25 / 25
EP 25
しおりを挟む
証人喚問、竜王デューク ~ラーメン屋台のオヤジ、吠える~
神聖なる『竜の法廷』は、カオスな状況に陥っていた。
「は、覇王……竜王デューク様!?」
「な、なぜこのような場所に!? しかもその格好は……!?」
原告席の長老たちが、床に額を擦り付けて平伏する。
無理もない。彼らが崇める竜族の頂点、伝説の古竜が、「麺屋 黄金」と書かれた前掛けをして、出前用のオカモチを提げて現れたのだから。
「……五月蝿いぞ、雑魚ども」
デュークは長老たちを一瞥もしない。
彼はカツカツと足音を立てて、ヴォルを抱く龍魔呂さんの元へ一直線に歩み寄った。
「よう、龍魔呂。……小僧(ヴォル)の顔色はいいか?」
「ああ。今朝も快便だ」
「そうか、それは重畳」
デュークはオカモチをドカッと証言台に置くと、龍魔呂さんの腕の中にいるヴォルを覗き込んだ。
強面で知られる竜王の顔が、見る見るうちにデレデレに崩れていく。
「おお……なんと愛らしい……。この鱗の艶、瞳の輝き。まさしく龍魔呂の飯で育った証拠だ」
デュークが太い指を差し出すと、ヴォルは「きゃう!」と笑って、その指をぎゅっと掴み、あろうことか口に入れて甘噛みし始めた。
「ひぃぃぃっ! 竜王様の御指を!?」
「無礼な! 今すぐ止めさせろ!」
長老たちが悲鳴を上げるが、デュークは「ガハハ! 元気がいいな!」と嬉しそうだ。
「よいか、古き竜たちよ。我は証言する」
デュークはヴォルに指を噛ませたまま、鋭い眼光で長老たちを射抜いた。
「この人間たちは、ヴォルテクスの親として申し分ない。何より、我が『家庭教師(ラーメンの師匠)』としてバックについている」
「か、家庭教師……ですと?」
長老たちがポカンとする。
「そうだ。龍魔呂が身体を作り、リベラが知恵を授け、我が竜としての魔力制御とブレスの極意を教える。……これ以上の英才教育があるか?」
ぐうの音も出ない最強の布陣だ。
しかし、リーダー格の長老が震えながら食い下がった。
「し、しかし竜王様! 彼らは人間です! 寿命が違います! 数十年で死にゆく者に、永遠を生きる始祖竜様の孤独が癒やせましょうか!」
「……フン。相変わらず頭の硬い連中だ」
デュークは呆れたように鼻を鳴らし、証言台のオカモチを開けた。
「言葉で言っても分からんか。……ならば、食ってみろ」
湯気と共に取り出されたのは、数杯のラーメンだった。
だが、いつもの屋台のラーメンではない。
黄金色のスープからは、龍魔呂さんの特製・極上コンソメの香りが。そして麺には、デュークが練り上げた魔力入りの小麦が使われている。
「これは……?」
「龍魔呂と我が共同開発した、『特製・竜神そば』だ。食えば分かる」
長老たちは戸惑いながらも、竜王の命令には逆らえず、恐る恐る箸をつけた。
麺を啜る。スープを飲む。
――カッ!!
長老たちの脳裏に、大宇宙が広がった。
「な……なんだこれはぁぁぁ!?」
「麺が! 麺が生きているように喉を駆け抜ける! そしてこのスープの深み……数千年の歴史すら感じる重厚感!」
「美味い……! 悔しいが、我らの里の伝統食(ただの干し肉)とは比べ物にならん!!」
長老たちが涙を流して麺を啜り始めた。
頑固な価値観が、圧倒的な「旨味」によって破壊されていく。
デュークは腕組みをして、勝ち誇ったように笑った。
「分かったか。この一杯には、龍魔呂の技術と、ヴォルへの想い、そして我の加護が詰まっている。……貴様らに、これほどの『熱量』を込めた食事が作れるか?」
「うぅ……ぐぅぅ……」
長老たちは丼を抱えて沈黙した。
完敗だ。物理(フライパン)でも、理論(育児日記)でも、そして味(ラーメン)でも勝てない。
グランディス裁判長も、配られたラーメンを完食し、満足げに髭を拭った。
「……判決を下す。始祖竜ヴォルテクスの親権は、現状通りリベラおよび龍魔呂に――」
勝った。
私がガッツポーズをし、龍魔呂さんが安堵の息を吐いた、その時だった。
「……あう……」
「うえぇ……ん……」
龍魔呂さんの腕の中で、ヴォルが顔を歪め始めた。
法廷のどよめき、長老たちの叫び声、そして飛び交う強大な魔力の波動。
それらの「ストレス」が、赤ちゃんの許容量を超えてしまったのだ。
「……ヴォル? どうした?」
龍魔呂さんが焦ってあやそうとするが、遅かった。
オギャアアアアアアアアアッ!!!
ヴォルが泣き出した。
今までとは比較にならない、法廷全体を揺るがす絶叫。
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュルルルルルッ!!!
空間が歪む。
神殿の柱が、壁が、そして私たち自身の時間が、急速に「巻き戻り」始めたのだ。
「ま、マズイ! 魔力が暴走している!」
「時空が歪んでいるぞ! このままでは全員、存在が消滅する!」
デュークが叫ぶ。
長老たちが「お、お助けを~!」と若返っていく(老人から中年へ)。
私の視界も歪み、龍魔呂さんの姿が霞んでいく。
世界が逆再生される恐怖。
「ヴォル! 泣き止んで! パパとママはここにいるわ!」
「リベラッ! 手を離すな!」
最強の夫婦に、最大のピンチが訪れた。
時は戻せない。けれど、私たちは「未来」へ進まなければならないのだ!
神聖なる『竜の法廷』は、カオスな状況に陥っていた。
「は、覇王……竜王デューク様!?」
「な、なぜこのような場所に!? しかもその格好は……!?」
原告席の長老たちが、床に額を擦り付けて平伏する。
無理もない。彼らが崇める竜族の頂点、伝説の古竜が、「麺屋 黄金」と書かれた前掛けをして、出前用のオカモチを提げて現れたのだから。
「……五月蝿いぞ、雑魚ども」
デュークは長老たちを一瞥もしない。
彼はカツカツと足音を立てて、ヴォルを抱く龍魔呂さんの元へ一直線に歩み寄った。
「よう、龍魔呂。……小僧(ヴォル)の顔色はいいか?」
「ああ。今朝も快便だ」
「そうか、それは重畳」
デュークはオカモチをドカッと証言台に置くと、龍魔呂さんの腕の中にいるヴォルを覗き込んだ。
強面で知られる竜王の顔が、見る見るうちにデレデレに崩れていく。
「おお……なんと愛らしい……。この鱗の艶、瞳の輝き。まさしく龍魔呂の飯で育った証拠だ」
デュークが太い指を差し出すと、ヴォルは「きゃう!」と笑って、その指をぎゅっと掴み、あろうことか口に入れて甘噛みし始めた。
「ひぃぃぃっ! 竜王様の御指を!?」
「無礼な! 今すぐ止めさせろ!」
長老たちが悲鳴を上げるが、デュークは「ガハハ! 元気がいいな!」と嬉しそうだ。
「よいか、古き竜たちよ。我は証言する」
デュークはヴォルに指を噛ませたまま、鋭い眼光で長老たちを射抜いた。
「この人間たちは、ヴォルテクスの親として申し分ない。何より、我が『家庭教師(ラーメンの師匠)』としてバックについている」
「か、家庭教師……ですと?」
長老たちがポカンとする。
「そうだ。龍魔呂が身体を作り、リベラが知恵を授け、我が竜としての魔力制御とブレスの極意を教える。……これ以上の英才教育があるか?」
ぐうの音も出ない最強の布陣だ。
しかし、リーダー格の長老が震えながら食い下がった。
「し、しかし竜王様! 彼らは人間です! 寿命が違います! 数十年で死にゆく者に、永遠を生きる始祖竜様の孤独が癒やせましょうか!」
「……フン。相変わらず頭の硬い連中だ」
デュークは呆れたように鼻を鳴らし、証言台のオカモチを開けた。
「言葉で言っても分からんか。……ならば、食ってみろ」
湯気と共に取り出されたのは、数杯のラーメンだった。
だが、いつもの屋台のラーメンではない。
黄金色のスープからは、龍魔呂さんの特製・極上コンソメの香りが。そして麺には、デュークが練り上げた魔力入りの小麦が使われている。
「これは……?」
「龍魔呂と我が共同開発した、『特製・竜神そば』だ。食えば分かる」
長老たちは戸惑いながらも、竜王の命令には逆らえず、恐る恐る箸をつけた。
麺を啜る。スープを飲む。
――カッ!!
長老たちの脳裏に、大宇宙が広がった。
「な……なんだこれはぁぁぁ!?」
「麺が! 麺が生きているように喉を駆け抜ける! そしてこのスープの深み……数千年の歴史すら感じる重厚感!」
「美味い……! 悔しいが、我らの里の伝統食(ただの干し肉)とは比べ物にならん!!」
長老たちが涙を流して麺を啜り始めた。
頑固な価値観が、圧倒的な「旨味」によって破壊されていく。
デュークは腕組みをして、勝ち誇ったように笑った。
「分かったか。この一杯には、龍魔呂の技術と、ヴォルへの想い、そして我の加護が詰まっている。……貴様らに、これほどの『熱量』を込めた食事が作れるか?」
「うぅ……ぐぅぅ……」
長老たちは丼を抱えて沈黙した。
完敗だ。物理(フライパン)でも、理論(育児日記)でも、そして味(ラーメン)でも勝てない。
グランディス裁判長も、配られたラーメンを完食し、満足げに髭を拭った。
「……判決を下す。始祖竜ヴォルテクスの親権は、現状通りリベラおよび龍魔呂に――」
勝った。
私がガッツポーズをし、龍魔呂さんが安堵の息を吐いた、その時だった。
「……あう……」
「うえぇ……ん……」
龍魔呂さんの腕の中で、ヴォルが顔を歪め始めた。
法廷のどよめき、長老たちの叫び声、そして飛び交う強大な魔力の波動。
それらの「ストレス」が、赤ちゃんの許容量を超えてしまったのだ。
「……ヴォル? どうした?」
龍魔呂さんが焦ってあやそうとするが、遅かった。
オギャアアアアアアアアアッ!!!
ヴォルが泣き出した。
今までとは比較にならない、法廷全体を揺るがす絶叫。
ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュルルルルルッ!!!
空間が歪む。
神殿の柱が、壁が、そして私たち自身の時間が、急速に「巻き戻り」始めたのだ。
「ま、マズイ! 魔力が暴走している!」
「時空が歪んでいるぞ! このままでは全員、存在が消滅する!」
デュークが叫ぶ。
長老たちが「お、お助けを~!」と若返っていく(老人から中年へ)。
私の視界も歪み、龍魔呂さんの姿が霞んでいく。
世界が逆再生される恐怖。
「ヴォル! 泣き止んで! パパとママはここにいるわ!」
「リベラッ! 手を離すな!」
最強の夫婦に、最大のピンチが訪れた。
時は戻せない。けれど、私たちは「未来」へ進まなければならないのだ!
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします
葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。
しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。
ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。
ユフィリアは決意するのであった。
ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。
だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!
野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。
私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。
そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
【完結】貴族の愛人に出ていけと寒空にだされたけど、懐は温かいよ。
BBやっこ
恋愛
貴族の家で下働きをしていたアタシは、貧乏な平民。別にさ、おまんま食べれる給金を得られてるんだ。
寒い日は身体に堪えるけど、まああまあ良い職場関係だったんだよ。
あの女が愛人におさまる前まで、ね。
以前は奥さまがこの家に居られてたけど、療養でご実家にお戻りになって。
旦那さまが愛人を家に入れたら、職場の人間達があげつってドロドロよお。
そんなの勘弁だったけど。とうとうアタシが邪魔になったようで。
「小賢しい」と離婚された私。国王に娶られ国を救う。
百谷シカ
恋愛
「貴様のような小賢しい女は出て行け!!」
バッケル伯爵リシャルト・ファン・デル・ヘーストは私を叩き出した。
妻である私を。
「あっそう! でも空気税なんて取るべきじゃないわ!!」
そんな事をしたら、領民が死んでしまう。
夫の悪政をなんとかしようと口を出すのが小賢しいなら、小賢しくて結構。
実家のフェルフーフェン伯爵家で英気を養った私は、すぐ宮廷に向かった。
国王陛下に謁見を申し込み、元夫の悪政を訴えるために。
すると……
「ああ、エーディット! 一目見た時からずっとあなたを愛していた!」
「は、はい?」
「ついに独身に戻ったのだね。ぜひ、僕の妻になってください!!」
そう。
童顔のコルネリウス1世陛下に、求婚されたのだ。
国王陛下は私に夢中。
私は元夫への復讐と、バッケル伯領に暮らす人たちの救済を始めた。
そしてちょっとした一言が、いずれ国を救う事になる……
========================================
(他「エブリスタ」様に投稿)
婚約破棄されたスナギツネ令嬢、実は呪いで醜くなっていただけでした
宮之みやこ
恋愛
細すぎる一重の目に、小さすぎる瞳の三百眼。あまりの目つきの悪さに、リュシエルが婚約者のハージェス王子に付けられたあだ名は『スナギツネ令嬢』だった。
「一族は皆美形なのにどうして私だけ?」
辛く思いながらも自分にできる努力をしようと頑張る中、ある日ついに公の場で婚約解消を言い渡されてしまう。どうやら、ハージェス王子は弟のクロード王子の婚約者であるモルガナ侯爵令嬢と「真実の愛」とやらに目覚めてしまったらしい。
(この人たち、本当に頭がおかしいんじゃないのかしら!?)
だってお顔がとてもよろしいので
喜楽直人
恋愛
領地に銀山が発見されたことで叙爵されたラートン男爵家に、ハーバー伯爵家から強引な婿入りの話がきたのは爵位を得てすぐ、半年ほど前のことだった。
しかし、その婚約は次男であったユリウスには不本意なものであったようで、婚約者であるセリーンをまったく顧みることはなかった。
ついには、他の令嬢との間に子供ができたとセリーンは告げられてしまう。
それでもついセリーンは思ってしまうのだ。
「あぁ、私の婚約者は、どんな下種顔をしていてもお顔がいい」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる