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EP 4
しおりを挟む村長の理解と、マイホームのお披露目
フィリアに案内され、真守は村の中央に位置する一際立派な木造の家へと足を踏み入れた。そこが村長ラミアスの家であり、フィリアの実家でもあった。
通されたリビングには、どっしりとした木のテーブルと椅子が置かれ、壁には古い剣や盾、そして大きな魚の剥製などが飾られている。元冒険者であった村長の面影がそこかしこに感じられた。
「おお、フィリア。それに、そちらの若者が…」
奥から現れたのは、がっしりとした体躯に鋭い眼光を宿した壮年の男性。年の頃は50代前半だろうか。所々白髪の混じった髪を後ろで無造服に束ね、口元には立派な髭を蓄えている。彼がフィリアの父、ラミアス村長だった。その隣には、穏やかな微笑みを浮かべた、フィリアとよく似た優しい目元の女性が立っている。母のシャーラだろう。
「お父さん、お母さん。こちら、マモルさん。さっき、街道で盗賊に襲われていたところを助けてくださったの」
「ほう、マモル殿と申されるか。この度は娘が世話になった。礼を言うぞ」
ラミアスは深々と頭を下げた。その言葉には偽りのない感謝が込められている。シャーラも「本当にありがとうございます。ささやかですが、お茶でもどうぞ」と、薬草の香りがする温かいお茶を真守の前にそっと置いた。
「いえ、当然のことをしたまでです」
真守は少し恐縮しながら答える。
フィリアは興奮冷めやらぬ様子で口を開いた。
「それでね、お父さん!マモルはこれからどうしようか困っていて……その、家を出せるスキル、みたいなのを持っているみたいなの!」
「家を出すスキル、だと?」ラミアスは怪訝な顔で真守を見た。「それはまた……珍しいな。ユニークスキルの一種か?」
シャーラも「まぁ……そのようなスキルがあるとは、私も初めて聞きましたわ」と驚いたように目を丸くする。
「村に、彼がその家を置けるような空いている場所はないでしょうか?」フィリアが尋ねる。
ラミアスは腕を組み、ううむ、と唸った。「そうだなあ……村の中は、家を建てるような広い空き地はとっくの昔に埋まってしまっていてな。多少のスペースはあっても、恩人であるマモル殿に提供できるような場所とは言い難い」
シャーラも困ったように眉を寄せた。「本当に申し訳ありません。この村も、見かけよりは土地に余裕がなくて……」
その時、シャーラが何かを思い出したようにポンと手を打った。
「あ! そうだわ、フィリア。あなたのお家の隣、覚えているでしょう? しばらく空き家になっている、あそこなら……持ち主の方が亡くなられて久しいし、土地もかなり広いはずよ」
「ええ? あそこのボロ屋のこと? 場所は良いかもしれないけど……マモルにそんな所……」
フィリアは少し顔をしかめる。よほどひどい状態なのだろう。
その会話を聞きながら、真守は静かに目の前の空間に意識を集中し、スキルボードを思い浮かべた。
(スキル……素材交換……『不要なアイテムや物質をポイントに変換できます』……もしかしたら、あのボロ屋も『素材』として認識されるんじゃないか……? それで得たポイントで……)
彼の脳裏に、ある閃きがよぎる。そして、スキルボードの隅に表示された【善行ポイント:盗賊撃退 +30Pt】【初期ボーナス:100 Pt】の文字が、微かな希望を与えてくれた。
「どうしたの? マモル?」
フィリアが心配そうに真守の顔を覗き込む。
「うん……その空き家で、何とかなるかもしれない。多分だけど」
真守は、まだ確信はないものの、わずかな可能性に賭けてみることにした。
「よろしいのですか? マモル殿。あそこは本当に、人が住めるような状態では……」ラミアスが気遣わしげに言う。
「ええ、大丈夫です。一度、見せていただけますか?」
フィリアは少し頬を赤らめながら、「ま、マモルが隣に住むっていうなら……案内するけど……」と、どこか嬉しそうに呟いた。
真守とフィリアは、村長の家を辞し、フィリアの家の隣にあるという空き家へと向かった。
そこは、フィリアの可愛らしい家とは対照的に、見るからに荒れ果てた一軒家だった。屋根は一部が抜け落ち、壁は蔦に覆われ、窓ガラスは割れている。庭には雑草が生い茂り、まるで何年も人が立ち入っていないかのようだ。
「……本当に、ここで大丈夫なの?」
フィリアが不安そうに尋ねる。
真守は頷き、スキルボードを操作するイメージで、目の前の空き家に意識を集中した。
(対象スキャン……物質構成解析……ふむふむ、木材、石材、少量の金属か……素材価値算出……解体実行可能……必要精神力、微小……変換予測ポイント……お、これは!)
真守の脳内に、スキルボードからの情報が流れ込んでくる。そして、彼の目の前にだけ見える半透明のボードには【対象:廃屋 解体実行しますか? 獲得予測ポイント:5280 Pt】という表示が浮かび上がった。
「よし!」真守は小さくガッツポーズをした。「フィリア、ちょっと見ててくれ」
彼は空き家に向かって右手をかざし、はっきりと告げた。
「スキル『マイホーム』……対象オブジェクト、素材交換、実行!」
その瞬間、空き家が淡い光に包まれた。フィリアが「きゃっ!」と小さく声を上げる。
光は一瞬強まり、次の瞬間には、まるで陽炎のように空き家が揺らぎ始めた。そして、音もなく、静かに、まるで最初からそこには何もなかったかのように、ボロボロの家は跡形もなく消え去ってしまったのだ。ただ、雑草だけが残された更地がそこにある。
「え……ええええっ!? い、家が……消えちゃった……!?」
フィリアは信じられないものを見たというように、目を大きく見開いて口元を押さえている。魔法とは明らかに違う、不可思議で圧倒的な現象。
真守のスキルボードには、【ポイントが 5280 Pt 加算されました。現在の所持ポイント:5410 Pt】という表示が輝いていた。
(やった! これなら……!)
真守は興奮を抑え、今度は更地となったその場所に意識を集中する。脳裏に浮かぶのは、35年ローンを組んで手に入れた、あの愛すべき我が家――2階建て、5LDK、書斎付きの鉄筋コンクリート住宅。
女神アクアの「快適にしといた」という言葉を信じ、彼は高らかに宣言した。
「――出でよ、マイホームッ!!」
真守の叫びに応えるように、更地の中心から眩い光が放たれた。地面がわずかに震動し、どこからともなく風が巻き起こる。フィリアが息を呑むのが分かった。
光が収束していくと、そこには……先程まで何もなかったはずの場所に、白く輝くモダンなデザインの、巨大な二階建ての家が、圧倒的な存在感を放って出現していた。それは、アルニア村の素朴な木造家屋とはあまりにも異質で、それでいてどこか神々しささえ感じさせる威容を誇っていた。
「お、おお……! 俺の……俺のマイホームだぁぁぁっ!!」
真守は、異世界で再会を果たした我が家の姿に、感動のあまり叫ばずにはいられなかった。失恋の痛手も、ローンの重圧も、今はどこか遠くに感じられる。この家こそが、彼の新しい世界での城なのだ。
隣では、フィリアが言葉を失い、ただただ目の前の光景に呆然と立ち尽くしていた。
「な……何、この……お城、みたいな家は……? これが……これがマモルの、スキル……?」
彼女の青い瞳が、驚愕と、そしてほんの少しの畏怖の色を浮かべて、真新しい家とその持ち主である真守を交互に見つめていた。
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