『元イージス艦長、異世界でゴミを拾う 〜善行ポイントで現代兵器をガチャ排出。最強の傭兵団は金曜日にカレーを食べる〜』

月神世一

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第二章 イージス温泉そして大爆死

EP 10

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温泉卵カレーと反省会、または二度と牌は握らない
 チュドォォォォォン……という爆発音の余韻が、まだ耳に残っている。
 屋台『イージス』の店内は、黒い煤(すす)でコーティングされていた。
 天井には穴が空き、そこから星空が見えている。
 そして、テーブルの周りには、アフロヘアーになり、真っ白な灰になった三人が座り込んでいた。
「……おやっさん」
 龍魔呂が、口からポスッと煙を吐きながら呟いた。
「……何も言うな」
 坂上真一は、割れた眼鏡を直そうともせず、虚空を見つめていた。
 言葉が出ない。
 イカサマでも、技術の差でもない。
 ただ、天に愛されただけの「理不尽」に、完膚なきまでに叩きのめされた敗北感。
「私の……城が……」
 魔王ラスティアは、テーブルに突っ伏して震えていた。
 魔王城『天蓋』。歴代魔王が守り抜いてきた難攻不落の要塞が、麻雀一回で消し飛んだのだ。
 もう魔界に帰れない。ホームレス魔王だ。
「ふぇぇ、みんな真っ黒ですねぇ」
 唯一無傷のルナが、瓦礫の中からひょっこりと現れた。
 その手には、奇跡的に無事だった羊皮紙――魔王城の権利書――が握られている。
「あ! それ!」
「私の権利書!」
 龍魔呂とラスティアが飛びつこうとするが、ルナはひらりと躱した。
「だーめですっ! これは私の勝ち分ですよぉ」
 ルナは権利書をヒラヒラさせながら、悪気のない笑顔で言った。
「返してほしかったら……龍魔呂さんは、毎日私に『壁ドン』してください! 真一さんは、毎日美味しい『おでん』を作ってください! ラスティアさんは……えっと、一緒に女子会しましょう!」
 城の価値を、壁ドンとおでんと女子会で等価交換しようとする少女。
 あまりの無欲さ(というか価値観の崩壊)に、大人三人は脱力した。
「……はぁ。勝てるわけがねぇ」
「……完敗だ」
 坂上はよろりと立ち上がった。
 腹が減った。
 魂が削れるような勝負の後は、空っぽの胃袋を埋めるに限る。
「……食うぞ。今日は金曜日だ」
 坂上は、店の奥のカマドに向かった。
 鍋の中には、昨日から仕込んでおいたカレーがある。
 そして、彼はザルを持って裏の温泉へと走った。
 数分後。
 戻ってきた坂上の手には、ほかほかの卵があった。
 源泉の温度(約70度)でじっくり20分茹でた、特製『温泉卵』だ。
 皿に盛られたカレーライス。
 その中央に、殻を割った温泉卵を落とす。
 とろり。
 半熟の白身と、濃厚な黄身が、スパイシーなルーの上に広がる。
「……食おう」
 四人はテーブルを囲んだ。
 スプーンで黄身を崩し、ルーと絡めて口に運ぶ。
 パクり。
「……!」
 龍魔呂が目を閉じた。
 スパイシーな刺激を、卵のまろやかさが優しく包み込む。
 爆発で傷ついた心に、温かい何かが染み渡っていく。
「……うめぇな」
「……ああ」
 坂上も噛み締めた。
 日常の味だ。
 確率だの役満だの、そんな計算高い世界から離れた、ただそこにある確かな美味さ。
「……美味しいわ」
 ラスティアが涙目で呟く。
 城は失った(実質、ルナの人質だが)けれど、この温かいカレーと、隣にいる不器用な男たちの体温は、城の宝物庫よりも価値がある気がした。
「ふふっ、みんなで食べると美味しいですね!」
 ルナも口の周りを黄色くしながら笑っている。
 彼女がスプーンを置き、無邪気に言った。
「麻雀、キラキラして面白かったですぅ! ご飯食べたら、もう一回やります?」
 その瞬間。
 坂上、龍魔呂、ラスティアの三人が、食い気味に、そして心の底からの叫びをハモらせた。
「「「二度とするかァッ!!!」」」
 怒号と共に、屋台の夜は更けていく。
 最強の傭兵団イージス。
 彼らは多くの伝説を作ったが、「麻雀だけは絶対にやらない」という鉄の掟が、この日新たに追加されたのである。
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