『元イージス艦長、異世界でゴミを拾う 〜善行ポイントで現代兵器をガチャ排出。最強の傭兵団は金曜日にカレーを食べる〜』

月神世一

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EP 34

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龍魔呂、ホストの才能開花、またはシュワシュワの恋心
 屋台『イージス』の評判は、口コミで徐々に広がりつつあった。
 特に「出汁(ダシ)」という未知の味は、冒険者や衛兵といった肉体労働者層に深く刺さった。
 だが、坂上真一は満足していなかった。
 客単価を上げるには、料理だけでなく「酒」が必要だ。それも、他店にはない特別な一杯が。
「龍魔呂。今日からお前はホール兼『バーテンダー』だ」
「あぁ? 酒なら樽からエールを注ぐだけだろ」
「違う。……カクテルを作るんだ」
 坂上は、昨日稼いだポイントを投入して召喚したアイテムを並べた。
 『強炭酸水(500mlペットボトル)』の山。
 そして、瑞々しい黄色い果実、『レモン』だ。
「この世界の酒は、ぬるくて甘ったるいエールやワインばかりだ。……そこで、これだ」
 坂上は、地元の安酒(度数の高い蒸留酒)をグラスに注ぎ、炭酸水を満たし、最後にレモンを搾り入れた。
 シュワワワ……。
 気泡が弾ける涼やかな音が響く。
「名付けて『イージス特製・レモンサワー』。……この刺激(キック)は、疲れた現代人……いや、異世界人の脳髄に突き刺さるはずだ」
 ***
 その夜。
 屋台に、少し変わった客層が現れた。
 鎧を脱ぎ、私服に着替えた女性騎士の三人組だ。
 彼女たちは仕事のストレスを酒で発散しようと、新しい店を探していたらしい。
「いらっしゃいませ。……お仕事、お疲れ様です」
「あら、いい男(ダンディ)な店主ね。……とりあえず、何か強いお酒を」
 リーダー格の女性が気だるげに注文する。
 坂上が龍魔呂に目配せした。
「龍魔呂、サワーだ」
「……チッ。面倒くせぇ」
 龍魔呂が、不機嫌そうに前に出た。
 その凶悪な目つきに、女性客たちがビクリと身を引く。
 だが、次の瞬間、彼女たちは目を奪われた。
 龍魔呂がレモンを片手で掴む。
 ブシュッ!!
 スクイーザー(絞り器)など使わない。
 鋼鉄をも砕く握力で、レモンを一瞬で握り潰したのだ。
 ほとばしる果汁。フレッシュな香りが弾ける。
 彼はそれを、氷(ルナの氷魔法製)と焼酎が入ったグラスに注ぎ、炭酸水を乱暴に加えた。
 マドラーで一回だけ、カランと混ぜる。
「……ほらよ。ビタミンだ」
 ドン!
 グラスが目の前に置かれた。
 黄金色の液体の中で、炭酸の泡が激しく踊っている。
「な、何これ……シュワシュワ言ってるわ」
「いいから飲め。……顔色が悪いぞ、オバサン」
 龍魔呂の暴言。
 普通ならクレーム案件だ。
 だが、リーダーの女性は、一口飲んで目を見開いた。
 ゴキュッ、シュワッ!
「……ッ!!」
 喉を駆け抜ける衝撃。
 炭酸の刺激と、レモンの鮮烈な酸味が、仕事で淀んだ胃袋を洗浄していくようだ。
 そして、後から来るアルコールの熱。
「美味しい……! こんなお酒、初めて……!」
「それに、今の聞いた? 『顔色が悪い』って……」
 女性騎士たちが顔を見合わせた。頬が紅潮している。
「あんな怖い顔して、私たちの体調を気遣ってくれたの……?」
「口は悪いけど、レモンを絞る手つきはあんなに力強くて……」
「これって……『ギャップ萌え』!?」
 彼女たちの瞳に、ハートマークが点灯した。
 日頃、堅苦しい騎士団で、上司にこき使われ、部下には厳しく接している彼女たち。
 求めていたのは、優しさだけではない。
 強引で、少し乱暴で、でも芯のある男の「支配(サービス)」だったのだ。
「お兄さん! おかわり!」
「私にはもっと濃い目を!」
「私を叱って!」
 矢継ぎ早の注文。
 龍魔呂は眉間の皺を深くし、心底ウザそうに吐き捨てた。
「あぁ? 飲みすぎだ、ババア共。……水でも飲んで頭冷やせ」
 ドン!
 チェイサー(水)が叩きつけられる。
 
「キャーッ! 冷たいお言葉!」
「ご褒美だわ!」
「龍魔呂様ぁ!」
 完全に火がついた。
 彼女たちはチップを弾み、次々とレモンサワーを飲み干していく。
 その光景を眺めながら、坂上は震える手で電卓(ウィンドウ)を弾いていた。
(……凄い。レモンサワーの原価率は低いのに、チップだけで売上が3倍になっている……!)
 龍魔呂の不機嫌(ナチュラル・塩対応)が、最強の接客スキルに化けた瞬間だった。
「オイ、オッサン! 代われ! 俺はこういうのは苦手なんだよ!」
「頑張れ、龍魔呂。彼女たちの明日の活力が、お前の握力にかかっている」
「ふざけんなァァ!」
 その夜、屋台イージスには、黄色い歓声と、レモンが握り潰される破裂音が深夜まで響き渡った。
 「叱ってくれるバーテンダーがいる店」という新しい伝説が、ここに爆誕したのである。
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