悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 3

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横領の証拠と王子の私兵 ~邪魔者はデコピンで消します~
 法廷外の戦いは、泥臭い情報戦と潜入から始まる。
 ルミナス帝国の第二王子エドワードが横領した資金は、主にドワーフの地下帝国ドンガンからの「裏ルートでの高性能武器の仕入れ」に使われていた。資金洗浄の記録は全て王宮の帳簿からは消されている。
「となると、隠滅できなかった『現物』か『最後の記録』が残っているはずですわ」
 リベラは机の上に広げたマンルシア大陸の地図に、一本の線を引いた。ドンガンとの国境近くにある、放棄された要塞跡。魔物が出現するため、衛兵も近寄らない場所だ。
「ここですわね。魔族との戦争に備えて王子が私兵を鍛えていた、『ガルムの廃墟』。帳簿の一部、もしくは魔導記録装置が残っている可能性が高い」
 彼女はすぐさま、以前弁護したことがある駆け出しの元騎士(現在はサクラダ商会の調査員)を連れて、現場へ向かった。
 ◇ ◇ ◇
 ガルムの廃墟は、岩肌が露出し、ゴツゴツとした岩石と蔦に覆われた、陰鬱な場所だった。時折、下位の魔獣の鳴き声が響く。
「リベラ様、本当にここですか? 魔導砲の試験場だったという噂もあって……」
 元騎士の調査員が不安げに尋ねる中、リベラはまるでピクニックに来たかのような優雅さで、泥だらけの廃墟を探索していた。足元は泥で汚れないよう、特注の防水ブーツだ。
「ええ。第二王子は『自分の功績を誇示したい』という承認欲求が強いタイプ。完全な破壊ではなく、いつか『自分のもの』として利用できるように、証拠を『隠した』はずですわ」
 そして彼女の【真実の天秤】が、最も「嘘」と「隠蔽」の匂いが濃い場所を指し示していた。
 瓦礫を魔法で動かし、隠された地下室の扉を発見する。
 元騎士が警戒しながら奥へ進むと、隅に小さな魔導箱が隠されていた。
「ありました! これが、裏取引の記録ログです!」
「完璧ですわね!」
 リベラが勝利を確信した瞬間、背後から複数の声が響いた。
「動くな、弁護士! その証拠を渡せ!」
 現れたのは、第二王子直属の私兵団。全員が黒い鎧に身を包んだ精鋭で、闘気を僅かに纏っている。
「ちっ、こんな場所まで尾行していたか!」
「ご心配なく、リベラ様。ここは私が――」
「だめですわ! 闘気が強すぎる!」
 元騎士の調査員が剣を抜こうとするが、私兵団の一人が放った闘気の波動に吹き飛ばされる。
「くたばれ、小娘! 法律屋が首を突っ込むからこうなるんだ!」
 私兵団長が剣を抜き、リベラに向かって突進してきた。
 リベラは一瞬で状況を分析する。法廷ではない。弁護の席ではない。ここは「力」が全てを支配する場所だ。
「……私の趣味に反しますが、仕方ありませんわね」
 リベラは剣を避けるように半身を翻し、相手の力を利用して投げ飛ばす合気道の技を繰り出した。しかし、相手は鎧と闘気で防御しており、壁に激突しただけで体勢を立て直す。
「無駄だ! 法律家風情が!」
「まだですわ!」
 剣が振り下ろされる直前、その空間に、ありえないほどの重圧が走った。
「――ヒュッ」
 私兵団長は、心臓を鷲掴みにされたかのような声を発し、ピタリと動きを止めた。
 そこに、もう一つの声が響いた。
「うちの客に、無許可で触れるな」
 音もなく、瓦礫の上に一人の男が立っていた。
 黒いジャケットに深紅の裏地。指には赤黒い闘気を宿した指輪。
 鬼神 龍魔呂だ。
「な、なんだ貴様は!?」
 私兵団長が驚愕に声を上げるが、龍魔呂は一切視線も向けない。
「邪魔だ」
 龍魔呂はそう吐き捨てると、右手の指を静かに折り曲げ、親指で中指を弾く。
 それはデコピンにも満たない小さな動作だった。
 だが、その一瞬、極限まで圧縮された赤黒い闘気の弾丸が私兵団長の胸板を貫通した。
 鎧はへこみ、闘気は霧散。致命傷ではないが、団長は呻き声を上げ、意識を失って崩れ落ちた。
「ひっ……DEATH4か!?」
「逃げろ!」
 残りの私兵たちは、闘気を纏ったその男が「地下格闘場の伝説」にして「処刑人」であることを本能的に理解し、剣も捨てて蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 龍魔呂は一切、彼らを追わない。
 ただ、リベラを一瞥した。
「……こんな場所で、何を食ってる」
「あら、これは裏取引の記録です。あなたこそ、こんな所で何をなさっているんですか、龍魔呂さん」
 リベラは証拠の魔導箱を抱きしめ、息を整えながら問いかける。
「別に。……美味い飯を食いに来る奴が、ヘマして死んだら寝覚めが悪い」
 龍魔呂はそう言うと、来た時と同じく音もなく瓦礫の闇の中へ消えていった。
 リベラは証拠を抱え、しばらく彼の消えた方向を見つめた。
 彼の指弾一発の威力は、自分の合気道と全ての魔導技術を合わせたよりも遥かに強大だ。そして、彼はいつも自分の危機を、まるで偶然のように察知して現れる。
「……まあ、いいですわ。このお礼は、今夜特別メニューでたっぷり奢らせていただきましょう」
 リベラは勝利の証を懐にしまい、法廷での次なる戦いに向けて笑みを浮かべた。
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