悪役令嬢を救ったグレーな弁護士ですが、裏社会最強の鬼神店主に「俺の客だ」と胃袋ごと囲われました。天然ジゴロの溺愛角煮は法廷より甘すぎる

月神世一

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EP 25

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証人喚問、竜王デューク ~ラーメン屋台のオヤジ、吠える~
​ 神聖なる『竜の法廷』は、カオスな状況に陥っていた。
​「は、覇王……竜王デューク様!?」
「な、なぜこのような場所に!? しかもその格好は……!?」
​ 原告席の長老たちが、床に額を擦り付けて平伏する。
 無理もない。彼らが崇める竜族の頂点、伝説の古竜が、「麺屋 黄金」と書かれた前掛けをして、出前用のオカモチを提げて現れたのだから。
​「……五月蝿いぞ、雑魚ども」
​ デュークは長老たちを一瞥もしない。
 彼はカツカツと足音を立てて、ヴォルを抱く龍魔呂さんの元へ一直線に歩み寄った。
​「よう、龍魔呂。……小僧(ヴォル)の顔色はいいか?」
「ああ。今朝も快便だ」
「そうか、それは重畳」
​ デュークはオカモチをドカッと証言台に置くと、龍魔呂さんの腕の中にいるヴォルを覗き込んだ。
 強面で知られる竜王の顔が、見る見るうちにデレデレに崩れていく。
​「おお……なんと愛らしい……。この鱗の艶、瞳の輝き。まさしく龍魔呂の飯で育った証拠だ」
​ デュークが太い指を差し出すと、ヴォルは「きゃう!」と笑って、その指をぎゅっと掴み、あろうことか口に入れて甘噛みし始めた。
​「ひぃぃぃっ! 竜王様の御指を!?」
「無礼な! 今すぐ止めさせろ!」
​ 長老たちが悲鳴を上げるが、デュークは「ガハハ! 元気がいいな!」と嬉しそうだ。
​「よいか、古き竜たちよ。我は証言する」
​ デュークはヴォルに指を噛ませたまま、鋭い眼光で長老たちを射抜いた。
​「この人間たちは、ヴォルテクスの親として申し分ない。何より、我が『家庭教師(ラーメンの師匠)』としてバックについている」
「か、家庭教師……ですと?」
​ 長老たちがポカンとする。
​「そうだ。龍魔呂が身体を作り、リベラが知恵を授け、我が竜としての魔力制御とブレスの極意を教える。……これ以上の英才教育があるか?」
​ ぐうの音も出ない最強の布陣だ。
 しかし、リーダー格の長老が震えながら食い下がった。
​「し、しかし竜王様! 彼らは人間です! 寿命が違います! 数十年で死にゆく者に、永遠を生きる始祖竜様の孤独が癒やせましょうか!」
「……フン。相変わらず頭の硬い連中だ」
​ デュークは呆れたように鼻を鳴らし、証言台のオカモチを開けた。
​「言葉で言っても分からんか。……ならば、食ってみろ」
​ 湯気と共に取り出されたのは、数杯のラーメンだった。
 だが、いつもの屋台のラーメンではない。
 黄金色のスープからは、龍魔呂さんの特製・極上コンソメの香りが。そして麺には、デュークが練り上げた魔力入りの小麦が使われている。
​「これは……?」
「龍魔呂と我が共同開発した、『特製・竜神そば』だ。食えば分かる」
​ 長老たちは戸惑いながらも、竜王の命令には逆らえず、恐る恐る箸をつけた。
 麺を啜る。スープを飲む。
​ ――カッ!!
​ 長老たちの脳裏に、大宇宙が広がった。
​「な……なんだこれはぁぁぁ!?」
「麺が! 麺が生きているように喉を駆け抜ける! そしてこのスープの深み……数千年の歴史すら感じる重厚感!」
「美味い……! 悔しいが、我らの里の伝統食(ただの干し肉)とは比べ物にならん!!」
​ 長老たちが涙を流して麺を啜り始めた。
 頑固な価値観が、圧倒的な「旨味」によって破壊されていく。
​ デュークは腕組みをして、勝ち誇ったように笑った。
​「分かったか。この一杯には、龍魔呂の技術と、ヴォルへの想い、そして我の加護が詰まっている。……貴様らに、これほどの『熱量』を込めた食事が作れるか?」
​「うぅ……ぐぅぅ……」
​ 長老たちは丼を抱えて沈黙した。
 完敗だ。物理(フライパン)でも、理論(育児日記)でも、そして味(ラーメン)でも勝てない。
​ グランディス裁判長も、配られたラーメンを完食し、満足げに髭を拭った。
​「……判決を下す。始祖竜ヴォルテクスの親権は、現状通りリベラおよび龍魔呂に――」
​ 勝った。
 私がガッツポーズをし、龍魔呂さんが安堵の息を吐いた、その時だった。
​「……あう……」
「うえぇ……ん……」
​ 龍魔呂さんの腕の中で、ヴォルが顔を歪め始めた。
 法廷のどよめき、長老たちの叫び声、そして飛び交う強大な魔力の波動。
 それらの「ストレス」が、赤ちゃんの許容量を超えてしまったのだ。
​「……ヴォル? どうした?」
​ 龍魔呂さんが焦ってあやそうとするが、遅かった。
​ オギャアアアアアアアアアッ!!!
​ ヴォルが泣き出した。
 今までとは比較にならない、法廷全体を揺るがす絶叫。
​ ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュルルルルルッ!!!
​ 空間が歪む。
 神殿の柱が、壁が、そして私たち自身の時間が、急速に「巻き戻り」始めたのだ。
​「ま、マズイ! 魔力が暴走している!」
「時空が歪んでいるぞ! このままでは全員、存在が消滅する!」
​ デュークが叫ぶ。
 長老たちが「お、お助けを~!」と若返っていく(老人から中年へ)。
​ 私の視界も歪み、龍魔呂さんの姿が霞んでいく。
 世界が逆再生される恐怖。
​「ヴォル! 泣き止んで! パパとママはここにいるわ!」
「リベラッ! 手を離すな!」
​ 最強の夫婦に、最大のピンチが訪れた。
 時は戻せない。けれど、私たちは「未来」へ進まなければならないのだ!
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