『元イージス艦長、異世界でゴミを拾う 〜善行ポイントで現代兵器をガチャ排出。最強の傭兵団は金曜日にカレーを食べる〜』

月神世一

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第五章 大人様ランチ

EP 4

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太公望・坂上、または清流の主を求めて
​ ロイヤルハニー騒動が一段落した午後。
 坂上真一は、釣具(タックル)ボックスを肩にかけ、清々しい顔で川辺に立っていた。
​「……やはり、男の休日は水辺に限る」
​ 彼が選んだポイントは、イージス温泉郷の裏を流れる清流『ルミナス川』の支流だ。
 雪解け水を含んだ透明度の高い水面。川底の小石までくっきりと見える。
​「オッサン。魚なら市場で買えばいいだろ。なんでわざわざ……」
​ 後ろをついてきた龍魔呂が、あくびを噛み殺しながら不満を漏らす。
 彼は「待つ」という行為が死ぬほど嫌いなのだ。
​「甘いな、龍魔呂。市場の魚は鮮度が落ちている」
​ 坂上は、ウィンドウから召喚したばかりの新品の釣竿――『カーボン製・超硬調ロッド』を愛おしそうに撫でた。
​「おでんの新ネタ『つみれ』を作るには、身の弾力(プリプリ感)が命だ。……そのためには、釣りたての活きのいい魚でなければならん」
「ふぇぇ、お魚さん釣るんですかぁ? かわいそうじゃないですか?」
​ ルナが川を覗き込む。
 彼女の影に驚いて、小魚たちがサッと散っていく。
​「ルナ君、静かに。魚は足音に敏感だ」
「はーい……」
​ 坂上はルアーケースを開けた。
 色とりどりの疑似餌(ルアー)が並んでいる。
 彼が選んだのは、銀色に輝くミノー(小魚型ルアー)。
​「狙うは、この川の主(ヌシ)クラスだ。……雑魚には用はない」
​ シュッ!
 坂上が竿を振る。
 ルアーが美しい放物線を描き、対岸の淀みに着水した。
 完璧なキャスト。
​ リールを巻く。
 クルクル……。
 水中でルアーが、弱った小魚のような動きを演出する。
​「……来ねぇな」
「静かにしろ。殺気を消せ」
​ 龍魔呂が貧乏ゆすりをするたびに、地面が微振動して魚が逃げる。
 坂上はため息をつき、極限まで集中力を高めた。
​ 釣りとは、魚との知恵比べだ。
 相手の食欲、縄張り意識、そして好奇心を刺激する。
 それは、戦場における心理戦にも似ている。
​(……いるはずだ。この深み、この水流。大物が潜むには絶好のポイント)
​ 10分、20分。
 静寂が流れる。
 ルナは飽きて蝶々を追いかけ始め、龍魔呂は岩の上で昼寝を始めた。
​ その時。
​ ググッ……!
​ 竿先に、重たい感触が伝わった。
 根掛かり(ゴミに引っかかった)ではない。
 生物の反応だ。それも、とてつもなく重い。
​「……食った」
​ 坂上の目が鋭く光った。
 彼は一呼吸置き、渾身の力で竿をあおった。
​「フィッシュ!!」
​ ズドォォォォン!!
​ 水面が爆発した。
 水しぶきと共に、銀色の巨大な魚影が躍り出る。
 デカい。
 1メートル……いや、2メートルはあるか。
​「な、なんだアレ!? 魚か!?」
​ 飛び起きた龍魔呂が目を剥く。
 かかったのは、ただの川魚ではない。
 数百年の時を生き、魔力を蓄えて巨大化した淡水の王――『キング・サーモン(魔獣種)』だ。
​「デカい……! これなら最高のつみれができる!」
​ 坂上はリールを巻こうとするが、ドラグ(糸送り)が悲鳴を上げて逆回転する。
 ジジジジジジッ!!
 凄まじいパワー。カーボンロッドが「つ」の字に曲がり、今にも折れそうだ。
​「くっ……! パワーが違いすぎる……!」
「オッサン! 竿が折れるぞ!」
「手伝え龍魔呂! こいつは一人じゃ無理だ!」
​ 坂上の叫び。
 のんびりとした休日は一転、川の主とのデスマッチへと変貌した。
 釣り上げるのが先か、糸が切れるのが先か。
 男たちの意地と筋肉が試される。
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