72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める

月神世一

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EP 2

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物理最強のノートパソコン
​「うわああああっ!?」
​ 視界が真っ白に染まり、浮遊感に襲われたかと思うと、俺の体は地面へと叩きつけられた。
​「ぐっ……!」
​ 背中に走る鈍い痛み。土と草の匂い。
 目を開けると、そこは鬱蒼とした森の中だった。
 木々の隙間から差し込む光は弱く、空気はひんやりと冷たい。
​「……マジかよ。本当に異世界か」
​ 俺は身体を起こし、周囲を見渡した。
 見慣れない植物。巨大なシダのような葉。
 そして、手元には無骨な黒いノートパソコン『ルチアナ・ブック』が一台。
​「あの女神、本当に手ぶらで放り出しやがった……」
​ 食料も水もない。あるのはこのPCと、ポケットに入っていた財布、そしてスマホだけ。
 まずは状況確認だ。水場を探して、それから――。
​ キンッ! ガキンッ!
​ 思考を遮るように、金属がぶつかり合う甲高い音が響いた。
 風に乗って、微かに焦げ臭い匂いと、男の怒声が聞こえる。
​「逃がすな! 囲め!」
「生意気なガキが! 大人しくしろ!」
​ ……嫌な予感がする。
 ブラック企業の深夜シフトで培った「トラブル感知センサー」が警鐘を鳴らしている。
 関わらない方がいい。俺はただの一般人だ。
​ そう思って踵を返そうとした時だった。
​「――っ! お願い、この子たちには手を出さないで!」
​ 凛とした、しかし必死な少女の声が聞こえた。
 その声に、なぜか足が止まる。
 理不尽な暴力に晒されている誰かの声。それは、かつて店内で酔っ払いに絡まれていた後輩バイトの声と重なった。
​「……チッ。最悪だ」
​ 俺は舌打ちをし、音のする方へと走り出した。
​ 森が開けた場所に出ると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
​ 粗末な鎧をまとった男たちが5人。
 剣や槍を構え、一人の少女を取り囲んでいる。
 男たちの耳や尻尾を見るに、彼らは人間ではない。獣人だ。
​ 包囲されている少女は、ボロボロの服を着ていたが、その瞳は燃えるように赤く、美しい白銀の髪が風になびいていた。
 頭には長いウサギの耳。
 彼女の背後には、怯えて震える二人の子供がいる。
​「諦めろ、キャルル。貴様のような上玉、高く売れるんだよ」
​ リーダー格らしき狼男が、下卑た笑みを浮かべて剣を突きつける。
​「断るわ! 私はもう、誰の道具にもならない!」
​ 少女――キャルルと呼ばれたウサギ耳の子は、両手に持った短い棒(トンファー)を構え、子供たちを背に守り続けている。
 だが、多勢に無勢だ。彼女の肩や太ももには切り傷があり、呼吸も荒い。
​「なら、手足の一本でもへし折って連れて行くまでだ!」
​ 狼男が剣を振り上げ、無防備な少女へと踏み込んだ。
 少女は反応できない。子供たちが悲鳴を上げる。
​ ――プツン。
​ 俺の中で、何かが切れる音がした。
​ 72時間のワンオペ。
 理不尽なクレーム。
 高圧的な上司。
 そして、異世界に来てまで目にする、弱い者イジメ。
​「……いい加減にしろよ、お前らァ!!」
​ 俺は叫びながら、草むらを飛び出した。
​「あぁ!? 誰だ貴様!」
​ 狼男が驚いて振り返る。
 俺の手には武器がない。あるのは、さっきルチアナから押し付けられた『ノートパソコン』だけだ。
​ だが、俺は元投手だ。
 握り慣れたボールはないが、このPCの「重心」と「形状」は、指先にしっくりと馴染んでいた。
​(ルチアナが言ってたな。『絶対破壊不能』だって)
​ なら、壊れる心配はない。
 俺は走りながら大きく振りかぶり、全身のバネを使って右腕を振るった。
​「食らえッ! ノートPC投法(ストレート)ォォォッ!!」
​ 指先から放たれた黒い塊は、唸りを上げて空を切り裂いた。
 その速度、推定150キロ。
 しかも、俺の癖球である「ジャイロ回転」が掛かっている。
​ ヒュンッ!!
​「は?」
​ 狼男がマヌケな声を上げた瞬間。
 回転するノートPCの角が、彼の構えていた鉄の剣に激突した。
​ ガギィィィンッ!!
​ 信じられないことに、鉄製の剣が飴細工のようにへし折れ、粉砕された。
 破壊不能(インデストラクション)の硬度は、鋼鉄すら上回る。
​ しかし、PCの勢いは止まらない。
 剣を砕いたその軌道のまま、狼男の顔面へと吸い込まれる。
​ ドゴォォォォォンッ!!
​「ぶべらっ!?」
​ 鈍い音と共に、狼男の体が後方へ吹き飛んだ。
 きりもみ回転しながら数メートル飛び、大木に激突して白目を剥く。
​ 静寂。
 残された4人の兵士も、助けられた少女も、ポカンと口を開けてその光景を見ていた。
​ 俺は肩で息をしながら、地面に落ちたノートPCを拾い上げた。
 恐る恐る確認する。
​ ……傷一つない。
 液晶割れはおろか、泥汚れすら付いていない。
 起動してみると、Windowsのロゴが涼しい顔で立ち上がった。
​「マジかよ……最強じゃねーか、これ」
​ 俺はPCを小脇に抱え、呆然とする兵士たちを睨みつけた。
​「おい、次はお前らか? 今なら『再起動(物理)』してやるぞ」
​ 俺の挑発に、兵士たちが我に返り、顔色を変えて武器を構え直した。
​「き、貴様! 何をした! 魔法使いか!?」
「ただの通りすがりのコンビニ店員だ! 文句あるか!」
​ 多対一。
 状況は依然として不利だ。
 だが、俺の乱入によって生まれた「隙」。
 それを見逃すような彼女ではなかった。
​「……隙ありッ!」
​ ウサギ耳の少女、キャルルの瞳が鋭く光った。
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