跳躍した。
​「ボス、どうします?」
​ ニコラスがショットガンの安全装置を解除する音(カチッ)がした。
 ここは異世界だ。俺たちに管轄権はない。関われば弾薬(カネ)が減る。見捨てて撤退するのが合理的だ。
​ だが。
 俺の視線は、ゴブリンの凶刃に怯える子供に向けられていた。
 脳裏に過(よぎ)る、前の世界での失敗。守れなかった命。
​ ――二度はねぇぞ。
​ 俺はKorthのハンマーを起こした。
​「ニコラス。我々の任務(ジョブ)を言ってみろ」
「……『市民の安全確保』、でしたっけ?」
「その通りだ。市民の安全が最優先(プライオリティ・ワン)。――対象を排除(クリア)する」
​ ニコラスが凶悪な笑みを浮かべた。
​「了解(コピー)! ……あーあ、高くつきますよ、女神サマ!」
​ 俺たちは森から飛び出した。
 距離50メートル。有効射程圏内。
​ 俺は走りながら、モウラの背後へ飛びかかったゴブリンの頭部に照準を合わせる。
 躊躇はない。
 引き金を引く。
​ ズドンッ!!
​ 森の空気を震わせる轟音が炸裂した。
 魔法の光も、詠唱もない。
 ただ、飛びかかったゴブリンの頭が、熟れたトマトのように弾け飛んだだけだ。
​「なっ!?」
​ 返り血を浴びたモウラが、驚愕に目を見開いてこちらを見る。
 戦場全ての視線が、未知の爆音を響かせた俺たちに集中した。
​「LAPD SWATだ! 武器を捨てて投降しろ!」
​ 通じるはずもない警告を叫びながら、俺は盾(バリスティック・シールド)を構えて突っ込む。
 ニコラスが俺の斜め後ろにつき、ベネリM4を構えた。
​「どきな、お嬢ちゃん方! ここからは大人の時間(プロ・タイム)だ!」
​「射撃許可(グリーン・ライト)! 撃て(ファイア)ッ!」
​ ドォン! ドォン!
​ ニコラスのショットガンが火を噴く。
 12ゲージの散弾が扇状に広がり、密集していたゴブリンたちをボロ雑巾のように吹き飛ばした。
​ 剣も魔法も届かない距離からの、一方的な殺戮。
 ポポロ村に、現代兵器という名の雷鳴が轟いた。
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